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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第八章 軍事国ネス
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別章 軍事国ネス軍 対 大魔王軍 1

 軍事国ネス軍と大魔王軍が対峙する。

 前衛となる部分に居る者たちは、自然と大きく呼吸する事で荒くなり、肩も大きく動く。

 双方どちらも興奮状態だった。


 今か今かと合図を待っているのだ。

 対峙する者を殺す許可が下りるのを。


 軍事国ネス軍の方から銅鑼の音が鳴り響き始める。

 一定の間隔で鳴らされる銅鑼の音は次第に速まっていき、騎士や兵士たちが己を鼓舞していく。


 あとは総大将による開始の合図を待つばかり。

 ウズウズし出して待ちきれない者も中には居て、武器を構えて突撃態勢を取り出す。

 けれど、誰しもに共通している部分があった。


 それは、凶悪な笑みを浮かべているという事。

 対峙する相手……大魔王軍を殺し尽くしてやるという意思が表面に表れていた。


 待ち望んだ合図が下る。


「大魔王軍を蹂躙せよ!」


 総大将であるガラナの宣言で、軍事国ネス軍が前に。

 呼応するように、大魔王軍も前に。

 どちらも駆けているため、衝突するまで直ぐだ。


『うおおおおおっ!』

『グオオオオオッ!』


 軍事国ネス軍と大魔王軍。双方から相手を威嚇するに叫ぶ声が轟く。

 はたまた、これから死地に向かうという状況に尻込みしないためか。


 そして、双方の最前列が衝突する直前、軍事国ネス軍側から、大魔王軍に向けて矢の雨が降り注ぐ。

 普通であれば、矢の雨に対してただ撃たれ続けるだけだろう。


 しかし、大魔王軍は魔物で構成されていようが、本能のままに動く魔物ではない。

 命令を聞ける知能を有し、統率されているのだ。


 また、人類側からすれば粗末な作りかもしれないが、武器や防具を装備しているモノも居る。

 だからこそ、大魔王軍は脅威なのだ。


「防げ!」


 片手に頭部を持つ首なし騎士――デュラハンの指示で、大盾を持つ魔物たちが一斉に頭上に掲げる。

 同時に、魔物たちは自身の近くにある大盾の下に逃れて降り注がれる矢を防ぐ。

 中には大盾の下に逃れられずに射殺されるのも居たが、自らが持つ武器や拳で矢を防ぐモノも居た。


 だが、大魔王軍が防ぐ事など、軍事国ネス軍側すれば……いや、大魔王軍と戦った事がある者なら誰だって理解している事。

 次の手は既に用意されていた。


 ジャブのあとにストレートが放たれるように、牽制も兼ねて一旦上に注意を向け、本命は横合いから飛んでくる。

 軍事国ネス軍側から、最前列で進む騎士や兵士たちの間を縫うように、何本もの矢が大魔王軍に向けて放たれていた。


 大盾を上に掲げていた以上に、横からの攻撃を防げる訳もなく、大魔王軍の最前列に居るモノたちに、何本もの矢が突き刺さっていく。

 けれど、それでやられるのは運がよくて数体。

 大方の魔物は、矢が突き刺さろうが関係ないと言わんばかりに動く。


 そんな事はわかりきっている事だと、第二、第三の矢の雨が次々と降り注ぐ。

 少しでも数を減らすために。


 こうまで執拗に矢による物理的な遠距離を行うのには理由がある。

 今回の戦いにおいて、弓部隊は主力の一つに数えられているからだ。

 その理由は単純。


 弓の女神が解放された事で、スキルの恩恵を得られるようになっているためである。


 威力、精度など、恩恵があるとないとでは大きく違う。

 最初にやられたのは、確かに数体だった。

 だが、その数は着実に増えていっている。


 中でも、魔物たちが着込む鎧や、手に持っている大盾ごと、矢で貫いている者が居た。

 言うまでもなく、弓の女神である。


「……」


 何も言わず、もくもくと魔物を射っていく。

 ただ、何かしらの違和感を覚えているのか、時折首を傾げていた。


 それに、矢は有限。限りがあるのだ。

