これからも一緒に頑張りましょう
アドルさんたちには、晩御飯前に会えた。
というか、エイトが俺、ワンがインジャオさん、ツゥが魔王の役で、俺が気絶してからどういう言い合いがあって、どういう攻防があったのかの再現を見ている間に、アドルさんたちが部屋に来たのだ。
ちなみに、再現の情報提供は、インジャオさん → ウルルさん →エイトたち、である。
その時に、ツゥがは自らアドルさんたちに紹介を済ませたそうだ。
……神造生命体。皆、ツゥを基準にすれば良いのに。
「どうした? 先ほどから黙っているが、セミナスさんと何か話しているのか?」
「あっ、いえ、大丈夫です」
テーブルを挟んで対面に座るアドルさんの言葉で我に返る。
アドルさんの隣にインジャオさんも座っているのだが、ウルルさんはエイトたちと何やら楽しくお喋りしていた。
女性は女性たちで、色々話す事があるんだろう。
「とりあえず、まずはインジャオさん。助けていただいて、ありがとうございます」
「いやいや、気にしなくて良いよ。自分の因縁の相手だしね。寧ろ、DD殿が迎えに来て、訳もわからず連れて行かれた先が戦場ってだけではなく、アキミチが魔王を相手にしている事の方が衝撃的でしたよ」
「それはまぁ……なんか流れといいますか」
俺もセミナスさんも、まさかここで直接魔王と相対する事になるとは思っていなかったというか、阻害されて無理だったんだよね。
生き残ったから笑い話に出来るけど、思い返せばよく無事だったと怖くなる。
「それがよくわからんのだ。そもそも、獣人国を出発してから、何がどうなってホムンクルスが一人増え、大魔王軍と戦う事になったのだ? 何やら、戦いの前にこの国の問題も解決したそうだが」
「えっと……」
アドルさんだけじゃなく、インジャオさんも聞きたそうにしている。
ウルルさんは……今エイトたちが話しているっぽい。
「それじゃ、割合は?」
「夕食も近いし、大雑把に、8。事細かく、2。くらいだな」
なるほど。
そんな感じで、アドルさんたちと一旦分かれてからの事を教えていく。
………………。
………………。
「という感じです」
「なるほどな。色々言いたくはあるが、必要な事はセミナスさんが言っているだろう。なら、私としては、EB同盟再強化のためにも動いてくれたようだし、感謝を伝えよう。ありがとう」
「いえいえ。ところで」
アドルさんの言葉に頭を下げたあと、インジャオさんに視線を向ける。
「インジャオさんからの鍛錬を再開したいところなんですが……」
「もちろん構わないよ」
「本当にお願いはしたいんです。でも、セミナスさんが言うには、インジャオさん自身も強くなる必要があるんですよね?」
「……そうだね。魔王……ヘルアトの強さは、体感でしかないけど自分より上だ。今のままでは勝てないという事がわかりました」
「だったら、そっちを優先してくれませんか?」
俺の言葉に、インジャオさんは少しだけ考える。
「……良いのかい? アキミチも強くなる必要があると思うけど?」
「それはそうですけど、俺が強くなるより、インジャオさんが強くなる方が良いと思うんです。だって……魔王とやり合うつもりなんですよね?」
「そうだね。それは譲れない」
インジャオさんの意志は固い。
だったら、俺はそれを応援するだけ。
俺の鍛錬に関わって、インジャオさんが望むだけの強さを得られなくなる状況は回避したい。
「だったら、まずはインジャオさん自身が強くなる事を優先して下さい」
「……ごめんね。でも、助かるよ」
謝る必要なんてありませんよ。
俺とインジャオさんの仲じゃないですか。
「なら、私がアキミチを鍛えれば良いのか?」
「いえ、アドルさんもインジャオと同じですよね? 寧ろ、インジャオさんの今の強さを知っているからこそ、相対的に魔王の強さを察して、強さを求めているはず」
そう指摘すると、アドルさんはその通りだと頷く。
「そうだな。充分強くなったと思っていたが、まだ足りないようだ。だが、私が狙いとしている魔王と相対するまで猶予はあるはず」
まぁ、そうそう魔王と出会う訳がない。
「俺もそう思いますので、アドルさんも自分の鍛錬を優先して下さい。……もちろん、ウルルさんも」
ウルルさんが、自分も自分もと自分を指差していたので、言葉を付け足しておく。
「すまんな。助かる。だが、それだとアキミチはどうするのだ?」
「俺は、まぁ、セミナスさんが居るので」
そう言うと、それはそうだな、とアドルさんとインジャオさんが納得する。
「あっ、そういう事なら、アドルさんたちが強くなるための行動を、セミナスさんにお願いしましょうか?」
「「………………」」
俺の提案に、アドルさんとインジャオさんが黙る。
視線を他に向ければ、エイトたちがウルルさんを取り押さえていた。
もしかして逃げようとしていた?
