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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第八章 軍事国ネス
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野暮用で納得してくれない人だって居る

 エイトたちを軍事国ネス軍の応援に向かわせたあと、戦場に向かって森の中を進んでいると、突然声をかけられた。

 優しそうな笑みを浮かべる、緑色の髪の男性に。


「まさかこんなところで人と出会うとは思わなかったな」

「は、はぁ」

⦅……ス……⦆


 陽気な感じで話しかけられたけど……なんだろう。

 ちょっと怖いというか、怪しい感じがする。

 ……いや、こんな森の中で突然出会った訳だし、知り合いじゃない以上、怪しさ100%か。


 盗賊か? ……でも、そんな風貌じゃない。

 でも、そう見せかけて実は……みたいな、そういうタイプの盗賊の可能性もあるから、違うと決めつけるのは早計か。


 セミナスさん。どう思う?

 というか、こんなところで人と会うなんて聞いていないんだけど?


 ………………。

 ………………。

 セミナスさん?


「それで、一つ確認なんだけど、キミはこんなところで何をしていたのかな?」

「何って……野暮用?」

⦅マ……ター……げて⦆


 さすがに、大魔王軍の伏兵をやっつけていたとは言えない。

 初対面の人に話すような内容じゃないし、無理に怖がらせる事もないだろう。

 うんうん。


 ところで、セミナスさん?

 ………………おーい!

 ………………駄目だ。反応がない。


 というよりは、さっきから接触が悪いというか、電波が中々入らない電話のような感じ。

 一体どうしたんだろう?


「今のは質問の仕方が悪かったね。だから、言い方を変えるよ」

「は、はぁ」


 それに、この緑髪の人はいつまでここに居るの?

 というか、何か知りたい事でもあるのんだろうか?

 セミナスさんはともかく、俺が知っているとは思えないんだけど。


「ここに居たはずの、僕たち……大魔王軍の伏兵たちに何かした?」


 ゾワッと全身の毛が逆立つ感じがした。

 緑髪の人の笑みは変わらない。

 でもさっきよりも怖く見える。


 それと、失敗した。

 今の俺は、明らかに反応している。


「……何か知っているようだね。なら、それを教えてくれないかな? 僕が知りたいのは一つ。ここに攻め込む前から単独で向かわせていた伏兵たちなんだ。だから、普通は気付く訳がない。なのに……どうやって気付いたのかな?」

⦅マスター! しゃがんで下さい!⦆


 意図した訳ではなく無意識。

 セミナスさんの指示という条件反射でしゃがむと、俺の頭部があったところに、人の腕があった。

 誰の? 緑髪の人の。


 今の一瞬で!


「あれ? 絶対反応出来ないと思ったのに、避けられた?」


 捕まえようとしたのか、殺そうとしたのかはわからない。

 でも、一つだけ確かな事がある。

 このままここに居るのはヤバい!


⦅その通りです。今直ぐ逃げて下さい! HURRY UP! NOW!⦆


 英語の部分に、セミナスさんの焦りを感じる。

 なので、しゃがんだまま後方に跳び、そのまま後方一回転しつつ立ち上がって、踵を返してダッシュ。


 木々の間を縫うように走る。

 いやいや、ヤバい! なんかヤバい!

 何、あいつ?


⦅そのまま走りつつ、戦場に向かって下さい⦆


 了解。方向は合っているよね?


⦅問題ありません。それと、マスターのスタミナは完全に回復しきっていませんが、決して足をとめないように。お願いします⦆


 それはもう!

 ところで、あいつはなんなの? これもセミナスさんの予定? なんか接触が悪かったけど大丈夫なの?


⦅そう捲し立てなくてもお教えします。まず、これは私の中での予定にはなかった出来事です。だからこそ、ここまでの接近を許してしまいました⦆


 でしょうね!

 もし予定にあったら、もっと前に警告していただろうし!


⦅また、今は力を振り絞っていますのでなんとかマスターと会話が出来ていますが、あの者の前ではかなり力が削がれてしまいます。ですので、当初はマスターの言う接触の悪い状況でした⦆


 ……待って。もの凄く嫌な予感がする。

 そもそも、この世界の中で、セミナスさんの力を阻害出来るのって、今のところは大魔王や魔王が張った結界だけだ。


 それが人物に対して起こるって事は……もしかして……。


⦅はい。私の中にあるデータで該当するのは一人だけ。あれは魔王の一人です⦆


 ………………。

 ………………。

 魔王かぁ……いや、そうかな? と思っていたけど、これほど当たっていて嬉しくない事はないと思う。


 いや、大魔王ではなく、ただの魔王ってところは喜ぶべきかな?

 俺レベルだと、どっちにしても変わらないけど。


 ちょっと待って!

 緑髪の魔王って、確か。


⦅はい。骸骨騎士を骸骨騎士にした魔王です⦆


 生前のインジャオさんを燃やしたヤツね!

 いや、今もインジャオさんは生きているけど!


 ……そんなの相手に、どうすれば良いの!


⦅今は平原の戦場に辿り着く事を優先して下さい。時間的にはそろそろのはずですので。辿り着くまでの指示を出し続けますので、聞き逃さないようにお願いします⦆


 アイアイサー!


⦅では全力ジャンプ⦆


 ジャンプ!

 すると、足元を何かが通り過ぎ……前方にある木々を破壊しながら見なくなった。

 倒れた木々の衝撃と土煙が激しい。


 この土煙の中に紛れて逃げれば?


⦅その程度は歯牙にもかけないでしょう。寧ろ、マスターにとっては前方と足元が見えにくくなりますので注意して下さい⦆


 ……はい。

 それが狙いだったのか!


⦅いえ、今のはただの魔力弾を放っただけですので、牽制の意味合いが強いかと。もしくは、マスターの足を吹っ飛ばして、逃げられないようにするためか⦆


 恐ろしい……さすがは魔王。


「さっきといい、随分と避けるのが上手いね! まるで、後ろだけじゃなくて、色んなところに目が付いているかのようだ!」


 魔王の声が後方から聞こえる。

 ……というか、多分だけど、俺……遊ばれてない?

 だって、付かず離れずの一定の距離を保っているし。


⦅そうですね。狩りでも行っているつもりなのでしょう⦆


 獲物は俺か!

 ……実際、そうなんだろうけど。


「そんなに急いで逃げなくても良いじゃない。それに、この感覚……もしかしたらキミなら……もっと色々話そうよ。なんか興味が出てきちゃった」

「いえ、結構です!」

「だって、どう考えてもキミじゃあ、あの数を倒すのは無理でしょ?」

「何を! そんなの、やってみないとわからないじゃないか!」


 ……まぁ、セミナスさんの協力があれば、だけど。


「あの数で通じるって事は、やっぱり遭遇した訳だ。最初はとぼけたのに」

「………………」

「………………」


 し、しまったぁ!

 くっ。なんて高度な誘導尋問テクニック!

 さすがは魔王か。


⦅マスター。もう少しで森を抜けますので、ファイト!⦆


 サラッと流さないで!

 なんか余計に恥ずかしくなるから!


 でも、希望はもらった。

 森を抜ければどうにかなる……はず。

 セミナスさんが時間的にそろそろって言っていたし、何より、戦場にはエイトたちが居る。


「そっちに行くと森を出て、戦場だけど? 誰かに助けを求めるのかな? それはそれで面白そうだけど……一つ言っておくよ。僕はね、余計なのはプチッと潰す主義だから、迂闊に協力は求めない方が良いよ」


 怖いわっ!


 足をとめる事なく走り続け、とうとう森を抜ける。


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