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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第七章 お礼
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自分ではよくわからないもんだ

 状況的に敵としか思われない今、直ぐそこに居る女性にどう声をかけたものか悩む。

 ……どうしたら良いの? セミナスさん。


⦅マスターの思うまま。そのままで大丈夫です⦆


 そうなの?

 なら、そうするか。

 一応、超硬質棍棒は見せないように半身だけ飛び出し、思ったまま声をかける。


「助けに来ました!」

「本当か! 助かった!」


 一瞬で食いついてきた。

 輝くような満面の笑みだけど……あれ?


「えっと……俺を盗賊の仲間だとは思わないんですか?」

「仲間なのか! お前!」


 一転して憤慨の表情を浮かべ、攻撃体勢を取る女性。


「いやいや、今のはそう思わないのかってだけで、盗賊とは一切関係ありません! 助けに来たのは本当ですから!」

「なんだ、そうなのか。驚かせるなよ」


 再び一転して、笑みを浮かべる女性。

 ……ふむ。


「いえ、敵です」

「なんだと!」

「言い間違えました。味方です」

「そうか。よかった。間違えたのなら仕方ない」

「やっぱり敵です」

「さぁ、かかってこい!」

「と盗賊に見せかけて、本当に助けに来ました」

「なるほど。策略家だな!」


 ………………。

 ………………。

 なるほど。純粋な人なんだな。


⦅マスターはそういう反応になるのですね⦆


 そういう反応と言われても、他にどんな反応があるの?


⦅てっきり、馬……いえ、マスターはそのままでいて下さい⦆


 意味がわからないけど、今は目の前の女性である。


「とりあえず、かなり疲れているようですけど、大丈夫ですか?」

「そうだな。追い込まれていたのは確かだ。体力は僅かだが、気力はまだまだ残っているから大丈夫だ」


 むんっ! と腕を折り曲げて力こぶを見せてくる女性。

 ……鎧で見えない事は言わないでおこう。


「もう休んで頂いても大丈夫ですよ。俺の仲間たちが外の盗賊団とその他を蹂躙していますので、あと少しの辛抱です」

「そうなのか? 随分と強い仲間たちを持っているんだな」

「そうですね。恵まれていると思います」

「良い仲間を得る事は、大変素晴らしい事だ。大事にすると良い」


 女性と一緒に、うんうんと頷く。

 まぁ、本人たちには言えないけどね。

 それにしても、なんというか、この人とは波長が合うというか、歯車が噛み合うような感覚を得るな。


⦅私も、ここまでくると、嫉妬の対象として見るべきか悩みますね。逆に⦆


 どういう事? と思っていると、女性から声がかけられる。


「それにしても、そうか……盗賊たちが蹂躙されているのか。多少なりともやり返したくはあったが、私の棍棒が手元にない以上、大人しくしておく方が良いか」

「あっ、あなたの棍棒ならここに」


 超硬質棍棒を見せると、女性が目の前に現れる。

 ……動きが一切見えなかった。


「確かに私の棍棒! 取り返してくれたのか!」

「そうです。必要かなって」

「ありがとう!」


 ハグされた。

 鎧が痛いので、そこら辺を考慮して下さい。

 ハグから解放されたあと、超硬質棍棒を女性に返す。


「よぉーし! これで私も蹂躙だぁー!」

「あっ、その前に奥に居る人たちに」

「うおおおおおっ! やりかえーす!」

「俺の事を……」


 超硬質棍棒を受け取った女性は行ってしまった。

 出来れば、奥に居る人たちに、俺の事を説明して欲しかったんだけど。

 でもまぁ、同じようにすれば大丈夫でしょ。


⦅今回の事が特殊事例ですので、次はそう上手くいきません⦆


 大丈夫だよ、セミナスさん。

 いざという時のボディランゲージには、自信があります。


⦅そんな自信は捨てて下さい⦆


 酷いっ! 俺の中で誇れる事の一つだと思うんだけど!


