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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第二章 竜とエルフ
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これは俺の責任ですか?

 翌朝。


「ハッ! 殺気!」


 一気に目覚めると同時に、ゴロゴロと転がって回避行動を取る。

 そのままベッドの上から落ちて頭を打った。

 痛がっていると、声がかかる。


「ほぅ。今のも避けるとは、感度も良いようだな」


 ニィ~っと笑みを浮かべ、ベッドの上で仁王立ちしているシャインさんが居た。

 寝間着なのか、タンクトップとショートパンツ姿で、片方の足が俺の寝ていたと思われるところにある。

 もしかして、避けなきゃ踏まれていたのか?


「………………」


 ………………人によってはご褒美だな。


「ん? 何だ、人の足をジッと見て………………ははぁ、なるほど。こんな朝から私の足に欲情しているのか?」

「起きてても寝言って言えるんだな」


 早朝マラソンは気持ち良かった。

 なんというか、心身が健康になりそうだ。

 後ろから怖いのが追いかけてきているけど。

 直ぐ捕ま……いや、あえて泳がせて体力が尽きるのを待っているのか!


 ……そして朝食時。

 汗だくでボロボロの疲労困憊な俺は、グロリアさんから差し出された、スポーツ飲料っぽい飲み物を飲みながら愚痴る。


「なん、で……朝っぱらから……こんな激し、い運動をしなきゃ、いけないんだ……はぁ~」

「そんなの決まってるだろう。私がアキミチを鍛えてやる事に決めたからだ」


 涼しい顔で朝からモリモリ食べているシャインさんが、そんな事を言ってきた。


「………………は?」

「アキミチはアドルたちにある程度鍛えられたようだが、まだまだそこらの有象無象とそう大差ない。特に攻撃が全く駄目なのは致命的だな。だからもっと体力を付けろ。そうすれば、回避や防御し続けて、勝機を掴む事が出来るかもしれないし、逃走も成功するかもしれない。何より生存率が上がる」

「言いたい事はなんとなくわかるけど、それなら別にシャインさんがしなくても。それこそ、アドルさんたちに体力中心でお願いすれば」

「それじゃ、私がつまらんだろ」


 俺も遠慮なく言っているけど、向こうもだな。

 ……いや、最初からか。

 シャインさんが遠慮している場面なんて見た事ない。


「大丈夫ですよ。私も一緒に頑張りますから」


 グロリアさんが、拳をグッと握る。

 うん。それは何の当てにもならないよね?

 そもそも、基礎能力が違うから、一緒に頑張るのは無理じゃないかな?


 まず間違いなくグロリアさんの方が上なのは確定として、一緒にする場合はどっちに合わせるの?

 俺だとグロリアさんにとっては低過ぎるだろうし、グロリアさんだと俺にとっては高過ぎると思うんだ。


 ……というか、そもそもの話、シャインさんが、俺かグロリアさんのどちらかに合わせるとは思えない。

 間違いなく、自分を基準に考えるだろう。

 はい、破綻。


 ………………。

 とりあえず、スポーツ飲料っぽいのを一気に飲み干し、一息吐く。


 ………………。

 コキコキと、軽く柔軟をして、体の調子を整える。


 ………………。

 ダッ! と玄関に行くと見せかけて、窓から脱出――!


 しようとすると、ふにゅっと柔らかいモノにぶつかった。


「逃げられると思ったのか?」

「ですよね~」


 シャインさんに捕まる。

 そのまま、俺の体力向上の特訓が始まった。


     ◇


 シャインさんが俺に課した特訓は、大きく分けると二つ。

 マラソンと組手だ。


 マラソンの方は、延々とエルフ村の周囲を走らされるという地獄。

 その間、シャインさんはグロリアさんを鍛えているのだが、俺が少しでも休もうとすれば、どこからかシャインさんが現れて追い回された。

 余計に疲れるので、大人しくペースを守って走り続けようと思う。


 組手の方は、基本的に俺は攻撃しない。

 シャインさんから繰り出される攻撃を、延々と回避したり防いだりし続ける。

 どうやら、スキル「回避防御術」の習熟を更に高めるためのようだ。


 シャインさん曰く、現状で補正はかからないけど、更に上手く使えるようになっておいて損はない、だそうだ。

 確かに。

 ただ、攻撃に遠慮がなくなったため、何度も気絶する羽目になった。


 その間、グロリアさんは軽く走って、あとは家事の方をやっている。

 その上、食事のあとは回避や防御の仕方、体の動かし方を丁寧に教えてくれた。


「攻撃ばっかしてるけど、シャインさんからそういうのは教わらないなぁ……」

「アキミチにはグロリアから説明した方がわかりやすいと思ったが、私から教わりたいのか? 勘で避けろ」


 なるほど。最後にモノをいうのは直感だという事か。

 ………………。

 ………………野性に目覚めろと?

