屈してないから!
ウルルさんと共に、アドルさんとインジャオさんに、DDと竜たちの食事を作り続け………………漸く落ち着いた時間となった。
一通り食べて飲んで、満足したようだ。
ていうか、もう腕がパンパン。
足がガクガク。
歯はテッカテカ。
この世界に来る前に、歯科医院で治療しておいて良かった。
美味しいご飯を美味しく食べる事が出来る。
でも、明日は筋肉痛だな、これ。
⦅マッサージをしてから寝る事をオススメします⦆
セミナスさんもそう言っているし、これは間違いないな。
そんな事を思いながら、ウルルさんと一緒に遅いご飯を食べる。
合間合間で、ウルルさんが必要な量を取っておいてくれたのだ。
ウルルさんに感謝! 敬礼!
そうしてモグモグと食べていると、アドルさんに呼ばれる。
俺の代わりにインジャオさんが来るようなので、ウルルさんとのイチャつきタイムかな?
「「「「「ヒュー! ヒュー!」」」」」
既に関係性を知ったのか、竜たちがインジャオさんとウルルさんを冷やかしている。
きっと、番が居ないんだろう。
………………。
「ヒュー! ヒュー!」
竜達に交ざって、俺も冷やかしておいた。
確かな絆を竜たちとの間に感じる。
だが、インジャオさんとウルルさんは、そんな俺たちの冷やかしを祝福するように受け止めてからイチャつき始めた。
「「「「「「……チッ」」」」」」
竜たちとの絆が更に深まった気がする。
何やら負けた気分を味わいつつ、アドルさんのところに向かう。
すると、アドルさんとDDが何やら話しているのがわかる。
「彼が、先日武技の神を解放した者です」
「……なるほど。言うなれば、予言の神によって選ばれた存在という事か」
ジッと見てくるDD。
俺も見返す。
「………………」
「………………」
「………………モグモグ」
一緒に持ってきた料理を食べる。
「……ほぅ。度胸はあるようだ」
「いや、度胸というか……冷めても美味しい料理じゃないし……疲れてるから体が欲しているというか」
「確かに。途中から食事などは全て任せてしまったからな」
「モグモグ……ごくん。とりあえず、ごめんなさい。でも、怒らないのか……いや、怒らないんですか?」
しまった。
竜たちと仲良くなったのは良いけど、ボスっぽいDDにも同じような態度で接してしまった。
いや、本当にしまった。
でも、DDは笑みを浮かべるだけ。
「ふっ。そのままで良い。こちらがダンスに集中出来るように、食事だけでなく、色々と裏で動いて世話になったようだしな。久し振りに全力のダンスバトルが出来て満足している。この程度の事で怒っていては、度量が小さいと舐められてしまう。それに、ダンスを通じてそちらの気持ちは届いた。悪い者たちでない事は理解したさ」
DDが拳を前に突き出す。
……まぁ、俺は踊ってないけど。
料理を一旦置き、拳を軽く突き合わせて………………からの動きには一切ついていけなかった。
なんかこう、何度か拳を突き合わせて……規則性があるような、ないような……。
あれ、どういう動きなの? 決まりってあるの?
困惑である。
なんとも言えない、ぐだっとした空気を吹き飛ばすように、DDが一度咳払いしたあと、尋ねてくる。
「一つ聞きたい事がある」
「何を?」
「召喚された事は聞いた。なら、異世界のダンスに興味がある。そっちの方を教えて欲しいのだが?」
聞きたい事がそれとは、さすがはDDと呼ばれるだけはある。
でも、それは難しい。
いや確かに、こっちには色んなダンスがあるのは間違いないけど、それを俺は詳しく知らないのだ。
だから、伝えるのが難しい。
こんなところにもコミュニケーションの問題が……。
言葉を覚えただけじゃ駄目という事か。
ただ、心当たりはある。
詩夕と常水だ。
確か、前に文化祭の出し物の一つで踊っていたんだけど……アレは様になっていたなぁ。
うんうん。
そうじゃなくて、その時に色々と調べた、みたいな事を言っていた覚えがある。
だから、色々と知っているのは間違いない。
ハイスペックな二人だし、そういう事がなくても普通に知っていそうだけど。
でも、そういうのって、気軽に教えても良いんだろうか?