 また、そろそろ前衛がぶつかりそうだという事もあって、補給も兼ねて一旦下がる。

 弓の女神が下がるのに合わせて、弓部隊も下がっていく。


 けれど、前衛の援護がなくなる訳ではない。


 弓部隊の代わりに出てくるのは、魔法部隊。

 補助魔法で大魔王軍とぶつかりそうな前衛を強化しつつ、様々な攻撃魔法が大魔王軍に向けて放たれ始める。

 ただ、成果は芳しくない。


 弓と違い、魔法スキルに対応する神は解放されていないため、威力が大きく落ちるのだ。

 また、大魔王軍の魔物が武具を身に付けているという事もあって、与えるダメージは更に低くなっている。

 そうなってくると、魔法は脅威ではないと判断した大魔王軍が一気に前に進む。


 遂に、互いの最前列が衝突する時がきた。


 軍事国ネス軍側の最前列で並んでいるのは、槍を持つ騎士や兵士。

 冒険者の中でも槍スキルを持つ者は、同じように並んでいる。


 こちらも同様、槍の神が解放された以上、スキル持ちは主力の一つに数えられていた。


 槍を構え、勢いも加えて最前列がぶつかり合う。

 槍の突き刺さる音。激しい衝突音。人の叫び声。魔物の断末魔。

 様々な音が一気に響き、終わらず続いていく。


 そんな中でも異彩を放っているのが、二人居る。


 一人はもちろん、槍の神。


「はははっ。大戦おおいくさなんて久々だから滾るね~!」


 魔物の一体一体が集まって群れとなり、槍の神に襲いかかる。

 槍の神は、そんなモノは関係ないと笑みを浮かべた。


 まるでダンスのように槍の神は舞い、魔物たちの攻撃を一撃も食らう事なく、かすりもさせずに全てかわす。

 槍の神が持つ槍も踊るように回されるが、時折武器である事を思い出したかのように魔物を貫いていく。


 致命傷を与えるのではなく、きちんと一撃で屠っている辺り、さすがは神だと言うべきだろうか。


 そして、異彩を放つもう一人。シュラ。


「あはははははっ! 蹂躙! 蹂躙!」


 笑いながら超硬質棍棒を振り回して、魔物を次々と屠っていた。

 中には、空に飛ばされる魔物まで居る。

 それでなくても、シュラの超硬質棍棒を前にすれば、武具など関係ない。

 盾は粉砕、鎧は凹み、下手に受けとめれば骨折と、破壊する事にかけては右に出る者が居ないほどだ。


 シュラは、間違いなく、この世界における強者の一人である。


 見た目にそぐわない力の持ち主であり、その特性は「超怪力」スキルとして表れていた。

 並大抵の武器では、逆に武器の方が持たずに音を上げて壊れるくらいだ。

 だからこその超硬質棍棒。

 これでないと耐えられないのである。


 シュラは気付いていないが、そのスキルに恩恵を与えていたのは、身体の神だ。

 つまり、身体の神が解放された今、シュラの超怪力は通常よりも高まっていた。


「あはははははっ! 何やらいつもより勢いよく振れている気がするが……まぁ、大魔王軍をやれるなら、よし!」


 気付く素振りもなかった。

 けれど、身体の神はきちんと気付いている。

 大魔王軍を持ち前の筋肉で圧死させながら、シュラの様子も見ていた。


「ふむ……あの筋肉、出来る! だが惜しい! もっと育てられるのに!」


 身体の神の周囲で戦っている騎士や兵士、冒険者たちは何も言わない。

 思っていても、口に出す暇はないというか、目の前の大魔王軍を相手にするので一杯一杯なのである。

 明道であれば、どんな状況でも全力で突っ込んでいただろうが。


 ちなみに、他の神々も一応この場には居るが、後方待機中。

 刀の女神も戦闘能力に関しては申し分ないのだが、後詰めというか、切り札的立場としてガラナの近くに居た。


「あぁ……あんなに血が舞って……あの、私も行ってきて良いですか?」

「出来れば、やめて頂けると助かります」

「……わかりました」

「あの、そんなに落ち込まなくても……その、きちんと出番は用意しますので」

「耐えて待ちます」


 切り札的立場である。


 軍事国ネス軍 対 大魔王軍 の戦いは、神々の参戦とスキルの恩恵により、軍事国ネス軍側の優勢で始まった。


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