偶に真似したくなる事があるよね
飲食店に一気に人がなだれ込んでいく。
外からでもわかるくらいに、中から怒号が飛び交っている。
もう少しボリュームを抑えないと、ご近所の迷惑だから。
それに怒号の内容も、小さい子の将来に影響を与えないようなモノにして欲しい。
……簡単な解決方法は、さっさと終わらせる事だな。
うんうん。
なので、俺も突入! の前に、やる事をやっておかないと。
近くに居る騎士さんに、この場に同行した騎士や兵士さんたちを纏めている隊長さんを呼んでもらおう。
「隊長さんは?」
料理店を真っ直ぐ指差された。
……なるほど。既に突入していたのか。
血気盛んだな。
隊長職は色々と溜まっていそうだから、発散しているのかもしれない。
しかし、既に突入しているとなると、呼び戻す訳にもいかないし……。
「なら、副隊長さんは?」
俺の問いに、騎士さんは自分を指差す。
……あっ、副隊長さんだったんですね。
これは失礼しました。
なにぶん、初対面なモノで、挨拶が遅れてしまい……。
頭を下げると、副隊長さんも、いえいえと頭を下げる。
「でも、さすがに冷静ですね。こうして少し離れた位置で全体を見渡して」
「いえ、乗り遅れただけです」
「……それはつまり、乗り遅れていなかったら、行っていたと?」
あそこに? と飲食店を指し示すと、その通りです、と頷きが返される。
「喜々として」
副隊長職も、色々と溜まるのかもしれない。
「既に遅過ぎました。もうあそこに、暴れられる場所と相手となるような獲物は求められません」
残念そうに言うなぁ。
それに、もう獲物認定なのね。
でも、そういう事なら。
「実は副隊長さんに、良いお話があるんですけど」
「どのような話でしょうか?」
「実はあそこ、地下にいくつか抜け道が」
「詳しく聞きましょう」
食いつき過ぎじゃない?
「王都の地図を」
「地図を持って来い!」
即座に王都の地図が用意されたので、その地図上にいくつか丸を描いていく。
一つじゃないんだ?
⦅いくつかの裏ギルドが関わっていますので、組織ごとに逃げ場が違うのです⦆
そういう事ね。
「あと、ここと……ここ……これだけ? ……うん。これだけみたい。この丸を付けた場所に出入口があって、それぞれ何人か出てくるみたいです」
「よし! これで暴れ……ゴホン。全て捕まえるために、人員を向かわせないといけませんね。……ちなみにですが、どこが最も楽し……キツイところでしょうか?」
……暴れたいのかな?
とりあえず、求められた場所を二重丸に。
「では、私は二重丸のところに向かう! いくつかの班に分けるぞ!」
副隊長さんの仕切りによって、騎士や兵士たちが迅速に動いていく。
もちろん、目の前にある飲食店の包囲を解かない程度の人員は残してくれていた。
さて、それじゃ、俺も飲食店の中に行きますか。
もう急ぐ必要はないので、のんびりと歩いて向かう。
どうも、お疲れ様です。どうも、お疲れ様です。
すれ違う騎士や兵士さんたちに向けて挨拶していく。
飲食店からは、突入した騎士や兵士さんたちが、見た目からして悪そうな人たちを縛った状態で連れ出している。
もうほとんど終わっているようだ。
飲食店の扉の前に立ち、一呼吸。
中に入る。
「やってる?」
飲食店の中は……荒れていた。
うん。営業してないね、この店。
まともな机がほとんどないし、椅子は壊れているし、床に割り箸は散乱しているし、ボコボコの悪党が縛られているし、同じくボコボコの兵士さんが休んでいるし……。
元からこうなのか、突入によってこうなったのか……判断がつかない。
とりあえず、まだここで飲食店を続けようとするなら、かなりのお金がかかりそうだ。
そう思って店内を見ていると、騎士さんに取り押さえられていた悪党顔の男性が急に暴れ出す。
「おらぁ!」
「ぐっ!」
押さえていた騎士さんを払い退け、悪党顔の男性がこちらに向けて駆けてくる。
え? なんでこっち?
……後方には、飲食店の扉。
逃げ出したい訳ね。
でも、状況をよく考えてみて?
外にも騎士や兵士さんたちはたくさん居るんだよ?
包囲されているんだから、逃げれる訳ないじゃん。
それとも、自分の腕によっぽどの自信があるのだろうか?
でも、さっき取り押さえられていたから……自信があるのは逃げ足の方かな?
なんて事を考えている間に、悪党顔の男性が俺に迫る。
「どけぇ! 邪魔だ、小僧!」
何おう! と、構えて……みたものの、どうしよう?
攻撃力がなくても、取り押さえる事は出来るのだろうか?
それとも、足でも引っかけてみる?
⦅マスターは何もする必要はありません⦆
そうなの? と思った瞬間、こちらに飛び込んでくる存在が居た。
「ちぇー!」
エイトが、右の壁→天井→左の壁と、三角跳びの要領で騎士や兵士さんたちを飛び越えて一気に近付き、勢いそのままで悪党顔の男性の顔を横から蹴り飛ばす。
悪党顔の男性が体ごとぐるっと回る。
「ふんっ!」
ワンが一瞬で目の前に現れ、悪党顔の男性の顎に綺麗なアッパーカットを食わらせる。
悪党顔の男性の体が一瞬浮き、膝から崩れ落ち。
「よいしょ」
ツゥが横から現れ、悪党顔の男性が完全に倒れる前にビンタを食らわせる。
ビンタの力が強かったのか、悪党顔の男性の体が一回転して、そのまま倒れた。
………………。
………………。
最後のビンタ。必要だっただろうか?
いや、助けてくれたのだから、そこを問うてはいけない。
エイトたちに、ありがとう、と感謝を伝えないと。
「ご主人様の安全は」
「あたいたちが守る」
「それが私たち……」
エイトを中心にして、左右に居るワンとツゥが決めポーズを取る。
「「「ゆるゆる神造生命体 略して、『ゆるホム』隊!」」」
ババーン! とエイトたちが宣言。
おぉー! と店内に居る騎士や兵士さんたちから拍手が起こる。
調子に乗るから、拍手はやめて欲しい。
……うーん。神様たちの登場に影響されたのかな?
あれは見習っちゃいけない部類だと思うんだけど。
琴線に触れるような部分があっただろうか?
それはわからないけど、とりあえず一つ言いたい。
ゆるゆると言っていきながら、やった事は一つもゆるくないと思うのは、俺だけだろうか?
それと、チラチラこっちを見ない。
あれかな? 感謝の言葉待ちとか?
「………………アリガトウゴザイマス。タスカリマシタ」
棒読みになってしまったのは仕方ないだろう。
それでも満足してくれたのか、決まった! と言わんばかりに、エイト、ワン、ツゥが俺に向けて親指を立てる。
流れで俺も親指を立てておいた。




