どうやらイレギュラーな事態らしい
侵攻してくる大魔王軍に対して、俺も頑張る事に異論はない。
この世界に居る以上、大魔王軍は避けられない脅威だし。
ただ、エイトとワンは知っているだろうけど、俺に攻撃能力はない。
そんな俺で役に立つのだろうか?
⦅戦いとは、何も相手を直接倒すだけではありません。前衛、中衛、後衛など、それぞれ適した役割というモノがあります⦆
つまり、今回の俺の役割は……後方支援的な?
⦅さぁ、それはどうでしょう⦆
……もしかしてだけど、はっきりしないの?
⦅はい。恐らくは……という一文が常に付く状態です⦆
……ん? あれ? なんかおかしくない?
大魔王軍の侵攻も、セミナスさんが読み取っていた中にあったんだよね?
⦅はい。ありましたが……本来の予定ではもう少しあとの出来事でした。少なくとも、邪魔者たちを排除して城内が落ち着き、EB同盟再強化の話が進む頃に、大魔王軍侵攻の報告が届く予定でしたが、今はもう過ぎた事です。現実に大魔王軍は、今侵攻してきているのですから⦆
という事は……これ……イレギュラーな事態って事?
⦅そうですね。どちらかと言えば……YES⦆
そこで英語な辺り、セミナスさんも動揺しているのかもしれないと思った。
⦅ですので、マスター。全力でサポートしますが、どうかお気を付け下さい。今は特にそういう感じではないのですが。こうして私の『未来予測』の結果が変わったという事は、相手の中に私の力を阻害出来るだけの力を有しているモノが居る可能性が高い、という事なのですから⦆
それって、つまり……。
まさか……と考えていると、ガラナさんから声をかけられる。
「それで、アキミチ。巻き込むようで非常に申し訳ないが、アキミチの力を貸して欲しい」
さっきまでツゥと楽しく話していた時とは違い、笑顔ではなく真顔だ。
俺も真顔で答える。
「もちろん」
頷きと共にそう返す。
エイトたちはどうする? と視線で尋ねると、もちろんお手伝いします、と同じく頷きが返された。
―――
全面的に協力する事に決めたので、まずはセミナスさんから得た情報を教える。
いつぐらいに来て、おおよその数で、どういう構成なのか、どう攻めて来るか、などなど。
丁度大きな地図があるので、それを使って示していく。
ただ、今回に関しては、「絶対ではない」という注意文を付けた。
さすがに詳しくは言えないが、セミナスさんの力を阻害出来るだけの力を持つモノが居るのなら、今伝えている情報も絶対とは言えないのだ。
だからこその注意文である。
まぁ、大幅に間違ってはいないと俺は思っている。
実際、大魔王軍の構成とか初期配置なんかは間違っていないと思うので、そこら辺は参考にして欲しいと思う。
伝えるだけ伝えて、あとの事は任せた。
何しろ、ここに居るのは騎士団長さんと兵士大隊長さんである。
間違った作戦は取らないだろうし、そもそも素人の俺が考えるような事ではない。
⦅イレギュラーが起こる可能性が高い戦場ですので、私が事細かに伝えるより、自ら考えた方が、いざイレギュラーが起こった時でも混乱は少なくて済みます。ですので、任せた方が良いでしょう⦆
セミナスさんもそう言っているので、任せる事は間違っていない。
ただ、そういう理由がある事は、ガラナさんに伝えておいた。
「……危険な存在が居る、と仮定して考えた方が良いという事だな?」
「そうなります」
「わかった。作戦、戦術、戦略は任せて欲しい。となると、アキミチたちだが」
「……自由行動……じゃなくて、遊撃に回しておいて欲しいそうです。それで大丈夫だと。あとは作戦が決まり次第」
「わかっている。詳細が決まり次第伝えよう。ただ、時間はかかると思うので……その……」
どこか言いづらそうな仕草を見せるガラナさん。
「時間を持て余すのも悪いしな。……よければ、我の執務室で待っていてくれ」
なるほど。言いたい事はわかった。
要は、読書でもしながら待っていて欲しく、ついでに読んだ本の感想とか聞いて……いや、語り合いたいのかもしれない。
息抜きも兼ねて。
そういう事ならありがたく執務室で待ちますと伝えると、ガラナさんは少しだけ嬉しそうな笑みを浮かべて、騎士団長さん、兵士大隊長さんと話し合いを始める。
とりあえず、言われた通りに執務室に向かうため、エイトたちと共に作戦会議室を出て、まずは一息吐く。
ああいう場所って空気が重苦しい感じがするんだよね。
さて、こちらも可能な限り出来る事をしないと。
まずは神様たちにも協力を求めるところから始めないといけないけど、さすがにこんな廊下で呼ぶのは恥ずかしい。
なので、早速執務室に向かうのだが……さてと。
「奇跡を期待しています」
「大丈夫。主ならまた出来るって」
「お任せします」
期待されている気がする。
大丈夫。自分を信じろ。まずは自分が自分を信じなくて、誰が信じるというんだ。
両頬を叩き、気合を込める。
よぉし! 行くぞ!
………………。
………………。
辿り着いたのは、バルコニー。
わぁ、王都が一望出来る。風も気持ちいい。
「やはり、エイトたちがしっかりしないといけないようですね」
「案内は任せろよ、主」
「執務室まででしたね。それでは、こちらです」
違う。違うよ。
俺は外の新鮮な空気を吸いたかっただけだから。
あとはまぁ、なんというか、期待されているかと思うと力が入り過ぎて、ちょっと予定とは違う結果になっただけで。
「いきますよ」
「いくぞ」
「いきましょう」
「……はい」
執務室まで迷う事なく辿り着いた。
エイトたちは、持っていた本を本棚に仕舞い、早速とばかりに新しい本を手に取って読書を開始。
……もしかしてだけど、あの時、ガラナさんの接近に気付いたんじゃなくて、持ち出した本を読み終えていただけなんじゃ?
……まぁ、もう済んだ事だし、別に良いんだけど。
エイトたちが読書している間に、やる事をやっておく。
「GODS COME HERE」
前回とは違い、どことなく端的に呼ぶ。
同じように窓が勢いよく開いて、神様たちが飛び込んでくる。
「アキミチからの再度召」
「いや、もう大丈夫です」
神様たちの自己紹介を無理矢理やめさせる。
ぶーぶーと文句が出るが、今はそれどころではない。
「今の状況、わかっているんですよね?」
「もちろんだよ、アキミチ。大魔王軍が攻めて来ているんでしょ? わかっているよ。もちろん、僕たちも協力する。封印された借りを返さないといけないしね」
武技の神様だけじゃなく、他の神様たちも協力すると頷く。
それじゃあ、大魔王軍とぶつかるまでの間に、出来る事をやっていこうか。




