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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第八章 軍事国ネス
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より確実な方法を選ぶ

 セミナスさんが提示した方法は、エイト、ワン、ツゥが待ち伏せをして、大魔王軍の伏兵が現れたところで、逃がさないように一気に仕留めるというモノだった。

 で、その待ち伏せ場所まで伏兵を誘導するのは、俺の役目。

 つまり、囮のようなモノ。


 その前に、大魔王軍の伏兵たちと少しだけやり合って経験を得る、予定らしい。

 いやいや、待ってと言いたい。

 どこで待ち伏せれば良いのかくらい、セミナスさんなら余裕でわかる事だと思うのだが、セミナスさんにとってはそうではないようだ。


⦅この時、この場は、私にとってイレギュラーな状況のままなのです。そんな中で、私の読みが正確に当たっているかどうかを問われれば、是とは答えづらいのが実情。そこで、より確実な方法を取るのは当然ではないでしょうか?⦆


 との事。

 確かに、この状況でミスは出来ない。

 何より、ここでミスをすれば、軍事国ネス軍に致命的な打撃を与える事になってしまう。


 なんとしてでも防がなければいけない以上、より確かな方法を選択するのは当然だ。

 だからこそ、俺も覚悟を固めて、自分に出来る事をやるだけ。


 森の中でポツンと一人。俺はグッと拳を握る。


⦅私も居ますが?⦆


 そうだけど、絵的に俺だけだから。

 エイトたちは、少し離れた位置で待機中だ。

 準備万端。あとは、大魔王軍の伏兵が姿を見せるのを待つだけである。


 そして、その時が来た。


「やぁ! こんにちは!」


 木々の隙間から、武装した豚のような容姿の魔物が姿を現す。

 目を凝らせば、その後方に何体……何十体もの魔物が居るのが見えた。


「……ブオ?」


 豚の魔物が訝しげに俺を見てくる。


「なんというか、普段は気にしないけど、森の中に居ると思わない? 空気が美味しいって」

「ブオオオオオッ!」


 豚の魔物が叫び声を上げる。

 同意したのかな? と思っていると俺を指差す。

 すると、豚の魔物の後方に居た魔物たちが俺に向かって襲いかかってきた。

 殺せ! とかでも言ったのかな?


⦅そうですね。概ね間違っていないかと⦆


 いや、襲いかかってきているんだから、間違っていないよね?

 そんな事を考えている内に、魔物が目の前に。

 大振りで振るわれる棘付き棍棒を回避。


 そんな大振りじゃ当たらない、と思った瞬間に、次の攻撃が迫る。

 それも避けるが、また次の攻撃が――。

 ちょっ! 考える時間が欲しいんですけど!


 心の中でそう叫ぶが、魔物たちの攻撃がやむ様子は見えない。

 俺を囲み、次から次へと、新たな魔物から別の魔物に、とひっきりなしに攻撃してくるので、一息吐くのも難しい。

 こ、呼吸を!


⦅次の攻撃は体を大きく傾けて回避。そのまま倒れて、地面を転がって場所を移動して下さい。立ち上がる時に呼吸を整えられます⦆


 セミナスさんの指示が飛んでくる。

 その通りに動いて、囲まれている状況から脱出。

 立ち上がりながら呼吸を整えるが、直ぐに囲まれて同じような状況に陥ってしまう。


⦅マスター。良いですか? 一対多は全方位から攻撃が来る事が前提です。このような状況に陥った場合、相手を簡単に倒す事が出来るだけの戦力があれば別ですが、もしない場合は如何にしてこの全方位を崩すかを考えなければいけません。幸いにして、ここは森。木々を上手く利用すれば、より動きやすくなるでしょう⦆


 あの、説明よりも、回避行動の方を教えて欲しいんですけど?


⦅それでも経験は得られますが、より多くの経験を得るためには、やはりマスターが判断して行動する事が大事なのです。もちろん、危険な場合は速やかに教えますので……頑張って下さい⦆


 そうきたか。

 でも、セミナスさんがそうするって事は、きっと俺のためになる事なんだろう。

 なら、出来る内はやるしかない。


 という訳で、出来るだけ自分の意思で回避していく。

 セミナスさんが教えてくれたように、木々も活用する。


 ただ、当然のように、先に疲れが出るのは俺の方だ。

 無理無理。長時間避け続けるなんて、体力が持つ訳ない。

 でも、俺的には充分な経験が積めたと思うんだけど?


⦅そうですね。もう充分でしょう。こういうのは経験しているか、していないかで、大きく違うでしょうし⦆


 だよね! 俺もそう思う!


⦅早く逃げ出したいがために同意した訳ではありませんよね?⦆


 ……否定は出来ません!

 というか、ほぼ全方位からの攻撃を避け続けながらの会話も、そろそろキツイんですけど?


⦅わかりました。充分注意も引き付けたでしょうし、魔物たちも良い感じにイラついています。これなら走り出しても追いかけてくるでしょう。誘導しますので、指示するタイミングで、指示する方向に向かって下さい⦆


 わかった!

 セミナスさんの指示で魔物の囲みから脱出。

 そのまま駆け出す。


⦅念押しで、挑発して下さい⦆


 走りながら後ろを振り返る。

 魔物の大群が追いかけてきていた。

 ……そこに向かって、俺は言う。


「ばーか! ばーか!」

⦅……マスター。もう少し何かなかったのですか?⦆


 いや、思考能力も低下するくらい疲れているんだけど。


『グルオアアアアアッ!』


 怒りっぽい叫びを上げ、魔物の大群の速度が上がる。

 ……なんか効果は抜群って感じだけど?


⦅やはり、この状況は私にとってイレギュラーだという事でしょうか⦆


 いや、こんな事で深刻な答えに辿り着かなくても良いと思うんだけど。

 というか、魔物の大群の速度が上がって、よりピンチになってない?

 ………………。

 ………………。


「いやいやいやいや! 無理無理無理無理!」


 走る。走る。走る。

 駆ける足はとめずに、チラッと後方を確認。


『ブオオオオオッ!』


 なんかよくわからない叫び声を上げながら、魔物の大群がまだ追いかけてきている。

 えぇい! 森の中だというのに、どの魔物も器用に木々を避けやがって!

 その数は大体……十……二十……わからん。


 木々に遮られているし、走りながら数えるなんて無理。

 いっぱい。たくさん。大勢。大群。

 あんなにたくさん居るなら、何体かは木にぶつかるとかしろよ!


 しかし、この状況は本当に不味い。

 疲れた状態で魔物の大群に捕まったら、どうなるかなんてわからない。

 いや、死ぬのは間違いないから、わからないって事はないか。


⦅思いの外、冷静な部分がありますね。いつものマスターに戻ったような気がします⦆


 俺はいつだっていつも通りです。

 というか、道案内は大丈夫だよね? この方向であっているんだよね?

 この状況で迷うとか、もうスタミナが心配なんだけど?


⦅問題ありません。あっ、頭を逸らして避けて下さい⦆


 何を? と視線を前に戻すと、木の枝が目の前――ガァンッ! と額にぶつかるが、足はとめない。

 それは死を意味する……でも、痛い。


 後方を気にしながら走っている状況で、今のを避けるのは無理。

 でも、痛い。


⦅頑張って下さい。もう少しです⦆


 おうとも!

 ………………。

 ………………そして俺は、やりきった。


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