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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第八章 軍事国ネス
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別章 軍事国ネス軍 対 大魔王軍 2

 序盤は、軍事国ネス軍側が優勢だった。

 だが、この世界では一般の通説として、相手にもよるが、魔物には合計三倍以上の戦力が必要だと言われているのには、当然理由がある。


 簡単に言ってしまえば、一つの生命としての強さが違い過ぎるのだ。

 基本ステータスが、基本スペックが。


 また、そう言われ出したのは、神も封印されていない頃の事。過去の話。

 スキルの恩恵が誰にでもあった頃の話である。


 その頃と比べて、武具の性能は上がっているだろう。

 その頃と比べて、戦闘技術も上がっているだろう。


 だが、それでも簡単に埋められるような違いではなかった。

 魔物が脅威なのは、未だに、いつだって変わらない。


「進撃せよ!」


 デュラハンがそう叫ぶ。

 たったその言葉だけで、大魔王軍の前列は前に向けて歩を進める。

 その歩みを邪魔するモノは全て薙ぎ払って。


『ブオオオオオッ!』


 大魔王軍前列に居る大型の魔物――ミノタウロスの数体が叫び、手に持つ大型の槌を振るう。

 土が抉れ、空を舞う。

 いや、土だけでなく、振るわれる槌を受けとめた騎士や兵士もだ。


「まともに食らうな! 受け流せ! 技術などなく振るっているだけにすぎん!」


 前列の纏め役の一人であり、明道とも行動を共にした隊長が、全体に聞かせるように叫んだ。

 その叫びが聞こえた者たちは、ミノタウロスの振るう槌を上手く受け流していく。


 しかし、大魔王軍の前列に居る魔物はミノタウロスだけではない。

 寧ろ、前列にミノタウロスの数は少なく、その他――ゴブリンやコボルト、オークなどが占めている。


 ミノタウロスだけに注意を向け続ける訳にもいかないのだ。

 命令のままに前に出て、傷付いてもお構いなしの魔物たちに、軍事国ネス軍側は次第に押されていく。


 押されていく理由の一つに、現在、神たちとシュラが前列から一時離れているという事がある。

 この世界の強者と呼ばれる存在の一部は、神とも対等に渡り合う事が出来ていた。

 大魔王、魔王に至っては、神を封印まで出来る。


 それはつまり、神といえども、絶対的な強さを持っている訳ではないという事と同じ。


「「ぜぇ~はぁ~……ぜぇ~はぁ~……」」


 戦闘に参加して戦い続けていた槍の神と身体の神が、後方に下がって休息を取っている。

 直ぐ傍に居るのは、武技の神と商売の神。

 タオルをバッサバッサと仰いで風を送っていた。


「ハリキリ過ぎなんだよ、槍のは」

「ぜぇ~はぁ~……アレだね……完全に鈍っているね。……特に体力。ツネミズたちと鍛錬が出来ていたから勘違いしていたけど……ここまで落ちているとは……」


 計算外、と脱力する槍の神。


「戦闘に向かない以上、精一杯の支援はする。頑張ってくれ」

「任せろ! 商売の神よ! この筋肉で圧殺……」


 言い切る前に、身体の神はポーズを取りながら倒れた。

 限界が来たのである。


「身体の神ぃ~!」

「いや、体力の限界が来ただけだろ」


 鍛冶の神が冷静に突っ込む。

 そんな鍛冶の神だが、やれやれこうなっては仕方ない、と分厚い鎧を身に纏い、大きな槌を握る。


 戦いに赴くのが見てわかった。

 そんな鍛冶の神に向けて、武技の神と商売の神が口を揃えて言う。


「「神に無事を祈っておくよ(ぞ)」」

「ワシらがその神じゃ」


 冷静に突っ込んだ鍛冶の神は、槍の神と身体の神が戦線に戻るまでは踏ん張ってみせると、最前線に向かう。


 また、強者も同じく休息は必要だった。

 シュラは死んだように倒れ、カリーナから回復魔法をかけられている。


「あぁ~……やっぱりカリーナ様の回復魔法は効きます」

「マッサージを受けている時のような声を出さないでください」


