表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第七章 お礼
222/590

予期せぬ事は、予期せぬ時に起こる

 軍事国ネスの王都に向けて進んでいく。

 特にこれといった問題は起こっていない。


「では、アキミチ様は方向音痴という事ですか?」

「ご主人様は認めていないから、言葉に注意した方が良い」

「……無自覚系?」

「いえ、自覚しつつも認めていない系です」

「なるほど。そっちですか」


 いや、問題はあった。

 あのー、エイトとツゥ。思いっきり聞こえていますけど?


「ですので、大切な事は二つ。まず、ご主人様に案内させない」

「ふむふむ」


 ふむふむって言っちゃってるよ。


「次に、それでもご主人様が案内を強行した場合は、ご主人様のプライドが傷付かないように……つまり、誘導していると悟らせないように誘導するという事です」

「そういうのは得意です」


 得意って言っちゃったよ。

 そういうのは言わない方が良いと思うんだけど。

 というか、ツゥに余計な知識を与えないように。


⦅必要な知識の共有です⦆


 なら、俺が聞こえないところでお願いします。

 あと方向音痴じゃないです。

 運動がてら、少し遠回りしているだけです。


 そんな問題もありつつ進み、その途中でツゥの強さというか、魔法を見せて貰う事にした。


「『魔力を糧に 我願うは 裂き斬る刃 裂水』」


 ツゥが手刀で空を斬ると、その軌跡に沿って水で出来た刃が飛んでいく。

 水の刃は少し離れた位置に居る、頭の毛がリーゼントのような形になっている熊の首を裂き、頭部と胴体を分かれさせた。

 ついでに命もさよならだ。


「「おぉ~!」」


 パチパチと、ツゥに向けて拍手を送る俺とエイト。

 ツゥはなんでもないように一礼。

 実際、なんて事はないんだろう。

 やろうと思えば、一度に出現する刃の数を増やす事も出来るそうだ。


 リーゼント熊がどれだけの強さかは知らないけど、一撃で屠れるのは強者の証だと思う。

 結論としては、俺より強い。

 いやまぁ、そんなのわかりきった事なんだけどね。


 ただ、問題がない訳ではない。

 ツゥの強さに対抗するように――。


「グワアアアァァァ……」


 直ぐ近くで断末魔が響く。

 響いた方に視線を向ければ、そこにあるのはメラメラと燃えている、既に何かわからない物体と、その物体の前で満面の笑みを浮かべるワン。

 既に識別不可能な物体は、確か別個体のリーゼント熊だったはず。


「どうだ! 主! あたいの火魔法の力は!」


 姉としての矜持なのか、ツゥに対抗するように自分の強さを見せつけてきたのだ。

 そんなドヤッているワンのところにツゥが向かう。


「……ワンお姉様。一つよろしいですか?」

「なんだい?」

「火力が強過ぎるかと。消し炭にしてしまっては、素材としても食材としても使い道がありません」

「……あー!」


 ツゥの言葉で気付いたようで、ワンが叫ぶ。

 そのまま俺のところに駆けこんで来て、縋り付いてくる。


「ごめんよー! 主、あたい失敗しちまったー!」


 気にしていないと頭を撫でる。

 どうやら、ワンはまだ不安定だったようだ。

 いや、負けた事に対する部分は立ち直ったけど、今度は姉としての部分で失敗したから、またちょっと落ち込んじゃったのかな?


 仕方ない仕方ないと、そのまま頭を撫で続ける。

 やめろとも言われていないし。

 すると、エイトがワンをぺいっと剥がし、代わりとばかりに自分の頭の上に俺の手を乗せる。

 こらこら。今、ワンを慰めているんだから。


 けれど、ここでエイトを跳ね除けても無意味だ。

 これまでの経験から、撫でるまでテコでも動かないだろう。

 なので、エイトを撫でておく。


 そのまま空いた手でワンを手招きで呼び、頭を撫でる。

 両手でエイトとワンが満足するまで撫で続けた。


「いつもこんな感じなのですか?」

「いや、いつもという訳じゃないけど」


 ツゥが微笑ましいモノでも見るかのような笑みを浮かべて質問してきたので、そう答える。

 どう見ても、イレギュラーな事態に見えると思うんですけど?

 それと、その微笑みの裏で何を考えているのか……いや、触れちゃいけない。

 闇に食われるかもしれないし。


 ただ、もう少し待ってて欲しい。

 あと少しで満足して終わると思うから。


     ―――


 それから先は特に問題らしい問題は起きなかった。

 と安心したのがいけなかったのかもしれない。

 事件発生。

 進行方向上に、壊れた馬車が一台。


「事件の臭いがします。さすがはご主人様」

「分かれ道で主が急にあたいたちとは逆に行き出した時は驚いたが」

「なるほど。アキミチ様はトラブルを招き寄せる性質をお持ちという事ですね」


 ……ちょっと待って。

 なんか壊れた馬車も俺のせいになっていない?

 いや確かに、分かれ道で勝手に判断したのは悪かった。

 でも、壊れた馬車に関して、俺は一切手を出していないよ!


 無実だ! 一緒に居たんだから、わかっているでしょ!


⦅私がとめる間もなく選ぶとは……⦆


 あれ? なんかセミナスさんも呆れていない?

 ……こうなる事を予測していたんじゃないの?


⦅私が『未来予測』で見ていたのは、正しい道順の方でしたので、こちらの道の方は見ていませんでした。なので、今から確認してきます。マスターにとって悪い事が起きないかどうかを⦆


 ……なんか、すみません。

 心の中だけで謝る。

 いや、エイトたちにも謝っておかないと。

 すみません、と頭を下げていく。


 和解したところで、壊れた馬車を確認。

 普通に壊れて朽ちているのなら問題は感じなかったのだが、どう見ても目の前にある壊れた馬車は真新しいのだ。

 新品の馬車が襲われて壊れた感じ。


 だから、事件発生なのだ。

 どれくらい前かはわからないが、ここで何かがあったのは間違いない。

 周囲に人の気配はしないので、ついさっきとか、そんな感じじゃないのだけはわかる。

 なので、あとはセミナスさんの回答を待つしかない。


「それでご主人様。セミナスさんはなんと言っているのですか?」

「そうそう。あたいたちじゃわからないんだから、主が教えてくれないと」

「手に入る情報は正確なのであれば、あればあるほど良いのです」

「うん。わかっているから、ちょっと待とうか」


 急かさないで!

 エイトたちを宥めていると、セミナスさんから声がかけられる。


⦅お待たせしました、マスター⦆


 待ちました。セミナスさん。


⦅まずは、褒めておきましょう。さすがはマスターです⦆


 えっと、どうも。

 ……どういう理由で俺は今褒められたの?


⦅マスターの周辺しか調べていませんでしたが……マスターの嗅覚と言いますか、強運と言いますか、大変素晴らしいです。どうやら、軍事国ネスの王都に行く前に良い手土産が手に入りそうですので、有効活用致しましょう⦆


 は、はぁ……さっぱりわからない。


⦅移動開始です、マスター。どうやら、少々急いだ方がよさそうですので⦆


 わかった。


⦅ですが、今度は私の指示通りに進むように。結果としてはよかったですが、勝手な行動に関しては、言いたい事がありますので⦆


 ……はい。謹んでお受けします。

 セミナスさんの指示する方向に進みつつ、目的地に着くまでの間、セミナスさんからの小言を一身に受けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