運動している事に変わりない
翌朝。
俺、エイトたち、アドルさんたちで出発しようとした時、ガラナさんとクルジュさんが見送りに来てくれた。
「こちらが準備をしている間、上大陸に向かうと聞いてな。わかっているとは思うが、充分気を付けるように。下大陸とは違い、魔物が至るところに蔓延っているからな」
「はい」
「それと、念のためだが、これを渡しておこう」
そう言って、ガラナさんが手渡してきたのは書簡だった。
「これは?」
「簡単に言えば、この国でのアキミチの身の証を我が保証する、というような内容が書かれている。我の印も押しているので効力はある」
「は、はぁ」
えっと、あると助かるとは思うけど、これって必要なんだろうか?
「その顔はわかっていないな。考えてもみろ。魔物が蔓延っている上大陸に、誰もが簡単に行けると思うか?」
……まぁ、普通なら関所みたいなモノでも造るかな?
「理解したようだな。ルクイン砦にはそういう役割もある。偶に居るのだ。自分の力を過信して、上大陸に挑む者が」
「でも、ルクイン砦って、今は」
「もう復興を開始している。だからこその書簡だ。それを見せればすんなりと通してくれるだろう」
そっか。なら、ありがたく。
「まぁ、中にはルクイン砦は抜けず、こっそりと上大陸に向かった者たちも居るようだがな」
ガラナさんの視線がアドルさんたちにロックオン。
アドルさんたちは顔を逸らして口笛を吹く。
いや、吹けてない。空気が出ているだけ。
え? 俺ってそんな感じで迎えに来られていたの?
でも、迎えがなかったら死んでいました。
迎えに来てくれてありがとうございます。
なので、この件に関しては、俺はアドルさんたちの味方である。
「まぁ、今更どうこうしようとは思わないが」
ガラナさんの許しの言葉に、アドルさんたちがホッと安堵の息を吐く。
いやいや。そう露骨に反応しちゃ駄目でしょ。
自白しているようなモノだよ?
ただ、言った通り、ガラナさんは苦笑いを浮かべるだけだった。
そして、ガラナさんとクルジュさんに見送られながら、俺たちは出発する。
―――
まず向かうのは、王都の北にあるルクイン砦。
それと、上大陸に向かうのは馬車ではなく徒歩だった。
いや、それに文句は言わないけど、往復で間に合うのだろうか?
⦅問題ありません。その辺りの時間配分は抜かりなく⦆
ですよね。
セミナスさんが、そんな初歩的なミスをする訳がない。
という訳で移動は徒歩なのだが、ただ歩いていく訳ではなく、鍛錬も兼ねて走っている時もある。
特に俺は基礎体力をもっと付けた方が良いと思うので。
そうして進んでいくのだが、走っている時、俺は結構必死なのだが、アドルさんたちは余裕そうだ。
実際、走りながら会話している。
「それにしても、強くなるための刺激になるような事とはなんだろうな」
「そうですね。セミナスさんがそう言うのですから、かなりの出来事が待っているような気がします」
「楽しみだな~。大魔王軍戦は途中からだったし、全力で暴れられるような事が起こらないかな~」
「「それはそれで困るような」」
アドルさんたちから余裕が感じられる。
こっちは結構キツイのに。
俺にとってはランニングでも、アドルさんたちにとってはジョギングのようだ。
いや、ウォーキングかもしれない。
それぐらいの差を感じる。
何しろ、俺は汗だくだけど、アドルさんたちは汗一つ掻いていない。
俺もまだまだということがよくわかる。
それに――。
隣に視線を向ける。
「どうかしましたか? ご主人様。そんな熱視線をエイトに向けて」
いや、熱視線は向けていない。
余計な体力を使う訳にはいかないので、言葉にはしないけど。
「……なるほど。汗を拭いて……いえ、先ほどの熱視線から判断するに、舐めとって欲しいのですね」
「んな訳あるかぁ~!」
はぁ……はぁ……。
余計な体力を使ってしまった。
でも、今のは仕方ない。
否定しておかないと、エイトはやる。必ずやる。
良くも悪くも、エイトは有言実行タイプだ。
それに、そもそも俺は汗を拭いて欲しい訳じゃない、
個人的な意見かもしれないけど、汗を掻いた方が運動した感があるよね。
やった感というか、良い運動した、と少なからず達成感がある。
じゃなくて。
今はエイト……だけじゃなくて、ワンとツゥもだが、このペースに余裕で付いて来ていた。
アドルさんたち同様、汗一つ掻いていない。
「……エイト」
「なんでしょうか?」
「エイトたち、魔力、豊富、理解」
「ふむ。エイトたちの魔力が豊富なのはわかる」
ランニング中なので単語しか言えないが、エイトが勝手に翻訳してくれる。
正解なのは、素直に凄いと思う。
会話が聞こえたのか、ワンとツゥもこちらに近付いてくる。
「エイトたち、魔法使い型」
「ふむ。エイトたちは魔法使いタイプなのに」
「否、体力、不理解」
「どうしてそんなに体力があるのか理解出来ない」
こくりと頷く。
「それは至極簡単な理由です、ご主人様。エイトたちを造った神々に、必要だからと体力も備えられたのです」
同意するように、ワンとツゥも頷く。
確かに、大魔王軍を見たあとだと、魔力だけじゃなく体力も必要なのはよくわかる。
エイトたちは単独で大魔王軍を相手に出来るように造られたようだし。
「エイトたちを造った神々も言っていました。夜の」
「はい! アウトー!」
全力で叫んで、それ以上先を言わせない。
だろうね! そうだろうと思っていたよ!
エイトたちを造った神様たちが、まともな理由で何かを備えさせる訳がないって事を。
ただ、叫んだ事で一気に体力を使い切り、足がもつれて倒れ……なかった。
倒れる直前に、ワンに抱き抱えられた。
お姫様抱っこ……ではないかな?
うつ伏せだし。
「気を付けろよ。主」
「ふぁい」
「ぬぅ。身長さえあれば、エイトが間に合っていたのに」
「私でもよかったのですが、妹として姉に譲りました」
うん。色々言うのは良いけど、ジッと俺の様子を見ながら言わないで。
起きるのを手伝ってくれないだろうか?
というか、アドルさんたち。
こっちに気付こうか。
こちらを置いてサクサク先に行かないように。
あと、休憩下さい。
そんな感じで進んでいる内に、前回戦場となった平原に辿り着いた。