 神々やシュラが一時的に下がった事で、軍事国ネス軍優勢で始まった戦いは、大魔王軍側が押し返していき、既に五分五分にまで戦況は変わっていた。


 未だ前列がやり合う形が続いているが、軍事国ネス軍側の方は、中列に陣取っている弓部隊と魔法部隊のフォローは継続中。

 けれど、大魔王軍側が戦っているのは前列のみ。

 中列、後列共に動きは見せていない。


「……不気味な。ただの魔物のように力のみで来れば、どうとでも対処が取れるというのに」


 大魔王軍が一気に動かない事に、苛立ちを覚えるガラナ。

 だが、今その思いや感情は不要だと頭から追いやり、冷静に戦場の様子を窺う。

 勘、とでも言えば良いのか、言い知れぬ不安感があったのだ。


「……なんだ。何故見ているだけで不安感を覚える。何が違う……何かが違う……違うという事はわかるのに、その原因がわからない事がもどかしい」


 次の策を……それとも、一気に全軍で攻め込むべきか……。

 ガラナは悩む。

 悩めば判断が遅れ、それが致命的な出来事となる場合がある。


 本来なら、この戦いも、その致命的な出来事が起こるはずだった。

 だが、それを許さない存在が居る。

 この世界のためというよりは、たった一人から褒められたいがために行動する存在。


 その存在によって危機は防がれているが、今はまだ気付いていない。


 気付いていないからこそ、今は悩み……ガラナは総大将として決断する。

 通説の三倍以上の戦力ではない以上、このまま真正面からやり合い続ける訳にはいかないため、軍事国ネス軍側はガラナ、騎士団長、兵士大隊長の指示で、戦況に合わせた陣形に組み変えながら、大魔王軍と相対していく。


 だが、大魔王軍はその全てに対応していき、思うような戦果を挙げられない。

 双方共に被害を出しつつも、軍事国ネス軍と大魔王軍の間にあった数の差は、段々と縮まり始めていた。


 同数となれば、軍事国ネス軍が圧倒的不利となるのは明白。

 だからこそ、そうはさせまいと各人が奮闘する。


 そんな中、的確に確実に一体ずつ魔物を屠っていく鍛冶の神は独り言ちる。


「……思いのほか、どの魔物も質が高い。こちらも単独突破出来る者が足りんようだ」


 鍛冶の神の視界には、魔物相手に矢を射る弓の女神が映る。

 しかし、黙々と射り続ける弓の女神も最初の頃のような勢いは既になく、疲れが表に出始めていた。


 弓の女神は軍事国ネス軍の被害を抑えるためのフォローも同時に行っているため、その消耗具合は加速度的に増している。


 休息から戻ってきた槍の神、身体の神、シュラも同様。

 自然と軍事国ネス軍をフォローするように動き事しか出来ず、思い切った行動が取れなかった。


 鍛冶の神は、槍の神が近くにきたので声をかける。


「このままではジリ貧だ。完全に後手に回っておる」

「準備不足なだけじゃなく、こっちも体が鈍りまくっているからね」

「このまま踏ん張っていても事態は好転せんぞ。刀の女神が投入されても一時持ち直す程度だ」

「……となると、あとはアキミチの策次第だね」

「ワシの努力が報われる事を願う」


 そこで会話の時間は終わる。

 会話していられるような余裕がなくなるほどに、大魔王軍の勢いが高まったからだ。

 大魔王軍の高まる勢いに対抗して、軍事国ネス軍も全兵力を投入。

 刀の女神だけではなく、ガラナやカリーナ、騎士団長や兵士大隊長も前へ。


 鍛冶の神の想定した通り、一時はそれで持ち直した。

 だが、所詮は一時。

 大魔王軍が軍事国ネス軍をじわじわと追い詰め始める。


 その事に違和感を覚える者が居た。

 軍事国ネス軍側ではなく、大魔王軍側で。


 その者は、大魔王軍の後列で、従者のように控える魔物たちに囲まれていた。

 流れるような緑色の髪を持ち、優しい笑みを浮かべる男性。

 仕立ての良い服を身に纏い、存在感が他の魔物たちは別格である。


 戦場を眺める目に警戒色を宿し、優しい笑みが消え失せる。


「……何かおかしい。予定とは違う」


 その者の視線が向けられるのは、広がる戦場ではなく、平原近くにある森。


「何故か神が解放されていますし……僕たちが認知していない、想定外の存在が居るという事ですか?」


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