誰に案内されても、辿り着く場所は同じ
少しして、隊長さんの話によると、さすがというべきか、やっぱりというべきか、いくつかの裏ギルドの金庫というだけあって、正確な数字は今のところわからないけど、相当な金が収められていたようだ。
⦅正確な数字をお求めですか?⦆
いえ、特に興味ありません。
別に俺の物じゃないし。
⦅求めれば多少はもらえると思いますが?⦆
うーん……そこは別に良いかな。
別になくても大丈夫でしょ?
⦅問題ありません⦆
なら、別に構わない。
必要以上の物をもらおうとは思わないし。
そういうのって、余計な火種になりかねないしね。
⦅まぁ、何かしらの報酬は出ますが⦆
報酬と聞いて思い出すのラメゼリア王国の時。
思わずワンを見る。
「……ん? どうした? 主。あたいの顔に何か付いているか? 返り血か? 付かないように気を付けていたのに」
……いや、何も付いていないけど、返り血が付くかもしれないような事をしたの?
答えが怖いから聞かないけど。
そうこうしている間も、金庫から次々と運び出されている。
金貨だけじゃなく、延べ棒みたいなのもあり、なんかよくわからないけど綺麗な宝飾が施された短剣とか、呪われそうな見た目の腕輪とか、物品類も収納されていたようだ。
金庫番だった商人風の男性も、既に連行されている。
………………。
………………。
これ、いつまでここに居れば良いんだろうか?
⦅あっ、もう王城に戻って頂いて構いません。報告も届いているでしょうし⦆
……あれ? セミナスさんから返事があった。
ウィンドウショッピング中は答えないはずなのに。
⦅私はただ無為に日々を過ごしている訳ではありません。マスターの中で経験を得て、成長していっているのです。今の私なら検索しつつ、簡単な質問なら答える事が出来ます⦆
なるほど。セミナスさんも、初期の頃とは違うという事か。
俺ももっと成長しないと。
隊長さんに戻る事を告げて、俺とエイトたちは王城に戻る事にした。
その途中、歓声が聞こえる。
「副隊長が指名手配の一人を挙げたぞ~!」
「やった! やったぞ! パパはやったぞぉ~! これで、パパは家でも副隊長なんだね、と娘から言われる事もないはずだ!」
………………。
………………。
「隊長はママ、なのでしょう」
「こら、エイト。しっ」
そういう事は口に出しちゃいけません。
特に、本人はそういうのを気にしている場合があるんだから。
副隊長さんのように。
聞かなかった事にしよう、と一つ頷き、王城に向かう。
―――
王城の門前に来てから気付く。
出る時は騎士や兵士さんたちと一緒だったけど、今は俺とエイトたちしかいない。
このまま中に入る事は出来るのだろうか? と。
「皆様の事は通達されていますので、問題ありません」
門番さんに入っても大丈夫ですか? と尋ねると、こう返ってきた。
どうやら、ガラナさんが既に通達していたようだ。
仕事が早い。
門番さんにぺこりと頭を下げて、王城に入る。
……さて。
⦅道案内は必要でしょうか?⦆
出来れば自分で頑張りたいが、そもそもこの王城には秘密の通路で執務室に入り、一度出ただけ。
いやいや、これで今度は真正面から入って執務室に向かうとか……誰だって無理じゃないだろうか?
「こちらです、ご主人様」
エイトが道案内しようと俺の前に。
「……え? 道案内、出来るの?」
「出来ますよ。もちろん」
エイトが俺の後方を指し示す。
振り返れば、ワンとツゥが手を小さく上げていた。
「また執務室までだろ? 出来るぜ」
「一度でも行けば、問題ありません」
ワンとツゥも出来ると言う。
あれ? 出来ないの……俺だけ?
いや違う。出来ない訳じゃない。
あれだ。ちょっと色々王城内を見た上で、執務室に行きたいだけだ。
と思っていると、ワンとツゥも前に出て、エイトと共に並ぶ。
「ご主人様が望むのであれば、エイトは義理の妹のように接し、ご主人様を愛しいお兄ちゃんとして、我儘を言いながらご案内出来ます」
まず、義理である意味は? 普通に妹じゃ駄目なの?
それと、我儘の内容は……エイトなら恐ろしい我儘を言いそうで怖い。
「そうだな。あたいはこんな見た目だし、主の姉として振る舞うのも良いな。出来るかどうか、下手かもしれないけど、甘やかしながら案内してやるぜ」
……くっ。どんなモノなのか、ちょっと体験したいと思ってしまう。
でも、姉なら私が居るだろ! と刀璃が怒るかもしれない……いや、ないか。
「ワン姉様が姉のように振る舞うのであれば……私は同級生、でも通じるでしょうか? それなら、誰かに見られればパッと離してしまいますが、それまでは手を繋いで登校するように、ご案内しましょうか?」
まさか真面目なはずのツゥも参加するとは……いや、前々からそういう雰囲気があったけど。
これはどっちか悩むな。
元々そういう状態だったのか、それとも、エイトやワンに影響されたのか……。
とりあえず確かなのは……ちょっと魅力的と思ってしまった。
「さぁ、ご主人様」
「あたいたちの誰に」
「案内を求められますか?」
エイト、ワン、ツゥが、俺に向かって手を差し出してくる。
えっと……選べと?
⦅私も居ますが? 道案内くらいなら出来ます⦆
そうだね。今のセミナスさんなら出来るのか。
……うーん。どうしよう。
「とりあえず、自分の判断でも行けると証明したいんだけど?」
⦅それがマスターの選択なら⦆
「かしこまりました。エイトはご主人様の意思を尊重します」
「そうだな。挑戦する意欲を失わないのは大事だ」
「どのような結果になるのか、興味があります」
うん。多分だけど、誰も上手くいくと思っていないよね。
見てろよ! 俺が方向音痴じゃないと証明してやる!
………………。
………………。
着いた。執務室に。
やったー! と両腕を上げる。
⦅……可能性として存在していましたが、まさか⦆
セミナスさんも驚きのようだ。
「……エイトは奇跡を見ました」
「すげぇな、主!」
「エイトとワン姉様の様子を考慮すると、私も驚くべきでしょうか?」
エイトたちが揃って拍手を送ってくる。
ありがとう……ありがとう……じゃなくて!
いやいや待って待って。
普通。これが普通だから。
俺のスタンダードだから。
「これで、俺が方向音痴じゃないと証明出来た」
「そういう事でしたら、ご主人様。ワンモア」
「……ワ、ワンモア?」
「はい。ここから入り口に、入り口からここに、でお願いします」
………………。
………………。
「いえ、遠慮します」
執務室の扉をノック。
中から「どうぞ」と聞こえたので、そそくさと入る。




