こちらも動いていきます
感動の再会から場が落ち着いた頃、話を再開。
といっても、こちらの……ガラナさんの味方になってくれませんか? と聞くだけ。
もちろん、強要はしない。
家族や恋人に危険が迫った以上、関わりたくないとか、この国を出たいとか、身を隠したいとか、安全第一を選んでくれても構わないのだ。
当然、断っても責は求めない。
邪魔者たちの手助けをしないだけでも、ガラナさんにとっては充分だろうし。
そこら辺も合わせて伝えて、あとの選択は任せた。
まぁ、味方になってくれた方が早く片が付くけど、セミナスさんだけでも問題はない。
ただ、それだと、動かせる人数的に多少の時間がかかるというだけ。
⦅それだと困る可能性があります⦆
困る理由は、まだ教えてもらっていない。
⦅まだ不明瞭ですので⦆
セミナスさんが言葉を濁すのは珍しい。
なので、出来れば味方になって欲しい、というのが俺の本音である。
その結果は――。
「私たち一同、これまでガラナ陛下に、そしてこの国の平和に対して、これまで不義理を働いてしまいました。不義理な行いによる汚名を、ガラナ陛下の下でそそぎたく思います」
「よかろう。協力を感謝する」
高齢の執事さんが代表した言葉に対して、ガラナさんがそう答えた。
ガラナさんは、安堵したかのような笑みを浮かべる。
俺も一安心。
「感謝とは……当然の事を成すだけでございます、ガラナ陛下。それで、私たちはどのように動けば良いのでしょうか?」
高齢の執事さんの問いに、ガラナさんは俺に視線を向けてくる。
いや、ガラナさんが言った方が効果的だと……あぁ、細かい部分までは覚えきれてなかったのね。
一気に詰め込んだから、仕方ない。
こほん、と一つ咳払い。
「これから皆さんにはお願いしたい事があります……が、その前に一つ確認します。超一流の腕を持つ皆さんであれば、脅迫された訳ですから、当然相手の事も調べていますよね? ……その裏に居る人たち、一部の貴族たちの事も」
俺の問いに、それはもちろんと黒い笑みが返ってくる。
肯定って事かな?
さすが超一流。怖い。
「当然、そこら辺もこのまま一気に排除する予定ですので、皆さんの情報は追い込む事に使えますので、その提出をお願いします」
問題ないと頷きが返されたので、俺は紙束を持っているツゥに視線を向ける。
頷きと共に、ツゥは味方となった高齢の執事さんたちの下へ。
ツゥが持っている紙束はいくつかに分けられていて、その数は超一流の腕を持つ人たちの人数と同数。
それを該当する人に配っていく。
紙束に書かれている内容は大体共通していた。
裏ギルドの裏に居る貴族の屋敷の正確な見取り図や人員の配置場所、どこに何があって、こちらに必要な証拠の場所と、会わせてそれを入手するための簡単な手段方法が書かれている。
ただ、簡単な手段方法だが、それは前提となる腕があればこそ。
一流では無理でも、超一流なら出来る、という程度のもの。
共通していない部分は、書かれている貴族が違うという事くらい。
要は、超一流の人たちに向けた依頼書。
もちろん、報酬額も書かれている。
ついでに、やる気に大きく影響するとセミナスさんが言うので、元々皆さんを解放する気もなく、更に家族や恋人を貴族たちがどうするつもりであったかも書いておいた。
やる気の問題なら、それこそ裏ギルドの人たちの方をお願いすれば良いと俺は思ったのだが、それだと逆にやり過ぎて色々駄目になってしまうとセミナスさんに教えられたので、貴族たちの方をお願いする事になったのだ。
やり過ぎてしまう自覚があるのだろう。
文句は出なかった。
それでも、読み終えた全員が悪い顔を浮かべている。
なので、念のため。
「えっと、一応言っておきますが、殺さないように。ガラナ様が女王として、きちんと裁く必要がありますので。それと、必要なのは紙に書かれている証拠です。そこさえ守って頂ければ……あとは皆さんのお好きなように」
更に悪い顔になっている。
あれ? 言葉のチョイスを間違えた?
⦅いえ、やる気に満ち溢れていますので問題ありません⦆
大丈夫だった。
そして、超一流の人たちは、ガラナさんの合図と共に出撃。
存分に仕事をしてもらうため、家族や恋人たちはこの王城で一時的に保護してもらった。
さて、次に行こう。
―――
超一流の人たちが、一部の貴族たちに対する証拠を集めている間に、こちらは今回の件に参加しているいくつかの裏ギルドを潰すために動く。
謁見の間から出て行ってもらった人たちが味方にならない理由も、その裏ギルドに所属しているから。
なので、騎士や兵士さんたちにあとを付けてもらい、ついでに上司を捕まえるのだ。
ただ、その数が多いため、相手を逃がさないように、こちらもある程度の数が必要だった。
セミナスさんによると、俺やエイトたちだけでは捕まえきれず、逃げ切る者も居たそうだ。
まぁ、あとで捕まえる事も出来たのだが、時間がかかって面倒なので、一気に終わらせる方法を選択したらしい。
なので、そっちは協力してくれる騎士や兵士さんたちに任せて、こちらは少数精鋭で本拠地を叩きに行く。
といっても、いくつかの裏ギルドが協力している以上、本拠地もその分の数がある。
もちろん、本拠地もセミナスさんによって場所が判明しているので、騎士や兵士さんたちが向かっていた。
そんな中、俺の狙いはある場所。
そこに向かったメンバーは、俺、エイト、ワン、ツゥに、騎士や兵士が百名ほど。
神様たちは、色々やる事があると一旦帰っている。
「はい。という訳で、こちらが」
王都の大通りに小さな飲食店。
そこを観光ガイドのように指し示す。
「現在、襲撃が失敗したとも知らずに、いくつかの裏ギルドの主だった人たちが集まって、密談している場になります」
「なるほど。ここですか」
「準備運動しとかないとな」
「一人も逃がさないように徹底的ですね」
エイトはほうほうと頷き、ワンは軽く準備運動をし、ツゥは何やら怖い。
うん。いつも通り。
ちなみにだが、護衛の人たちは表に配置されていない。
如何にもここに何かがありますよ、と宣伝しているようなモノだしね。
『………………』
ただ、騎士や兵士さんたちからの反応がない。
その様子を見る限り……疑いや戸惑いが多い感じ。
なるほど。
気持ちはわかる。
俺たちと騎士や兵士さんたちは初対面だしね。
ガラナさんの命令だから付いてきてくれただけだから、信じられない気持ちもわかる。
理解出来るよ、俺。
「でも信じて! 本当だから! 嘘吐いてないから! 行こ! とりあえず行こ! 行けば、中に入れば本当だってわかるから!」
そう説得を試みるが、状況は芳しくない。
すると、飲食店の扉が開かれる。
「なんだ? うるさ……」
出てきたのは、目の上に傷があるいかついおっさん。
そのおっさんが、こちらを見て……正確には騎士や兵士さんたちを見て固まる。
「……あっ、あの顔。指名手配中の」
騎士や兵士さんたちの中からそんな呟きが聞こえたと同時に、そのおっさんは飲食店の中に引っ込んで勢いよく扉を閉めた。
………………。
………………。
「かかれぇ~!」
『おおおおお!』
俺の号令と共にエイトたちと騎士や兵士さんたちが、飲食店を取り囲んで突入する。




