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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第八章 軍事国ネス
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真正面から行く訳がない

 向かった王城の外観は、荘厳な西洋城って感じ。

 王都とは別の高い壁が王城を守っている。

 ただ、ここでも真正面から入るような真似はしない。

 折角バレないように入って来たのだから。


「……なので、別の道から入城します」

「けど、カリーナ様。アキミチたちにバラしても良いのか?」


 シュラさんが窺うように俺たちを見る。

 え? 何? バレちゃいけないようなルートなの?

 一部の者しか知らないような秘密の逃走経路的なヤツかな?

 でも……。


⦅既に把握していますが、どうかしましたか?⦆


 だよね。そうだと思った。

 でも、わざわざ言わない。

 余計な火種になるだけなので。

 でも、その前に俺からも言いたい事がある。


 そういう相談は、聞こえないところでやるべきじゃないかな?

 ……それだけ仲良くなったという事にしておこう。


「構いません。今重要なのは、このまま私たちが戻った事を知られずに姉様と会う事です」

「わかった。確かに、先手を打つならそれが一番だ」


 問題ないらしい。

 馬車が再び移動開始。

 どこに行くのかと思っていたら、なんか大きな屋敷が一杯並んでいるようなところだった。

 どの屋敷にも門番たちが必ず居るし、俗に言う貴族街ってところなのかもしれない。


 このままどこに行くのだろうと思っていたら、三階建ての大きな屋敷がある広い敷地の門の前で馬車がとまる。

 当然門番たちが居るので、こちらを警戒するように窺いながら近付いてきた。


「当家に何か御用でしょうか?」

「もし違うのであれば、早々に移動をお願いします」


 門番たちがある距離まで近付くと、携帯している武器に手をかける。

 いつでも迎撃出来るように、だと思う。

 そこで、シュラさんがちらりと自分の顔を門番たちに見せながら声をかける。


「そう警戒するな。私だ。それと、馬車の中には……言わなくてもわかるか」


 その効果は劇的で、門番たちは敬礼しようとしたが、それは目立つとシュラさんがとめる。

 問題なく屋敷の敷地内に入る事が出来た。

 馬車は屋敷の玄関前にとまり、カリーナさんが馬車を降りて扉をノック。


 現れたのは、モノクル装備の高齢の執事さん。

 なんというか、モノクルと執事服が違和感ないというか、似合い過ぎてピッタリ。


「おやおや私の記憶が確かならば、カリーナ様はEB同盟を正すために、ここから発っているはずですが……どういう事でしょうか? シュラ様も居るようですが、偽者でしょうか? それとも、夢か幻でしょうか?」

「いつものように遊んでいる暇はありません、クルジュ。秘密裏に急いで姉様と会わないといけませんので、ここから進みます」

「そうですか。それは残念ですが、致し方ありませんね」


 高齢の執事さんが扉を開け、カリーナさんを屋敷の中に招き寄せる。

 代わりに屋敷の中から若い執事さんが現れて、シュラさんの代わりに馬車を預かっていた。

 高齢の執事さんと似ているから、親子かもしれない。

 シュラさんも屋敷の中に入っていく。


 その一連の行動を見て思う。

 疑うとか、ないんだろうか? と。


⦅どうやら、そこの執事は王族に仕える者のようで、逃走経路を求めて来た事が、本人であると証明になっているようです⦆


 なるほど。

 と頷いていると、その老齢の執事さんが、馬車から降りた俺たちをジッと見る。


「それで、あなた方はどちら様でしょうか?」

「えぇと……」


 なんと答えたモノか。

 説明してくれるはずのカリーナさんとシュラさんは、もう既に屋敷の中に入っていて姿が見えない。

 いやいや、こういうのは最初に言っておくべき事じゃないかな?


 どうしたモノかと考え始めると、エイトがスッと前に出る。


「初めまして。こちらのご主人様にお仕えするメイド。エイトと申します」


 それは、俺も初めて見る綺麗な一礼だった。

 相手が執事という事もあって、エイトの中で何かしらの対抗意識でも芽生えたのかもしれない。


「ふむ……メイドとして完成された見事な所作。さぞかし、名のあるメイドなのでしょう。よろしい。入る事を許可します」

「ありがとうございます」


 高齢の執事さんが真剣な表情でそう言い、エイトがスタスタと屋敷の中に入っていく。

 いや、名はどこにも轟いていないと思うけど?

 ……魔族の国の宰相さんくらいじゃないかな?

 ……字面だけなら凄そうに思えるから不思議だ。


「次はあたいだな」

「ふむ……その覇者のような恰好と佇まい。名のある強者なのは間違いありません。枯れ木のような私ではポッキリと折れてしまいますね。命が惜しいですので、どうぞお進み下さい」

「そうでもないと思うが、入れてくれるってんなら、入るさ」


 高齢の執事さんの言葉に、ワンはどこか挑戦的な笑みを浮かべつつ屋敷の中に入っていく。

 いや、名はどこにも……轟いているな。

 今は主に獣人の国に。

 今後はもっと轟く可能性がある。


「私も入ってよろしいですか?」

「ふむ……あなた様からは聡明さを感じますな。今は亡き私の妻も、あなたと同じように聡明さを感じる美しい女性でした。どうぞお入り下さい。亡き妻の事を鮮明に思い出すきっかけを頂けたあなた様に対する、ささやかなお返しでございます」

「ありがとうございます。では、入らせて頂きます」


 高齢の執事さんの対応に、ツゥは柔和な笑みを浮かべて屋敷の中に入っていった。

 いや、どういう理由?

 それで良いのか? と思うけど、きっと高齢の執事さんの中で色々と判断基準があるんだろう。

 そう納得する事にした。


 でもまぁ、入れる事はわかったので、このまま流れで屋敷の中に入れば良いか。


「それじゃ、失礼して」

「待ちなさい」


 高齢の執事さんにとめられ、上から下まで値踏みするように見られる。


「ふむ……私の見立てを信じるのであれば、どこからどう見ても普通の者。あの方たちと行動を共にする理由がわかりませんが……」


 いや、どこからどう見ても普通というか、変なところはないと思うんだけど?

 え? なんか変なところある?

 自分で自分の体を確認してみるが、特に変な部分は見えない。


 というか、あれ?

 この流れ……もしかして、俺は中に入れない感じ?

 ………………ラッキーと思っちゃいけないのかな?

 面倒な事に巻き込まれなさそうで嬉しい、とか。


 でも、ベッドとお風呂は捨てがたい。


⦅問題ありません。マスターには私が付いています。いざという時は……ふふふ⦆


 セミナスさんがそう言った瞬間、高齢の執事さんが一瞬だけ目を見開く。

 なんかこう、電気が走った……みたいな。


「今しがたの悪寒は一体……その上、私の直感が警鐘を鳴らしています。敵対してはならない、と」


 多分、セミナスさんに反応したのだろう。

 そうすると、かなり鋭い人なのかもしれない。


「だからこそ、味方ならこれほど頼もしい事はない、という訳ですね。失礼致しました。どうぞ、お入り下さい」


 ……えっと、もしかしてだけど、俺単体なら入れなかったのかな?


⦅そこを気にする必要はありません。マスターと私は同体。つまり、これからの生涯を共にするだけではなく、生き死にも同じという事。言い方を変えるならば、マスターと私の関係性は夫婦!⦆


 いや、それは違うような気がするんだけど……突っ込んだ方が良いのだろうか?

 でも、セミナスさんは妄想タイムに入ったのか、応答がない。

 少し時間を置けば大丈夫だろうと判断して、屋敷の中に入った。


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