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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第八章 軍事国ネス
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誰に案内されても、辿り着く場所は同じ

 少しして、隊長さんの話によると、さすがというべきか、やっぱりというべきか、いくつかの裏ギルドの金庫というだけあって、正確な数字は今のところわからないけど、相当な金が収められていたようだ。


⦅正確な数字をお求めですか?⦆


 いえ、特に興味ありません。

 別に俺の物じゃないし。


⦅求めれば多少はもらえると思いますが?⦆


 うーん……そこは別に良いかな。

 別になくても大丈夫でしょ?


⦅問題ありません⦆


 なら、別に構わない。

 必要以上の物をもらおうとは思わないし。

 そういうのって、余計な火種になりかねないしね。


⦅まぁ、何かしらの報酬は出ますが⦆


 報酬と聞いて思い出すのラメゼリア王国の時。

 思わずワンを見る。


「……ん? どうした? 主。あたいの顔に何か付いているか? 返り血か? 付かないように気を付けていたのに」


 ……いや、何も付いていないけど、返り血が付くかもしれないような事をしたの?

 答えが怖いから聞かないけど。


 そうこうしている間も、金庫から次々と運び出されている。

 金貨だけじゃなく、延べ棒みたいなのもあり、なんかよくわからないけど綺麗な宝飾が施された短剣とか、呪われそうな見た目の腕輪とか、物品類も収納されていたようだ。

 金庫番だった商人風の男性も、既に連行されている。


 ………………。

 ………………。

 これ、いつまでここに居れば良いんだろうか?


⦅あっ、もう王城に戻って頂いて構いません。報告も届いているでしょうし⦆


 ……あれ? セミナスさんから返事があった。

 ウィンドウショッピング中は答えないはずなのに。


⦅私はただ無為に日々を過ごしている訳ではありません。マスターの中で経験を得て、成長していっているのです。今の私なら検索しつつ、簡単な質問なら答える事が出来ます⦆


 なるほど。セミナスさんも、初期の頃とは違うという事か。

 俺ももっと成長しないと。

 隊長さんに戻る事を告げて、俺とエイトたちは王城に戻る事にした。

 その途中、歓声が聞こえる。


「副隊長が指名手配の一人を挙げたぞ~!」

「やった! やったぞ! パパはやったぞぉ~! これで、パパは家でも副隊長なんだね、と娘から言われる事もないはずだ!」


 ………………。

 ………………。


「隊長はママ、なのでしょう」

「こら、エイト。しっ」


 そういう事は口に出しちゃいけません。

 特に、本人はそういうのを気にしている場合があるんだから。

 副隊長さんのように。


 聞かなかった事にしよう、と一つ頷き、王城に向かう。


     ―――


 王城の門前に来てから気付く。

 出る時は騎士や兵士さんたちと一緒だったけど、今は俺とエイトたちしかいない。

 このまま中に入る事は出来るのだろうか? と。


「皆様の事は通達されていますので、問題ありません」


 門番さんに入っても大丈夫ですか? と尋ねると、こう返ってきた。

 どうやら、ガラナさんが既に通達していたようだ。

 仕事が早い。

 門番さんにぺこりと頭を下げて、王城に入る。


 ……さて。


⦅道案内は必要でしょうか?⦆


 出来れば自分で頑張りたいが、そもそもこの王城には秘密の通路で執務室に入り、一度出ただけ。

 いやいや、これで今度は真正面から入って執務室に向かうとか……誰だって無理じゃないだろうか?


「こちらです、ご主人様」


 エイトが道案内しようと俺の前に。


「……え? 道案内、出来るの?」

「出来ますよ。もちろん」


 エイトが俺の後方を指し示す。

 振り返れば、ワンとツゥが手を小さく上げていた。


「また執務室までだろ? 出来るぜ」

「一度でも行けば、問題ありません」


 ワンとツゥも出来ると言う。

 あれ? 出来ないの……俺だけ?

 いや違う。出来ない訳じゃない。

 あれだ。ちょっと色々王城内を見た上で、執務室に行きたいだけだ。


 と思っていると、ワンとツゥも前に出て、エイトと共に並ぶ。


「ご主人様が望むのであれば、エイトは義理の妹のように接し、ご主人様を愛しいお兄ちゃんとして、我儘を言いながらご案内出来ます」


 まず、義理である意味は? 普通に妹じゃ駄目なの?

 それと、我儘の内容は……エイトなら恐ろしい我儘を言いそうで怖い。


「そうだな。あたいはこんな見た目だし、主の姉として振る舞うのも良いな。出来るかどうか、下手かもしれないけど、甘やかしながら案内してやるぜ」


 ……くっ。どんなモノなのか、ちょっと体験したいと思ってしまう。

 でも、姉なら私が居るだろ! と刀璃が怒るかもしれない……いや、ないか。


「ワン姉様が姉のように振る舞うのであれば……私は同級生、でも通じるでしょうか? それなら、誰かに見られればパッと離してしまいますが、それまでは手を繋いで登校するように、ご案内しましょうか?」


 まさか真面目なはずのツゥも参加するとは……いや、前々からそういう雰囲気があったけど。

 これはどっちか悩むな。

 元々そういう状態だったのか、それとも、エイトやワンに影響されたのか……。

 とりあえず確かなのは……ちょっと魅力的と思ってしまった。


「さぁ、ご主人様」

「あたいたちの誰に」

「案内を求められますか?」


 エイト、ワン、ツゥが、俺に向かって手を差し出してくる。

 えっと……選べと?


⦅私も居ますが? 道案内くらいなら出来ます⦆


 そうだね。今のセミナスさんなら出来るのか。

 ……うーん。どうしよう。


「とりあえず、自分の判断でも行けると証明したいんだけど?」

⦅それがマスターの選択なら⦆

「かしこまりました。エイトはご主人様の意思を尊重します」

「そうだな。挑戦する意欲を失わないのは大事だ」

「どのような結果になるのか、興味があります」


 うん。多分だけど、誰も上手くいくと思っていないよね。

 見てろよ! 俺が方向音痴じゃないと証明してやる!


 ………………。

 ………………。

 着いた。執務室に。


 やったー! と両腕を上げる。


⦅……可能性として存在していましたが、まさか⦆


 セミナスさんも驚きのようだ。


「……エイトは奇跡を見ました」

「すげぇな、主!」

「エイトとワン姉様の様子を考慮すると、私も驚くべきでしょうか?」


 エイトたちが揃って拍手を送ってくる。

 ありがとう……ありがとう……じゃなくて!


 いやいや待って待って。

 普通。これが普通だから。

 俺のスタンダードだから。


「これで、俺が方向音痴じゃないと証明出来た」

「そういう事でしたら、ご主人様。ワンモア」

「……ワ、ワンモア?」

「はい。ここから入り口に、入り口からここに、でお願いします」


 ………………。

 ………………。


「いえ、遠慮します」


 執務室の扉をノック。

 中から「どうぞ」と聞こえたので、そそくさと入る。


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