気遣いだと思うと嬉しく感じる
軍事国ネス軍が、大魔王軍と戦い始めて直ぐ、俺、エイト、ワン、ツゥは、早速とばかりに別行動を取った。
騎士や兵士さんたち、もしくは冒険者さんたちにも助力を願った方が良いような気がしたのだが、セミナスさん曰く、どう見積もっても現状では割けるだけの戦力がないそうだ。
なら仕方ない。
それに、俺とエイトたちでも充分らしい。
何が? もちろん、これから向かう場所に居る大魔王軍に対してだ。
その場所とは、平原近くにある森の中。
なんでも、ここに大魔王軍の伏兵が居て、軍事国ネス軍全軍が動くまでの間に背後に回り込み、奇襲を仕掛けるそうだ。
軍事国ネス軍を挟み込み、文字通り全滅を狙っているらしい。
なら、その事を軍事国ネス軍に、ガラナさんに伝えれば良いと思ったが、余計な混乱を招くそうで、目の前の敵である大魔王軍に集中させた方が、結果的に良いそうだ。
それと、現実的に言えば、単純に戦力不足。
数で勝っていると思うのだが、この世界の通説で、魔物相手には三倍以上の戦力であたらないと危険、というのがあるとの事。
でも、神様たちやシュラさんも居るけど? と思うが、セミナスさんが読み取ったのは、軍事国ネス軍の被害を抑えるためのフォローに回るそうだ。
……あの神様たちが? と信じられないが、そうらしい。
ちょっとこの目で見てみたいけど、我慢。
そうしたセミナスさんからの情報によると、神様や強者の数が絶対的に足りないようだ。
戦力を割けば、軍事国ネス軍は終わりです。と言われれば、受け入れるしかない。
なので、俺とエイトたちで、森の中を進んでくる大魔王軍の伏兵を相手しなければならないのだ。
……でも、俺たちだけでどうにかなるの?
⦅問題ありません。特化一型とツゥ、汎用型が居れば、問題なく対処出来ます。寧ろ、こちらが伏兵を片付けて応援に向かうまで、軍事国ネス軍が持つかどうかの方が不安です⦆
セミナスさんの声の調子が、いつもと違う気がする。
なんというか、唇が渇いて上手く喋れないというか、どことなく緊張感があった。
そもそも今は、セミナスさんにとってイレギュラーなようだし、何かしたらの存在を無意識に感じ取っているのかもしれない。
………………。
………………。
セミナスさんが警戒するような相手とか、正直勘弁して欲しい。
出来れば、そんな相手は居ないで欲しいし、本当に出来る事なら、せめてアドルさんたちが居る時でお願いしたい。
そう思いつつ、この行動の理由をエイトたちに説明する。
「……という訳で、俺たちはこの四人だけだけど、遊撃部隊のようなモノです」
「そうだったのですか? てっきり、エイトたち共に愛の逃避行を行ったのかと思っていました」
「そもそも逃避行をする理由がないと思うけど?」
「つまり、ご主人様とエイトたちは、愛の逃避行など必要ない、自他共に認める公認の関係という事ですね」
「なんの公認だよ」
何故エイトはこうもいつも通りなのか。
緊張とかしないのだろうか?
「ご主人様。エイトだって緊張する時はあります」
「相変わらずサラッと読むな」
「もちろん、その時とは、ご主人様とエイトが繋」
「いや、言わなくて良いです」
エイトなら、大魔王軍を前にしても……下手すれば大元である大魔王を前にしても、このままな気がする。
なら、大丈夫、と。
「ワンも話はわかったよね?」
「あぁ、任せな! 大魔王軍なんて、あたいの火魔法で消し炭にしてやるよ!」
「……一度やったし、わかっているとは思うけど、くれぐれも火力には注意するように。そりゃ、命の危機とかなら気にしなくても良いけど、出来れば環境破壊はしないようにね」
そう言うと、ワンが固まった。
前回の事を思い出したのかな?
それとも、火力調節が苦手とか?
「……でもさ、主」
「ん?」
「燃え尽きて灰になれば、証拠は残らないって言うだろ?」
「灰になっているのが証拠だよ」
頼むから、起こさなくても良い森林火災だけはやめて欲しい。
いや、ワンの命が危ないってんなら、仕方ないかもしれないけど。
こうなったら頼れるのは、ツゥしかいない。
「安心して下さい。ワン姉様」
「ツゥ」
「いざという時は、私が全てを水で流します。それで証拠隠滅です」
「その時は頼んだぜ、ツゥ!」
「いやいやいやいや、それは駄目でしょ! 駄目だから!」
ツゥまでそっちにいったら駄目。
真面目なままでいて下さい。
寧ろ、エイトとワンを注意する立場になって下さい。
「冗談ですよ、アキミチ様。いきなりそのような事は致しません」
……いきなりじゃなければするのかな?
可能性が残るような言い方はやめて欲しい。
「ふふ。今のも冗談ですよ」
「何度冗談を……」
「一時、大魔王軍を見たアキミチ様の精神が苛まれていましたので、今はどうなのかを確かめたかったのです。反応を見るに、落ち着かれてもいるようですし、安心しました」
「……ツゥ」
気遣い! 気遣いだったのか!
俺の中のツゥの株が爆上がりだよ!
泣きそうになっていると、エイトとワンが手を上げる。
「エイトもそのつもりでした」
「あたいもそうだぜ」
そうだったのか!
エイトとワンも、俺の事を心配して、いつも通りに振る舞っていたのか。
なんか、じーんときた。泣きそう。
⦅……普段のマスターなら突っ込みを……いえ、今はこれで正しいようですので、何も言いません⦆
………………ん? 今、セミナスさん、何か言った?
でも、きっと俺のためだろう。
セミナスさんにも感謝。ありがとう。
⦅はい。全てはマスターのために⦆
うんうん。
俺は良い仲間に恵まれたようだ。
スッと片手を前に出す。
意図に気付いたエイト、ワン、ツゥが手を重ねていく。
「絶対勝つぞー!」
「「「オー!」」」
かけ声と共に全員が手を上に掲げ、互いに鼓舞し合うように拍手。
やる気を漲らせて、セミナスさんの示す方向に進んでいく。
怖い事は怖い。
でも、今の俺にはセミナスさんだけじゃなく、エイト、ワン、ツゥも居る。
大魔王軍だからといって、恐怖に震える必要なんてない。
それで、セミナスさん。
伏兵とはどう戦う予定なの?
⦅マスター……これまでの戦いを振り返ってみますと、マスターの戦いは大体が一対一で、一対多の経験が乏しいとは思いませんか?⦆
まぁ、そうね。
一対多なんて、獣人国の武闘会の予選くらいしか……ちょっと待って。
なんで今、そんな話をしたのかな?
⦅経験は、積める時に積めた方が良いとは思いませんか?⦆
そ、そうですね。
……嫌な予感しかしない。