 無理無理。

 どちらかと言えば俺は理性派だよ?


 そうして特訓を始めて数日。

 エルフ村の周囲を走っていると、アドルさんとラクロさんが現れ、俺を挟むようにして追走してきた。


「……何?」

「いや、ほら、元気でやっているだろうか? と」

「そうそう。エルフ村の生活はどうだね?」


 アドルさんとラクロさんは、申し訳なさそうな表情をしていた。

 多分、シャインさんを押し付けた罪悪感だろう。


「まぁ……ぼちぼち、かな」


 そう答えると、二人は「かはっ!」と何かを吐く真似をする。


「そういえば、二人だけ? インジャオさんとウルルさんは?」

「……まぁ、それはまぁ」

「……ねぇ」


 恋人には必要な二人の時間を過ごしている訳ね。

 三人揃って、フッ……と大人の笑みを浮かべる。

 そのまま何となく三人で走っていると、ふと思い出したので、足を止めた。

 二人も俺に合わせて足を止める。


「そういえば、ラクロさんは同じエルフだからわかるけど、アドルさんたちもシャインさんと面識があるんだ」

「ん? あぁ、あるぞ。魔王軍を上大陸に押し返した時に知り合ったのだ。まぁ、その前から名だけは知っていた。凄腕のエルフが居る、とな。実際、本気のシャインは凄いぞ」

「あぁ、エルフ一は間違いないが、この世界の中でも指折りの戦士だろう」

「へぇ~………………でも、二人はそんな人を俺に押し付けたんですね」

「「うっ!」」


 アドルさんとラクロさんが、俺から視線を逸らす。


「だって、ほら……なんというか、破天荒だし……」

「我が強いというか、無茶な事を平気でやろうとするし、やらせようとするし……」

「なるほど。あっ、そういえば、伝えるのを忘れていた事があるんですけど、俺が足を止めると、何故かシャインさんが現れるんですよね」

「「……え?」」

「愉快な話をしているじゃないか。ちょっと向こうで話そうか」


 逃がさないように、アドルさんとラクロさんの肩をガシッと掴むシャインさん。


「違う違う! 今のは違う!」

「嵌められた! 私たちは嵌められたんだ!」


 ずるずるとシャインさんに連れていかれた。

 ちょっとした意趣返しのつもりだったけど………………やり過ぎない事を祈っておこう。

 ……サボってると判断されれば俺も連れて行かれるので、再び走り出した。


     ◇


 こうして特訓する日々を過ごすのだが、俺は目の前の状況をどう受け入れれば良いのか困った。


 それは、エルフ村に着いて翌日の朝の光景。

 竜たちが奏でる軽快な音楽に合わせて、DDがダンスをしている。

 最初はDDだけだった。

 だが、日が経つごとに、エルフ村の男女問わず、段々と人数が増えていく。


 最初は誰もが思い思いに踊っていたのだが、一日経てば見違えるように上手くなっている。

 その身体能力とリズム感はどうなってんの?

 この世界の標準なのだろうか?


 そして、数日も経てば……一糸乱れぬ見事な集団ダンスを披露していた。

 終われば、互いのダンスを称えるように拳をぶつけ合い、そのまま狩りに向かったり、水汲みに行ったりと、普段の行動へと移っている。

 集団ダンスが、一日の始まりになっていた。


「いや~、普段使っていない筋肉も使うから、体に良いな」

「楽しく一日を始められますね」

「彼女に恰好良いところを見せる事が出来ました!」


 エルフたちからの感想を、一部抜粋。


 ………………。

 ………………。

 竜たちを引き止めるためだったとはいえ、興行大成功ではないだろうか?

 でも、なんか巻き込んだようで、エルフたちに対して申し訳ない気持ちになった。


     ◇


 それから数日後、エルフ村に兵士数人の来客があった、と教えられた。

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