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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第八章 軍事国ネス
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いつも通りだからこそ、救われる

 あれよあれよという間に、準備にあてられる時間は終わり、戦場となる場所に向かう事になった。

 セミナスさんの予想通りというか、言った通りというか、逃げ出した一部の貴族たちは、逃げ延びた騎士や兵士さんたちと共に戻って来たので、捕縛。


 今は構っている暇がないので、牢屋にポイされている。

 逃げ伸びた騎士や兵士さん達は、負傷者は治療優先だが、戦える者は補給して直ぐに戦場に出発だ。

 何しろ、大魔王軍の強襲という事もあって、万全とはいえないのだから余力なんてない。


 俺も軍事国ネスも、可能な限り出来る事はしたので、あとは負ける事はないと信じて、戦いに赴くだけである。

 一応、ガラナさんには、俺がやった事の詳細を伝えたが、期待はしないで欲しいとだけ言っておいた。

 ほんと、読めないというか、どうなるかわからないからだ。


 ただ、最大の誤算とでも言うべきか、アドルさんたちはまだ到着していない。

 話を聞けば戦場に来てくれると思うので、出来れば早く来て欲しいと願う。


 そして、辿り着いた戦場は、王都から約半日進んだところにある、広大な平原。

 街道だと思われる一本道を境にして、左手に森、右手に巨大湖がある。

 この一本道を進んだ先に、ルクイン砦があると思う。

 いや、もう破壊されたんだっけ。

 じゃあ、あったと思う。


 そうして、この平原に騎士や兵士さんたちが陣形を展開していく。

 その中には、大盾を持つ騎士の一団や、槍や弓を構える兵士隊、魔法使いの集団など、様々な部隊が存在していた。

 冒険者っぽい服装の人たちもちらほら見かけている。


 総大将は、当然ガラナさん。

 戦えるんだろうか? と思ったが、セミナスさんによると、攻撃魔法のスペシャリストとの事。

 超広範囲魔法が得意らしい。


 ……まさかとは思うけど、範囲が広過ぎて気を配らないと駄目系じゃないよね?

 範囲の大きさは自由に変えられるよね?

 そこが不安なんだけど。


 ちなみにだが、カリーナさんは回復魔法のスペシャリストで、シュラさんは見たまんま、棍棒のスペシャリストだそうだ。

 そのシュラさんは、喜々として最前列に陣取っている。

 ……まぁ、この世界における強者の一人らしいので、大丈夫だろう。


 ガラナさんは総大将で使い勝手が悪い? 魔法使いなので、最後列に。

 その傍にカリーナさんが居て、俺も居る。

 エイトたちも俺の傍に居た。


 爽やかな騎士団長さんや、厳つい兵士大隊長さんも、それぞれ団や隊を率いて左右に陣取っている。

 王都には最低限だけ残し、短い間で可能な限り集めた戦力がここに集結。


 ガラナさんから聞いた話によると、その総数は大体一万二千。

 対して、侵攻してくる大魔王軍の数は、軍事国ネスの斥候が調べたところ、大体七千。

 総数だけならこちらが勝っているが、ガラナさんたちの表情は優れない。


 何が危機になるかわからない現状で、不確かな事はなるべく残したくない。

 なので、思い切って尋ねる。


「ガラナさん。どうして皆緊張しているんですか? 数で勝っている事がわかったのに」

「いや、一体何を言って……いや、アキミチにこの世界の常識はないのだったな」


 なんかそれだと常識外れみたいだけど……ないのは確かだ。


「なら、覚えておくと良い。一部の強者を除き、通常、魔物の相手をしようとするのなら、三倍以上の数で相対するのが普通だからだ」


 ……三倍以上?

 なんで? と思うが、言われてみればそうだ。

 そもそもの基本的な能力が違うだろうし、一人で勝てるのなら、冒険者とかがパーティを組む必要性なんてない。


 それでも一人でどうこう出来るのが強者の部類なんだろう。

 基本的に、俺の周りに居るのってそういう人たちばっかりだから、そこら辺の感覚が麻痺していたのかもしれない。


 駄目だ駄目だ。

 認識をしっかりしないと。

 俺は避けて防ぐ事しか能がないんだから、一人で相対しようなんて思っちゃいけない。

 攻撃役が居て、初めて真価を発揮するタイプ……のはず。


 ……まぁ、セミナスさんの指示で多少の攻撃は可能だろうけど、致命傷を与えるのは無理だから、そういう認識で間違っていないはず。

 と思っていると、平原の向こう側から、薄っすらと人影のようなモノが見えてくる。

 けれど、実際は人影なんてモノじゃない事は直ぐにわかった。


 おびただしい数の魔物の軍勢。大魔王軍。


 思い返してみれば、俺は大魔王軍に、軍勢としてきちんと遭遇した事はなかった。

 武技の神様の時はどれぐらい居たか知らないけど大体終わっていたし、ラメゼリア王国の時は一部隊くらいの数だ。

 詩夕たちは既に遭遇済みみたいだけど、俺の前にも、遂にその姿を現した、という事になる。


 自然と手が震えてきた。


 ……いや、体全体かもしれない。

 どっちかちょっとわからないくらい、心が動揺している。


 魔物の軍勢を視界に捉えると、否応なしに理解した。

 無事に済む保証なんて、どこにも誰にもない。


 出来る準備はしたと思ったけど、何もかもが足りない気がして……不安が心を埋め尽くしていく。


 怖い……怖い……逃げようよ……。


⦅…………ター⦆


 どうして皆、そんなにやる気になっているの?

 死ぬかもしれないんだよ?

 死んだ方がマシかもしれないような事になるかもしれないんだよ?


 逃げようよ。

 どこかに逃げようよ。


 でも、何故か足は動かない。

 なんで?


⦅マ……⦆


 あ、あれ? 今まで、どうやって動いていたっけ?

 なんで動けていたんだっけ?


 わからない……わからない……。

 なんか、呼吸も荒いような気が……。


⦅……スター⦆


 というか、なんかさっきから……誰かに呼ばれているような。


⦅マスター!⦆

「はいっ!」


 大声で返事。

 何故か、周囲に居る人たちの視線が俺に向けられている。


 ………………。

 ………………。

 えっと……なんか俺、注目を浴びるような事をしましたっけ?


 もしかしてだけど、さっき返事した思ったのが……声に出てました?

 いや、それはちょっと……かなり恥ずかしい。


「な、なんでもないです」


 失礼しました、と頭を下げると、俺から視線が外されるのがわかる。

 ちょっと、セミナスさん! 急に大きな声をかけられたら、ビックリしちゃうでしょ!

 思わず返事しちゃったし!


 セミナスさんは素敵な声なんだから、もう少しこう優しく、囁くように言ってくれるだけでも返事をするから。

 ……うーん。あれ? なんか今、変な事を言ったような気がする。

 やっぱ。今のなしで。


⦅なしになりません。私の心のMEMORYに永久保存です。それと、いつも通りに戻りましたね⦆


 いつも通り?


⦅はい。先ほどまでは大魔王軍の数に圧倒されて、畏縮して思考が乱れていましたから⦆


 あー……なるほど?

 よくわからないけど、だから大声で呼びかけたと?


⦅その通りです。安心して下さい、マスター。マスターには私が常に付いています。共に居ます。マスターの心と精神は私が守りましょう。そして、今は口惜しいですが、肉体の方は彼女たちが守ってくれるでしょう⦆


「突然の返事。あの時、エイトは心の中でご主人様に問いかけていました。病める時も健やかなる時も……と。その返事という事でよろしいでしょうか?」

「よろしくありません」


 いや、それ、絶対あと付け理論だよね?


「主、妹の何が駄目なんだ! 駄目じゃないから、『はい』って答えたんだろ! それとも他のヤツの事を思い描いて……はっ! まさか、あたいか!」

「いや、そもそもそういう意味で答えた訳じゃないから」


 何故そうなる。


「姉の何がいけないというのですか? アキミチ様。姉は完璧です。妹も完璧です。何が気に入らないと……はっ! まさか、姉であり、妹でもある私をお狙いですか?」

「いえ、違います。そもそも、前提となっている部分が違います」


 まさか、真面目なツゥまでそんな事を言うなんて。

 でもまぁ、なんというか……いつも通りだ。

 エイトたちも、俺の心境を察して、いつも通りに振る舞ったんだろう。多分。

 ……間違っていないよね?


「………………頼りにしているよ。エイト。ワン。ツゥ」

「お任せ下さい」

「あたいが全部ぶっとばしてやるよ!」

「アキミチ様には、指一本触れさせません」


 エイトたちの表情は自信満々だ。

 ほんと、頼りになるよ。


 そして、大魔王軍との戦いが始まる。


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