⦅問題ありません。寧ろ、正直に伝える事を強くオススメします⦆
え? そうなの?
………………でも、なんか友達を売るようで嫌なんだけど。
⦅大丈夫です。あちらにとっても悪い話ではありませんので⦆
……確かに、よくよく考えてみると、ここで教える事によってDDは詩夕と常水に興味を持つ。
間違いなく接触しようとするだろう。
それはつまり、知己を得るチャンスでもある。
この世界は竜のパワーがかなり強いようだし、知り合っておいて損はないと思う。
親友たちにとって、何かの助けになるかもしれないし。
………………。
………………。
あれ? もしかして、良い事尽くめ?
⦅はい。その通りです。ですので、ここは何の憂いもなく、スパッと言ってしまいましょう⦆
……何だろう……この、セミナスさんに踊らされている感は。
⦅………………⦆
おっと、黙っちゃったよ。
「何を黙っておる?」
「いや、黙っているのは俺じゃなくて……」
「俺じゃなくて?」
「……いえ、なんでもないです」
この問いかけはDDでした。
いやいや、確かにセミナスさんとの会話中だったから、見た目は黙っちゃってたね、俺。
⦅だから、スパッと言ってしまえば良いと⦆
そういう事は早く言って!
お願いだから、早く教えて!
「……まさか、竜を相手に……この私を相手に、良からぬ事を考えているのか?」
「いいえ、滅相もありません! 竜を相手にして、良からぬ事など微塵も考えていません!」
「では、何を考えていたのかを教えて貰おうか。どうやら、私が求める情報を持っていそうだ。なぁに、時間はまだある。楽しい宴会といこうではないか!」
ガシッ! とDDに両肩を掴まれる。
なるほど。俺が何か知っていると察し、逃がさないつもりだな。
望むところだ! と、顔をキリッとさせる。
……数十分後、ゲロッた。
それはもう洗いざらい。
とどめは、言わないと悪い方に事態が動く、というセミナスさんの言葉である。
「なるほどなるほど。アキミチは詳しくないが、シユウとツネミズは詳しいのだな」
「……うぅ、二人に会わせる顔がない」
汚された気分。
表からはDDの圧が、裏からはセミナスさんが追い立てて……俺はなんて無力なんだろう。
体だけじゃなく、心も鍛えないと。
事情を話せば笑って許してくれそうだけど、それが逆に心に突き刺さる。
せめて、これで本当に事態が良い方へ転がってくれれば良いんだけど……。
………………本当にこれで良い方になるんだよね!
⦅はい。もちろんです。マスターの意向に沿って、私は行動していますので⦆
はははっ! 嘘だ……ちょっと待って。
その言い方だと……まるで俺がそう指示しているように聞こえなくもないし、さらっと俺の責任にしようとしているよね?
⦅マスターへの好感度が上昇しました⦆
意味がわからない!
⦅ご安心下さい。マスターを悲しませるような事はしません⦆
わかった。信じる。
⦅………………⦆
………………。
⦅………………え? 信じるのですか? 自分で言っておいてですが、普通は疑う場面であると推考出来ますけど⦆
いや正直に言って、顔とか見えないし、表情がわからないから判断し辛いけど……でも、嘘を吐いているようには聞こえなかったんだよね。
それに疑い続けるのも嫌だし。
だから、セミナスさんを信じる。
⦅っ! マスターへの好感度が大幅に上昇しました!⦆
それは上げなくても良いよ!
思わず苦笑が漏れた。
「一人でころころと表情が変わって………………大丈夫か? こいつ」
「慣れれば気になりませんよ、DD殿」
なんか、アドルさんとDDから、呆れたような溜息をされた気がした。




