変わったと思ったら、変わってない時もある
数日が経ち、エイトたちと王都観光中。
それがどのように準備されていたのかはわからない。
先頭は俺なんだけど、なんか誘導されているような、と疑問に思った時、花屋の店先に居た女性がいきなり歌い出して、その歌に合わせて踊りながら花に水を与え出す。
――雲一つない空 遮るモノが何もない視線
あなたへの想いで輝く瞳――
タイミングが良いというか、まるで計ったかのように、この瞬間から始まった。
最後にチョンと指先で花びらに触れて、弾けた水滴で小さな虹が出来上がる。
――もう 口を噤むことは出来ない
もう とめることは出来ない
口を開き 心を晒し 想いを伝える――
………………。
………………。
思わず足をとめて様子を窺うのだが、一連の動作が終わると同時に、何事もなかったかのように花屋の女性は仕事を普通に始めた。
幻だったんだろうか? 歌も幻聴?
不思議に思いつつ、歩を進める。
――雲一つない空 降り注ぐ光で輝く想い
照らされる想いの結晶――
今度は、窓拭きの仕事をしている男性だった。
先ほどまで普通に窓拭きをしていたのに、俺が通り過ぎようとするといきなり歌い出して、踊るように動いて窓を拭き始めたのだ。
――君に 聞いて欲しい
君に 答えて欲しい
二人の間にあるのが愛だと信じて――
歌い終わると、何事もなかったかのように元に戻るのも同じ。
………………。
………………。
引き返すか、別の道を進んだ方が良いのかもしれない。
そう思って後方に振り返ると、エイトたちが両腕を広げて行かせまいとガードしていた。
俺の進むべき道は前だけだと示すように。
なるほど。やっぱり既に関係者か。
一言、参加しても良いですか? と聞いて欲しかった。
駄目だ、と言われるのがわかっていたから、聞かなかったんだろうけど。
けれど、確かな事は一つある。
最後まで見ないと終わらないという事だ。
色々と諦めて、覚悟を固めるように息を吐き……歩を前に進める。
ここから進んだ先にあるのは、カフェに囲まれた円形の噴水広場。
きっとそこが終着点。
――I want to live together――
噴水広場に着こうとした時、左右から大勢の人が歌いながら交差していく。
まるでその奥、噴水前を隠すかのように。
実際、それは正しかった。
交差する人たちが居なくなって噴水前が見えるようになると、そこに一組の男女が居た。
噴水前に困惑している美女が立ち、その美女の前に男性が片膝をついている。
美女の方に見覚えはないけど、男性の方は……確か、裏ギルド殲滅の時に会った、騎士の隊長さん。
というか、この構図……プロポーズでもするかのようだ。
周囲のカフェに居る人たちも、なんかソワソワしているようだし……多分間違えていない。
「今まで待たせてすまない! 先の戦でようやく決心出来た! 今までこんな俺を支えてくれてありがとう! そして、これからも共に居て欲しい! 結婚してくれ!」
隊長さんの手には小さな箱があり、中身を美女に見せるように開かれている。
……指輪かな?
「……え? ……は、はい。喜んで」
最初は困惑していた美女だが、プロポーズされている事に気付くと涙ぐみ、笑みを浮かべて答える。
隊長さんは立ち上がり、美女を抱き締めた。
そして、軽快な音楽が周囲に鳴り響く。
視線を向ければ、噴水広場周辺の建物の屋上に、五体の竜が陣取って楽器を鳴らしている。
うん。ジースくんたちだね。
そう納得していると、周囲から、カフェから、次々と人が溢れ出てくる。
軽快な音楽に合わせて、軽快なダンスをしながら。
――雲一つない空 遮るモノがない彼からの視線
あなたへの想いで輝く瞳
もう 口を噤むことは出来ない
もう とめることは出来ない
口を開き 心を晒し 想いを伝える――
大声量で歌い始めた。
さっきまでの単発ではなく、一つの曲として。
――雲一つない空 降り注ぐ光で輝く想い
照らされる想いの結晶
君に 聞いて欲しい
君に 答えて欲しい
二人の間にあるのが愛だと信じて――
隊長さんと美女を祝福するようなダンスは、サビに入ると誰しもが二人に注目させるようなポーズを取ってとまる。
――I want to live together――
隊長さんが歌い出した。
さすが鍛えているだけあって、声量が半端ない。いや、関係ないか?
とりあえずわかる事は、プロポーズされた美女は再び困惑し出す。
「「「見つめていたい」」」
突然後ろからコーラスが入る。
誰かと確認するまでもなく、エイトたち。
うん。参加するだろうね。
――この世界で――
「「「いつまでも」」」
噴水の水が一気に噴き上がり、二人を祝福するような、キラキラと輝く雨となる。
エイトたちが前に出て、周囲の人たちと合流。
イントロが流れ、隊長さんを中心にしたダンスを始める。
曲はいつの間にかAメロに戻り、もう一度最初から。
というかこれ……ミュージカル的な?
「どうだ? アキミチよ」
いつの間にか、人化したDDが隣に立っていた。
とりあえず一言。
「えっと……DDは一緒に踊らなくて良いの?」
「うむ。実はな、これまで自らのダンスレベルを上げつつ、興行を行っている内に目覚めたのだ。教える喜びに」
えぇ……。
「今回は、その成果を外から見たくなってな。だから、参加はしていない」
そうきたかぁ……。
これも成長という事で良いのだろうか?
「それに、あのダンスの主役は、あの男だ。華を持たせるのも一興だ」
いやいや、どうしたDD。
そんな事を思うような竜でしたっけ?
興行を繰り返す内に、本当に成長しちゃったの?
旅が人を成長させるように。
俺の中でDDの株が相当上がって。
「やっぱ無理! 私も踊る!」
そう言って、DDは噴水広場に駆けていって、一緒に踊り出した。
うんうん。やっぱりDDはそうじゃないと。
そして、曲が終わると同時に全員がポーズを決めて、噴水が今日一番の噴き上げを見せた。
歓声が上がり、ハイタッチやハグが交わされていく。
周囲が盛り上がっている中、プロポーズされた美女は未だ困惑中。
どういう事だったのか、隊長さんに詰め寄っている。
確かに、良いダンスと歌だった。
こういう幸せを祝うようなのって良いよね。
だからこそ、一つ言いたい。
……こういうのは、俺も交ぜてよ。
とりあえず、ダンスと歌、それと隊長さんの幸せを願って、大きな拍手を送った。