⦅……このまま奥に行ってもこじれるだけですので、蹂躙しに向かった馬……突撃女が戻って来るのを待って下さい⦆


 触れてもくれないのね。

 ……それも優しさなのかな。


⦅はい⦆


 うん。そこで認めちゃいけないよね。

 その返事は、そっと胸の奥に仕舞っておくような事だと思うんだけど?


⦅そう時間がかからない内に戻って来ますので、そのままお待ち下さい⦆


 また話が戻ったという事は、仕舞ったって事なのかな。

 でも一つだけわかる。

 こじれるのは面倒なので、大人しく待っていよう。


 ……ところで、「馬……突撃女」って何?

 さっきの女性の事?


⦅……それにつきましては、その……なんと言いますか……先ほどの洞窟の外に向かう姿から連想しまして……⦆


 でも突撃していったのは、ついさっきの事だし……そんなに何度も突撃するような女性なの?


⦅あっ、そっちなのですね。はい。そうです。よく突撃していきます。ただ、その攻撃力と殲滅力は非常に高く、見極めもきちんと出来ているようですので、大体無傷で戻って来ています⦆


 なるほど。凄い女性だという事しかわからない。


⦅そうですね。この世界の基準における、強者の一人に数えられています⦆


 おぉ! そんなに強い女性なんだ!

 なら、外に行ったけど大丈夫だろう。

 エイトたちも居るし、セミナスさんの言う通り、直ぐ戻って来そうだ。


 セミナスさんと今後の予定を話しながら、時間を潰す。


     ―――


 ――キュピーン!

 俺の感性が、二つの足音を補足する。


⦅向こうに隠す気がない以上、誰でも察知出来るかと⦆


 うん。わかっている。思ってみただけ。

 それで、これはエイトたちの誰か、という事で良いのかな?


⦅はい⦆


 セミナスさんの返事と共に、足音の人物二人が姿を現す。

 エイトと突撃していった女性。

 何故か、女性の方は意気消沈しているけど。

 とりあえず、エイトに声をかける。


「エイトがここに来たって事は、外の盗賊団とその他は片付いたって事?」

「はい。蹂躙しました。今は念のために姉二人が見張っています」


 でしょうね。

 それ以外の結果はないだろうし。


「念のために効くけど、誰か怪我とかは?」

「ここで確認ですか? ご主人様」


 服に手をかけて、もじもじしながら聞くのはやめて。


「いや、口頭で大丈夫です」

「はい。エイトは無傷です」

「ワンとツゥは?」

「姉二人も同様です」


 最初からそう言って欲しかった。

 ナチュラルに誤解を招くような行動を取らないように。

 特に今は、他の人が居るんだから。


 確認するように女性に視線を向けると、意気消沈しているままで気付いていなかった。

 あれだな。思考に没入し過ぎて周囲の音が聞こえていない、みたいな感じ。


⦅マスターも大体あんな感じですね⦆


 ……何が?

 意味はわからないが、女性が戻って来たので、奥に居る人たちのところに案内して貰わないと。


「あの、良いですか?」

「はぁ~……ほとんど片付いて、全然蹂躙出来なかった」


 それが出来なくて、落ち込んでいたの?


「……とりあえず、奥に居る人たちに案内して貰っても良いですか? 助かった事も伝えないといけないでしょうし」

「あっ、そ、そうだな! うん。確かにその通りだ! カリーナ様~!」


 女性が洞窟の奥に向けてダッシュ。

 うん。案内してって言ったよね。俺。

 でも、それだけ相手の事が心配って事なんだろう。

 なら仕方ない。


「どことなく、ご主人様に似ているような気がします」

「いや、似てないでしょ。そもそも性別からして違うし」


 エイトから、そういう反応が、と言われているような視線を向けられる。

 ……解せぬ。


「とりあえず、どうされますか? あとを追いますか? それとも、ここでエイトと共に一生を過ごし」

「あとを追うぞ」


 エイトと共に、女性のあとを追って洞窟の奥に向かう。


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