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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第八章 軍事国ネス
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偶に余計な一文を付け足したくなるよね

 屋敷の中が豪華なのは、外観とか敷地面積を踏まえればわかる事だった。

 置かれている家具や物が、どことなく品があるというか、洗練されたセンスのようなモノを感じるのもわかる。


 いや、でも、わかるっていうのもアレだね。

 間接的に、自分はセンスがありますよって言っているように思えなくもないから、わからないって事にしておこう。

 ……でも、それはそれでセンスがないって事になるかもしれない。


 ………………。

 ありっちゃありだし、なしっちゃなし……という事にしておこう。

 いや、それよりも、ありよりのなし? なしよりのあり? の方が良いかな?

 ………………。

 わかんないからもう良いや。


 とりあえず確かなのは、絨毯がふっかふか。

 なんか沈み込む感じがする。


「どうかされましたか?」


 高齢の執事さんに声をかけられて、ビクッと体が跳ねる。


「いえ、なんでもないです」


 そう答えるが、何を考えていたのかを察せられてそうだ。

 でもそうだった場合が怖いので、何も聞かずに視線を屋敷内に向ける。

 そこで気付いた。


「……あれ? エイト」

「はい」

「ワン」

「おう」

「ツゥ」

「はい」

「カリーナさん……シュラさん」


 ……返事がない。近くに居ないようだ。

 え? ここまで連れて来ておいて放置?


「ふむ。どうやら先に向かわれたようですな。ガラナ様を心配するのは構いませんが、お連れになったお客様方を残していくのは、いくらカリーナ様といえども少々いけませんな。シュラ様も同じく」


 高齢の執事さんがそう言うが、どこかピリッとした雰囲気がある。

 これはあとで、カリーナさんとシュラさんが、色々とお小言を言われそうな予感。

 ……自業自得ですけど頑張って下さい、と心の中で応援しておく。

 ただ、ここで同じ失敗はしたくないので、まずがご挨拶。


「えっと、明道といいます。お邪魔します」

「ふむ。挨拶は交流する上で大切な事です。よくわかっていらっしゃる。これは失礼致しました。ネス王家に仕える者たちの執事長をしております。クルジュと申しますので、以後よろしくお願い致します」


 高齢の執事さん――クルジュさんが一礼するので、それに合わせて俺も一礼する。

 ついでに、エイトたちも紹介。


「エイト」

「ご主人様のメイド兼妻です」

「ワン」

「護衛で、主はあたいが愛する唯一の男だ」

「ツゥ」

「アキミチ様のところに最近入った、新しい女です」

「ほっほっ。お盛んですな」


 ちっがーう!

 なんで誰も正しく言わないの?

 いや、メイドとか護衛とか最近とかは合っているけど、どうして余計な一文が加わっているの?


 一部違うと説明しようと思ったが、クルジュさんはそれも察していそうだ。

 なんだろう。

 軍事国ネスはそういう国なのか?

 それとも、カリーナさんの察し力は、このクルジュさんからの賜物なのだろうか?


 ……どっちにしても、二人の察し力が高い事に変わりはないか。

 なので、放置。

 今は、カリーナさんとシュラさんのあとを追わないといけない。


「では、こちらにどうぞ。私が秘密裏に案内しましょう」

「えっと、良いんですか? 秘密なんですよね?」

「皆様をここまで連れて来ている段階で、既に秘密ではありませんので」


 そう言って、俺たちを先導してくれるクルジュさん。

 うん。なんだろう。

 クルジュさんから仕事出来る感が醸し出されているからか、カリーナさんとシュラさんに案内されるよりも、安心感が段違いだ。


 うんうんと頷きつつ、あとを付いていく。

 クルジュさんがそのまま一階の奥に進んでいくと、そこには半開きの扉があった。


「……あとから向かったのはシュラ様ですか。せめて、閉めていって欲しかったのですが」


 嘆かわしい……とでも言うように頭を振り、クルジュさんは扉をきちんと開けて俺たちを室内に誘導する。

 室内は、屋敷の主が使うような立派な書斎だった。


 大きな机に豪華な椅子、柔らかそうなソファーと高そうなテーブル、読むだけで頭が痛くなりそうな本棚、意図が不明な大きな壺と、完璧配置。

 足りないのは、使用している人の姿がない事ぐらいかな。


 そんな書斎だが、本棚の一部がずれて、奥に進めるようになっていた。

 そこを指差しながら尋ねる。


「えっと……もしかしてですけど、あそこを進む感じですか?」

「その通りですが……ここも閉じていませんか。カリーナ様と共に進む事を優先した気持ちはわかりますが、これはあとで説教ですね」


 想像だけど、かなりきつい説教をしそうだ。

 ……頑張れ、シュラさん。

 俺は助ける事は出来ません。


 そもそも、秘密の逃走経路だったはずなのに、これだともろバレである。

 隠しておかないといけない事を公開していったのだ。

 庇う事は出来ません。


 どんな叱られ方するんだろうなぁ……と思いながら、秘密の逃走経路を進んでいく。

 書斎の奥には下に向かう階段があり、その先は一本道。

 光源に関しては、クルジュさんが魔法を唱えて、空中に浮かぶ光る球体を出現させたので問題なし。


 わりと簡単にやっていたけど、俺もそういうのが出来た方が良い気がする。

 出来ないの? セミナスさん。


⦅マスターが仕事から帰ってきた時の恒例の謳い文句。ご飯にする? お風呂にする? それとも、わ・た・し? で選んだ場合を想定……ご飯の場合は私を頂いて頂き、お風呂の場合はそのまま一緒に、わ・た・しの場合は言葉通りで……これで予習は完璧ですね。続いて、それぞれの場合での衣服も考えておかなければいけません。裸エプロンを標準として⦆


 うーん。駄目だ。まだ現実に戻ってきていない。

 あと、どれを選んでも同じような結末になる選択を求めるのは駄目だと思う。

 まだ戻って来そうにないので答えは聞けないけど、多分出来ないような気がする。

 まぁ、その時はエイトに頼れば良いか。


「お任せ下さい」


 そういえば、ここにも全てを察するタイプが居たね。

 問いかける前に答えるのはやめた方が良いと思う。

 でも、エイトなら出来るのね。

 その時はお願いします、と頷きだけ返しておいた。


 一本道を進んでいくと、途中で休憩所みたいなところがあったけど寄らず、そのまま突き進んでいく。

 進んだ先にあったのは、上に続く階段。

 下りた分よりも上がっていく。


「これ……どこまで上るの?」

「そうですな。王城の上の方まで、とだけ言っておきましょうか」


 ……大変そうだなぁ。

 一気に行くと疲れるだろうから、ペース配分を守ってゆっくり行こう。

 と俺は思っていたんだけど、他は違った。


 クルジュさんは慣れた様子でサクサクスタスタとハイペースで上っていく。

 エイト、ワン、ツゥも問題なくそのペースに付いていっている。

 しかも、誰も疲れた様子は一切ない。


 でも、俺は違う。

 もう太ももがブルブル震えそうなんですけど?

 あれ? おかしいな?

 運動不足は解消したはずなのに。


 単純に身体能力の差かな?

 そう思う事にして、これからもっと頑張ろうと思った。

 そして上まで辿り着くと短い通路があり、その先は入って来た時と同じように半開き状態の壁。


「説教の強さを一段階上げないといけませんな」


 そう言うクルジュさんの表情は怖くて見れなかった。


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