どうしてそうなったのかを考えていると、アドルさんが尋ねてくる。
「……一つ聞きたいのだが、変な事はしないよな? 人道的な範囲内だよな?」
そう問われると俺も不安になるので、尋ねる。
セミナスさん、どうなの?
⦅今ウインドウショッピングが良いところなのですが……まぁ、何を以って人道的なのか。線引きとなる基準の線は曖昧であり、それはそれぞれ心の中で判断する事です⦆
明言を避けた辺りに怖さを感じる。
なので、この怖さを共有しようとそのまま伝え、最後に俺はニッコリ笑顔で付け足す。
「皆一緒なら、怖くありませんよ」
「「………………」」
アドルさんとインジャオさんが再び黙った。
それと、今は見えないけど、後ろでウルルさんが暴れているような気がする。
エイトたちが取り押さえようと頑張っている感じもした。
アドルさんが恐る恐る尋ねてくる。
「ア、アキミチ……もう一つ良いか?」
「なんですか?」
「もしかしてだが、自分一人だけ過酷な事を経験するかもしれないのが嫌だから、私たちを巻き込もう……とか考えていないよな?」
「アドルさん……俺たち……苦労を共にする仲間ですよね」
キラキラ輝く笑みで答える。
バッ! とアドルさんが席を立って部屋の扉に向かう……と思ったので、先回りして扉の前に立ち塞がる。
「先回りとは! やるな! アキミチ!」
「日々成長していますので!」
運動不足な時もあったけど。
「逃がしませんよ! アドルさん!」
アドルさんが突破しようと構えるので、俺も構えを取る。
コオオオオオ……。
「諦めましょう、アドル様」
インジャオさんの言葉にハッとする。
しまった。ウルルさんはエイトたちが取り押さえて、アドルさんを俺となると、インジャオさんに回す人員が……て、あれ?
インジャオさんが逃げていない。座ったままだ。
「インジャオ。諦めるとは?」
俺に対峙したまま、アドルさんがインジャオさんに尋ねる。
「そもそも、セミナスさんですよ? 何をどうしようとも、そうすると決められたら、いつの間にかそうなっているでしょう。なら抵抗は諦めて、強くなる事だけに集中するべきです。何より、自分は今よりも強くならなければなりません。そのための方法をセミナスさんが提示してくれるのなら、自分は受け入れます」
インジャオさんの言葉と雰囲気は、真剣そのものだった。
だからこそ、アドルさんにも届いたんだろう。
「……そうだな。その通りだ。何をおいても倒さなくてはならない相手が居るのだから」
アドルさんも納得した。
これであとは、とウルルさんを見ると……仕方ないわね、と言うような笑みを浮かべて、インジャオさんを見ている。
エイトたちに取り押さえられたまま。
もう解放しても大丈夫じゃないかな?
そうこしている内に、晩御飯の時間になった。




