これは、そういう集まりです
俺の宣言に、集められた人たちが再びザワザワし出す。
中には取り乱し、ガラナさんにどういう事ですかと追及する者まで居る。
うんうん。普通はそういう反応するよね。
でも、俺は知っているんだな。セミナスさんに教えてもらって知っているよ。
もちろん、ガラナさんも。
――それが演技で、ここに居る全員がそうだって事を。
ただ、全員が望んでそうしている訳ではないので、これはその抜き出しのための場だ。
「……静かにしろ。今は黙って話を聞き、従え」
ガラナさんの言葉で、再び静寂が訪れる。
……本当に物音一つしない場って落ち着かない。
さっさと終わらせよう。
「では、先ほどこの中にそういう者たちが居るって言いましたが、実は既に洗い出しは終わって判明しています。これから名を挙げる人以外はどうぞお帰り下さい」
ニッコリと笑みを浮かべてそう言う。
「ご主人様。悪巧みをしているような黒い笑みになっています」
エイトの忠告に、ワンとツゥがうんうんと頷く。
あれ? 俺としてはニッコリしただけなんだけど?
だよね? セミナスさん。
⦅否定出来ません⦆
……やる事は変わらないので、気にしないでおこう。
順々に名を挙げ、それ以外の人たちには謁見の間から出て行ってもらう。
残ったのは、十人にも満たない数。
もちろん、出て行かせた人たちの方もそのまま見逃すつもりはない。
この場に集まっていた人たちは、この王城で諜報活動を行い、ガラナさんの邪魔をしていた人たちでもあるのだから。
では、この場に残した人たちと、出て行かせた人たちの違いは何か。
それは簡単。
味方に出来るか、出来ないか、である。
この場に残したのは味方に出来る人たち、この場から出て行かせたのは味方に出来ない人たちだ。
なので、当然のように味方に出来ない人たちをそのまま放置する訳がなかった。
なんでも、この場から退出させると同時に動き出し、報告のためにそれぞれ上司となる人物に会いに行くそうだ。
ガラナさん協力の下、そのあとを騎士や兵士たちが追い、上司と接触した段階で捕縛する手筈を立てている。
ちなみにだが、見失っても問題ない。
一人一人、行動の全てを事細かに記した紙を渡している。
どこでどう会い、どういう風に情報を渡し、追跡がバレた場合のルートや攻勢に出られた場合の対処方法も記しているのでバッチリだ。
セミナスさん曰く、これで味方に出来ない人たちの方は、大丈夫らしい。
そして、この場に残した、味方に出来るとセミナスさんが判断した人たち。
なんとまあ、脅されて嫌々やらされているそうだ。
脅しのネタとなっているのは、家族や恋人。
というのも、セミナスさん判定によると、出て行かせた人たちの諜報の腕は一流で、この場に残した人たちの諜報の腕は超一流だそうだ。
王城にも、というかガラナさんにも、そういう諜報部隊的な人たちが付いてはいるが、腕はこの場に残した人たちの方が上らしい。
それで、超一流の方を働かせ、一流の方は監視と報告を行っている、との事。
で、その超一流の腕を持つ人たちを従わせるために、家族や恋人を人質に取っているそうだ。
嫌な話だ、まったく。
それをやっているのは、邪魔している貴族たちに雇われた、裏ギルドと呼ばれる犯罪組織のいくつか。
王都クラスの規模になると必ずそういう組織は出来るそうだが、今回のは邪魔している貴族たちも絡んでいるという事もあって相当あくどい事……この国のためにならない事を色々と行っているらしい。
何しろ、内容を聞いたガラナさんが、迷う事なく徹底的に潰す決断をしたくらいだ。
見せしめたい、とも言っていた。
この国の最高権力者を敵に回した事を後悔させてやる、とも。
怖いですね~。
もちろん、このあと潰す予定です。
今は、この場に残した人たちを味方に引き込むのが先。
「では、まずはそちらの……アルリウムさん。前へ」
「………………」
俺の呼び出しに応えて、高齢の執事さんが前に出てくる。
何やら覚悟を固めたような悲痛な表情だ。
いやいや、そんな表情はしなくても良いんだけど……まぁ、良いか。
エイトから紙束を受け取る。
この紙束は真っ白。
何も書かれていないけど、読み上げる風を装う。
演出です。
「アルリウムさん……あっ、本名は違うんですね。まぁ、それは良いけど、『隠密』って二つ名はどことなくカッコいいですね」
「………………」
会話はキャッチボールだけど……返してくれないようだ。
どうしたら会話してくれるだろうか?
……褒めれば良いのかな?
………………。
………………渋いですね?
「言い逃れはしません。罪がこちらにあるのは理解しています。行ってきた事が、この国のためにならない事も。なので、老い先短いこの命を差し出す事も厭いません。ですが、どうか一つだけ、願いを聞き届けては頂けないでしょうか?」
会話のきっかけを探している間に、勝手に返答があった。
うん。重い。
そういう事を言って欲しい訳ではない。
というか……うん。もう無理無理。
そもそも、こういうの苦手なんだよね。
ズバッと、サクッと、終わらせよう。
「あぁ~、何か勘違いしているようですけど、そういう話じゃないですよ、これ」
「……では、どういう話でしょうか? この場に集められた者たちは、そういう職種の者たちだけでしたが?」
だよね。
そう疑ってしまうのも仕方ない。
「それはそうですけど……まぁ、もう実際に会ってもらった方が早いか。すみませーん! お願いしまーす!」
合図と共に謁見の間の扉が開かれ、全員の視線がそちらに向けられる。
現れたのは、高齢の女性に、純朴そうな男女と、その男女によく似た二人の子供の一家。
「という訳で、人質となっていたアルリウムさんの家族を助け出しました」
「……ま、まさか! 本当にお前たちなのか! いや、間違えようがない!」
「あなた!」「お父さん!」「お義父さん!」「「じいじー!」」
高齢の執事さんと一家は互いに駆け寄り、涙を流しながら力強い抱擁を交わす。
うんうん。感動の再会だ。
思わず拍手しそうになるが、それはこの場にそぐわないのでやめておく。
誰もしていないし。
犯罪組織の隠れ家からこの一家を救い出したのは、神様たちである。
セミナスさんの指定する場所にパッと行ってもらい、救出してもらったのだ。
きっと、助け出した人たちの記憶の中に、神様たちの活躍が刻まれた事だろう。
それと、助け出した人たちには、簡単な経緯の説明だけしておいたのだが……こうなると、落ち着くまで続く話は出来ないので。
「えっと、次は……」
俺の呟きが聞こえたのか、高齢の執事さん一家以外の人たちが、一斉に俺を見る。
また、感動の再会の光景を見て、この集まりがどういう集まりなのかを察したのだろう。
俺を見る目には、期待が込められている。
まぁまぁ、待て待て。
慌てない慌てない。
順番。順番を守って。
あいうえお順でいくから。
「それじゃ、次の人は……」
――十数分後。
謁見の間は無事を喜ぶ声と、ぽろぽろと零れる嬉し涙を流す音で満たされた。




