さくさくっと進みます
戦場となった平原を越え、ルクイン砦に到着する。
大魔王軍がやったのか、かなり穴だらけのボロボロで、砦として機能しているのか怪しい。
けれど、現在急ピッチで復興中。
俺たちの姿を見た人が、ここは通れないととめに来るが、そこはガラナさんから受け取った書簡で一発だった。
この場で最も偉い人が出て来る。
「こんな時に上大陸に行きたいなんて正気か? お前ら。まぁ、ガラナ陛下の許可もあるし、別に通る分には構わんが、気を付けて行けよ」
言葉遣いは荒いが、俺たちの身を心配しているのは、なんとなく伝わってくる。
ついでに自己紹介も聞いたのだが、侯爵家当主で聖騎士らしい。
多分だけど、かなり上の地位の人じゃないだろうか?
でも、そうは見えない。
何故なら、侯爵家当主で聖騎士というだけじゃなく、精悍な顔付きの渋い系のおじさんなのだが、今の姿は作業着で土塗れ。
体格も良いので、寧ろ親方って呼びたくなる雰囲気だ。
「親方~! ここの梁を見てくれませんか~!」
「ちょっと待ってろ! 直ぐ行くから!」
いや、実際に呼ばれていた。
そこら辺を許容している辺り、器の大きさを感じる。
どうぞどうぞと、親か……現場監督に行って下さいと促して、俺たちはルクイン砦を越えて上大陸に入る。
―――
そこまでは順調だった。
でも、上大陸に入ってからは違う。
「なんでこんなに魔物が居るんだよ!」
思わず叫んでします。
それくらい、魔物との、大魔王軍とのエンカウント率が高かった。
少し進んでは鉢合わせ。少し進んでは鉢合わせるような状態。
⦅これで少ない方です。頑張って切り抜けて下さい。あっ、頭を下げて、視界に入った魔物の足をすくい上げて下さい⦆
セミナスさんの指示で、俺はどうにかこうにか魔物を相手に奮闘しているのだが、その間にエイトたちとアドルさんたちが一気に魔物を倒していた。
俺もそれぐらい出来るようになりたい。
ただ、エイトたちとアドルさんたちは、何やら戦い足りないと呟いている。
充分だと思うのは、俺だけだろうか?
そんな感じで次々と大魔王軍を相手にしているため、一日に進める距離は全然だった。
このペースで間に合うの?
⦅問題ありません。そもそも、大魔王軍の少ないルートを選んで進んでいますので⦆
これで? と言いたくなった。
それぐらい、大魔王軍と相対している。
そもそも、どうしてこんなに大魔王軍が居るのだろうか?
……上大陸だから?
⦅そうではありません。軍事国ネスは、こちら側の攻め手側。となると、大魔王軍は守り手側になりますので、当然備えています。また、今は戦闘直後ですので余計に……ですね⦆
なるほど。
それにしても、こうまで戦闘が続くと……なんか申し訳なくなってくる。
結局のところ、俺はまともに魔物を倒す力がないのだと。
力があれば俺が倒すべきようなところまで、エイトたちやアドルさんたちに任せてしまう。
「お気にするようでしたら、労いをお願いします」
「労い?」
俺の悩みを察したのか、エイトがそんな事を言い出した。
「……一応聞いておくけど、どんな労いを?」
「全身オイルマッサージを」
「うん。やらない」
即否定したが、話を聞いていたワンやツゥも参加する。
「主! 主! なら、あたいは絶対折れない木刀をくれ!」
「それは可能なんだろ……いや、物騒だな!」
「アキミチ様。私は大量の本と、それを入れるアイテム袋が欲しいです」
「それも可能なんだろうけど……高くない?」
いや、エイトは倫理的に不可能だけど、ワンとツゥは叶えようと思えば叶えられそうな気がする。
……でも、ワンのはやっぱり厳しいかな?
ツゥのも金銭面でちょっと……。
「なら、私は最高級ワインでももらおうかな」
「自分は新品の鎧でもお願いしましょうか」
「はいはーい! 私はインジャオと一緒に過ごせるリゾート地が欲しい!」
ここぞとばかりにアドルさんたちまで。
アドルさんとインジャオさんのは現実的に可能だと思うけど、ウルルさんのはえげつない。
リゾート地に行きたいじゃなくて、欲しい、だ。
まさかの土地を要求とは……。
こっちの地価ってどうなっているんだろう?
そもそも、そういうのがあるか知らないけど。
とりあえず、話半分で聞いておいた。
というか、なんでみんな、そんな実現不可能な事ばっかり要求してくるんだろうか。
中には可能なのもあるけど、大体は俺の出来る範囲を超えていると思うんだけど。
⦅マスターには私が付いていますからね。私なら出来ると思っているでしょう⦆
それはあるかもしれない。
……で、出来るの?
⦅出来るか出来ないかであれば、もちろん出来ます。なんの問題もありません。全て合法的に入手可能です⦆
合法ってところに怖さを感じる。
でも、セミナスさん頼りの要求というのなら納得だ。
⦅マスターが望み、ある程度の時間さえいただければ、全て手に入れますが?⦆
いえ、大丈夫です。
こういうのは、まず気持ちが大事だ。
気持ちがこもっていれば、どんなモノでも喜んでくれるはず……多分。
労いに関しては、今直ぐ出来る訳じゃないので、追々としておいた。
上大陸を進む上で、今問題なのは就寝時だ。
何しろ、現在ここは大魔王軍が占領している場所。
至るところに大魔王軍の魔物が居る。
火を焚けば目印になって見つかるし。
そんな危険なところで眠れる訳がない。
と思っていたのだが……。
「………………ご主人様……らめぇ……」
「……アキミチ様……お片付けを……」
「………………」
「……インジャオ……ちゅき……」
エイトとツゥ、アドルさんとウルルさんが、がっつり寝てやがる。
周囲の環境なんか関係ないとでもいうように。
……神経、図太くない?
「主。気にしてても仕方ねぇよ。襲われる時は襲われるんだ。そこを気にして休めないって方が不味い。悪循環だぜ」
「そうですよ。アキミチ。どんな状況でも、休める時があるのならしっかり休まないと」
見張りとして起きているワンとインジャオさんが、そう言ってきた。
確かにそうかもしれない。
ちゃんと休まないと、体が持たない。
「いざという時は任せな、主! あたいが抱えて逃げてやるよ!」
「あぁ、そういえば、最初の時に自分がアキミチを抱えましたね。懐かしい」
「なんだその話! 詳しく!」
仲が良いのは良い事だ、と思っておこう。
二人が言うように、休める時に休んでおいた方が良いのは確か。
異変があれば、セミナスさんが緊急連絡してくれると思うし。
⦅お任せ下さい⦆
それに、この中で一番体力ないの、俺だし。
おやすみなさ~い、と眠る。
そんな感じで進んでいき、セミナスさんの指示する方向に向かっていくと、ルクイン砦から更に北……荒廃した町に辿り着いた。




