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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第八章 軍事国ネス
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それでもやっぱり、まずはお断りを入れるべき

 大魔王軍の侵攻の報告は、王都内を瞬く間に駆け巡った。

 特にルクイン砦が落ちたというのは、かなり衝撃だったらしい。

 一気に慌ただしい雰囲気となる。

 それは、ガラナさんたちもそうだった。


 ガラナさんが今居るのは執務室ではなく、作戦会議室と呼ばれる、王城内にある一室。

 大きなテーブルの上に、近隣が描かれた大きな地図が置かれ、その地図の上には、デフォルメされた青色の小さな人形の置物と、同じくデフォルメされた赤色の小さな魔物の置物が、いくつも置かれている。

 あれらを使って作戦を確認しているようだ。


 ガラナさんは、次々と来る騎士や兵士さんたちに指示を飛ばし、カリーナさんとクルジュさんがその補佐として奔走している。

 シュラさんも部隊編成があると、この場には居ない。


 その代わりという訳ではないけど、今は爽やかな雰囲気の騎士団長さんと、厳つい感じの兵士大隊長さんがガラナさんと共に居て、地図上で作戦を練っている。


 騎士団長さんと兵士大隊長さんとは、裏ギルド殲滅のための協力をお願いした時に、顔だけは見ていた。

 まぁ、実際に対応したのはガラナさんで、俺は会話していないし、人柄はわからないけど。

 少なくとも、セミナスさんが何も言わないので敵ではないとわかる。


 それと、宰相さんもここに居て、先ほど挨拶だけは済ませた。

 宰相さんは女性で、なんというか、私仕事出来ます感が強い人という印象。

 裏ギルドの金庫に関して滅茶苦茶感謝された。

 目が金貨になっていたように見えたので、お金が大好きなのかもしれない。


 そうして、侵攻してくる大魔王軍に対して練られていく作戦を聞きながら思う。

 ……あれ? どうして俺たちもここに居るの? と。

 俺とエイトたちも作戦会議室内に居るのだが、壁際で大人しくしているので……ここに居る必要性を感じない。


 だからといって、他にやる事は特にない。

 正確には、こういう事に参加した事がないので、何をどうしたら良いのかわからないだけなんだけど。

 オロオロしないだけ、マシだと思いたい。


 エイトたちも暇を持て余しているだろうな、と視線を向けると……。


「「「………………」」」


 黙々と読書タイム。

 ……ちょっ! 持って来たの!

 ガラナさんに見つかる前に戻してきなさい!


 そう注意する前に、ツゥが俺の目の前にスッと一冊の本を差し出してくる。


「………………」


 それは、俺が気になっていた「偏屈魔術師の推理譚」の……一巻!

 ………………。

 ………………。

 俺は今、かつてないほどに誘惑されていた。


 場所が場所だし、雰囲気が雰囲気だし、読書するような時ではないのはわかっている。

 でもこう……心に潤いが与えられるというか、栄養分が送り込まれるというか……なんかこう、元気になるじゃん?


 あと、大魔王軍侵攻という異常事態だからこそ、普段の行動を少しでもなぞる事で、心を平静に保つというか……良いよね?

 ちょっとくらい、良いよね?

 それに、もう読み終えている本がこうしてここにあるという事は、わざわざ俺のために持ってきたという事だ。


 その思いをないがしろにする訳にはいかない。

 ツゥから本を受け取り、読んでいく。

 ちなみにツゥは、五巻を読んでいた。速い。


 ………………。

 ………………。

 ……本当に偏屈だな……ヒロイン可愛い……これで容疑者は全部……犯人は……。


「アキミチ。この国の者ではないが、力を借りた……」

「あっ」

「ちょ、ちょっと待て。な、何を読んでいる?」


 ガラナさんに見つかった。

 アワアワしている。

 どこから持ってきた本は、察してしまったようだ。

 かなり動揺しているが、それは俺も同じ。


「い、いや、これは……」


 やばいっ! 本を隠せ! とエイトたちを見ると、何事もなかったかのように控えている。

 先ほどまで読書していた様子なんて一切ない。

 本すら持っていない。


 ……ず、ずるいっ! ずるいぞ! エイトたちだけ!

 俺にもガラナさんの接近を教えてくれてもよかったじゃないか!

 ジト目を向けると、サッと顔を逸らされる。


 その態度がいつもと違って疑問に……あっ、わかった。

 読書に夢中になり過ぎて、エイトたちも気付くのが遅れたんだな? そうだろ?

 ……ちょっとはこっちを見ろ!


「どこまで読んだのだ? 面白いだろ、偏屈魔術師! 特にこのヒロインの子の的外れな推理が突き抜けていて、いつか当たるんじゃないかと……いや、今のはなしだ」


 なるほど。このシリーズが大好きなんですね。

 ここぞとばかりに、ツゥが持っている本をチラチラとガラナさんの視界に入れ出した。

 自分もファンだって言いたいのかな?

 でもその前に言う事があると思うんだ、俺。


「いえ、勝手に読んで、その上持ち出して、すみませんでした」


 ガラナさんに謝る。

 まずはこれからでしょ、と思ったら、エイトたちも同じように「申し訳ございませんでした」と謝って頭を下げた。

 ……なんだろう。ちょっと納得出来ない、と思うのは俺だけだろうか。


「いや、気にしないでくれ。これを機に読書を気に入ってくれると、その……嬉しい。特にアキミチが読んでいるのは、我のお気に入りの一つで……」


 とりあえず、許してもらえたようでよかった。

 ガラナさんの顔が真っ赤なのは、恥ずかしいからかな?


「気に入られるのもわかります。私も気に入りました。ガラナ様が言うようにヒロインの子の推理は面白いと私も感じます。特に三巻の……」


 だからツゥ。そうぐいぐい行かなくても……いや、ガラナさんも喜んでいるな、これ。

 ツゥは読書好きっぽいようだし、互いに同好の士を得た、みたいな感じかな。


 ……とりあえず、今の内に確認しておくか。

 ガラナさんが何を聞きたいのかも、大体わかるし。


⦅では、今後の事をご説明しましょう⦆


 ありがとうございます。助かります。


⦅まず事前情報としまして、侵攻してくる大魔王軍に対し、軍事国ネス側は急遽兵を集めています。現在、北にある平原にて迎え撃つ準備を整えていまして、開戦は二日後ですね⦆


 二日後か。


⦅ルクイン砦は既に壊滅。駐留していた騎士と兵士の生き残りが、王都に向けて逃げ延びて来ている最中です。また、その際に王都から逃げ出した貴族たちですが、共に逃げ延びて来ます⦆


 なら、そこを捕らえれば良い訳か。

 あとでガラナさんに伝えておこう。

 それで、聞きたい事があるんだけど。


⦅もちろん理解しています。寧ろ、マスターたちの協力がないと、勝利を得る事は難しいでしょう⦆


 そうなんだ。

 ……いや、協力する事は別に構わないんだけど……え? 難しいの?

 ここって上大陸に攻め入っている方の国だよね?

 なら、それなりというか、かなりの戦力があると思うんだけど?


⦅はい。その通りですが、現在この国の主力と呼べる者たちのほとんどは出払っているのです⦆


 出払うとか、そんな事あるの?


⦅はい。現在、戦争が小康状態という事もあり、主力陣は期間を設けて、鍛錬だと方々に散っているようです⦆


 なるほど。

 軍事国ネスからすれば、タイミングとして最悪って訳か。

 これは頑張る必要が出て来たかもしれない。


⦅かもしれないではなく、頑張って頂きます⦆


 ……はい。頑張ります。


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