事前に確認しないと大変な事になる時がある
エイトたちが俺にへばり付いて眠ったままなので動けない。
ならもういっその事、寝ようと思った。
………………。
………………。
まぁ、寝れないよね。起きたばっかりだし。
でもなぁ、エイトたちが起きるのはもう少し時間がかかる、
なのに、俺は身動き出来ない。
……暇だ。散歩でもしたい気分。
あっ、だからエイトたちは俺を物理的に押さえている訳か。
勝手に居無くならないように。
でも、そこは一言言いたい。
俺だって、勝手にウロウロはしないよ。
きっと自由に動けた場合は、適当にぶらつく訳ではなく、今だったらインジャオさんに会いに行っていたと思う。
アドルさんじゃないのは、話し合いの最中だと思うからだ。
なので、心配はいらないと思うんだけど……と考えていると眠気が……。
………………。
………………。
起きた。
エイトたちはまだ動いていない。寝ている。
俺が再び眠った時間がそう長くなかったって事か。
仮眠を取ったようなモノ。
そとどれくらいでエイトたちは起きるんだろう。
ちょっと確認。セミナスさーん。
⦅……ここで……こうなって……あそこに向かい……世界樹……⦆
何やら考え事の最中のようだ。
今後の進路でも模索しているのかもしれないから、邪魔をしちゃいけない。
それにしても、今の俺の状況って……あれだね。
頭にエイト、左にワン、右にツゥが居て……これで左右それぞれに誰かが居れば、巨大合体ロボみたいに見えないだろうか?
そんな馬鹿な事を考えている内に、また眠った。
………………。
………………。
何かが動く気配で目が覚めたので、周囲を確認。
視界は真っ暗じゃなかった。
「おはようございます、ご主人様」
「うん。おはよう」
エイトからの朝の挨拶に答える。
こちらを見ているエイトの顔は直ぐ下にあった。
というか、エイトが俺に抱き着いている……いや、へばり付いている感じ。
「……朝から何やってんの?」
「ご主人様の心音から、無事かどうかを確認しています」
「言い方を変えれば?」
「ここぞとばかりに抱き着いています」
うん。正直でよろしい。
「あと、あわよくば、この現場を他の者たちに見られる事によって、周囲の外堀を埋めようという魂胆です」
「言い方を変えれば?」
「既成事実を求めています」
そこはどっちにしても正直に言わなくて良い。
ただ、これまでの付き合いで、なんとなくだけど思う事がある。
エイトはこういう冗談を言わないというか、言った時は本気で実行するつもりなのではないか? という事だ。
なので、今俺の身は危険かもしれない。
起き上がってエイトを引き離したいが……両腕も動かない。
「えーと。ワンとツゥもおはよう」
「おはよ、主」
「おはようございます、アキミチ様」
朝の挨拶は返してくれるのに、何故動こうとしないのか。
……素直に言ってみよう。
「えっと、このままだと動けないので、放してくれませんか?」
「いくら主でも、それには従えないな。あたいたちがあとから聞いて、どれだけ心配したかと」
「アキミチ様を一人にした事も後悔していますので、そういう事を諸々含めた行動として、受け入れて下さい」
ワンもツゥも動く気はないようだ。
しかし、それだと困る事態になる予感。
というより、もう既にそういう兆候を感じる。
「エイト、ワン、ツゥ。うん。心配してくれるのは嬉しい。でも、ここまでしなくても良いんじゃないかな? 見張るなら、少し離れた位置でも出来るし」
「いいえ。それは許容出来ません。また同じような事があっては対応出来ませんので」
「そうだぞ、主。下手をすれば死んでいたんだ」
「暫くはこのままでお願いします」
駄目か。
真面目なツゥですら、引く様子がない。
でも、このままは本当に駄目なんです。
「そこをどうにか」
「「「駄目です(だ)」」」
……うーん。仕方ない。
そろそろ限界なので、正直に言おう。
「トイレに行きたいんです」
正直に言うと、ワンとツゥが離れてくれる。
「……エイト?」
「ご主人様は寝起きです。また、体力を全て使い切るような出来事のあとの寝起きなのですから、体が思うように動かない可能性があると思います。なので、ここはエイトが補佐に」
「必要ないから」
両腕が解放されて自由なので、エイトを引き離す。
さすがにエイトも本気では……。
「ガッチリ掴んで離れない!」
「全てをエイトに委ねるまではこのままです。もちろん、その旨を書状に残して、押印もお願いします」
「絶対に逃がさない構え!」
このままでは本当にヤバいので、ワンとツゥに協力を求める。
「なっ! あ、主は、妹だけじゃなく、あたいにも手伝えってのか! わ、わかった。触れってんなら触るし、見とけってんなら見てやる!」
「いや、トイレを手伝えってんじゃなくて、エイトを引き離すのを手伝えって事だから!」
変な勘違いをしないように。
それと、前向きにやろうとしない!
「アキミチ様。私もボケた方が良いでしょうか?」
「いや、出来ればツゥは普通に手伝ってくれると助かります」
「ですが、それだとつまらない神造生命体だと思われないでしょうか?」
「思いません!」
気にし過ぎだから。
ツゥはね、そんな事を考えずに、俺と一緒に突っ込み側に回ってくれれば良いんだよ。
ワンとツゥの協力を得てエイトを引き離し、トイレに……。
「………………」
「「「………………」」」
「今更だけどトイレどこ? というか、ここどこ?」
「ここは軍事国ネスの王城内にある一室です」
「ここの王様が、主を休ませる場所はここが相応しいって言ってな」
「ここは寝室ですので、そちらの扉を出て、右手側にある入り口の直ぐ横にございます」
なるほど。
ここは王城の一室で、トイレは入り口横ね。
ありがとうと頭を下げて、今度こそトイレに向かう。
トイレから出ると、再びエイトたちに捕まった。
エイトが胸に、ワンとツゥが両サイドに。
「……わかった。わかったから。どうすれば解放してくれるの?」
「このままエイトを肉装甲として使うのはどうでしょうか?」
「どんな装甲だよ! そもそも人をそんな風に使う気はないから」
「あたいは主の近くに居れて嬉しいぜ」
「うん。そういう反応は困る~」
エイトとワンは駄目っぽい。
でも、ツゥは違った。
「では、こういうのはどうですか? 今後、常にというのは難しいでしょうから、出来れば一人で行動する事を控えるというのは?」
ツゥが、そう妥協点を提案してきた。
エイトとワンに視線を向ければ、それで手を打ちましょうと頷きが返される。
………………。
………………。
まぁ、仕方ないか。
それに、セミナスさんが魔王に阻害される今の状況では、エイトたちの誰かが傍に居てくれるのは心強い。
わかったと頷くと、エイト、ワン、ツゥが、小指を前に出してきた。
俺を含めた四人で、小指を絡ませるように重ね合う。
「ゆーびきーりげんまん。嘘吐いたら」
「『俺はロリBBA一択です』という看板を持って、どこかの王都を一周してもらいます」
「『あたいを目覚めさせた詠唱文』を、どこかの王都のど真ん中で叫んでもらおうか」
「『アキミチ様の性癖・ベスト5』を、華々しく公表していただきましょう」
⦅『貴金属』でも買っていただきましょうか⦆
「いや、ちょっ! ……あれ? 今セミナスさんも」
「「「ゆーびきった!」」」
⦅これで破れぬ約束が成立しました⦆
え? 成立したの? これで?
かなり一方的だと思うんだけど……まぁ、こういうのがあった方が、きちんと守ろうという意識に繋がると思って、何も追及しなかった。




