緊急回避!
「それでアキミチよ。そのシユウとツネミズは、どこに居るのだ?」
「………………」
DDからの問いに、俺は首を傾げる。
それは寧ろ、俺が知りたい。
確認するようにアドルさんへ視線を向けるが、同じ反応だった。
「武技の神からまた会えるとは言われたけど、どこに居るかまでは……」
正直に答えた。
というか、この世界の地理なんてわからないので、どこに居るかとか聞かれても困る。
わかってる? 俺、異世界出身。
しかも、草原、森、黒い神殿、竜の領域近く、しか行った事ないんだよ?
町になんて一歩も足を踏み入れていない。
わかる訳ないじゃん。
「そうですね。アキミチが聞いた、武技の神の言動から察するに、戦いが起こっている場所であると思われます。恐らくは、東西の陸続きのどちらか……もしくはその付近に居るのではないかと」
アドルさんがそう補足してくれた。
……そうなのか、じゃあ、エルフの森に行くのは止めて、そっちに行こうよ。
⦅駄目です。寧ろ、今のマスターでは死にます⦆
駄目だって。そして、死ぬだって。
そういや遠回りすると死ぬんだっけ?
やっぱ止めておこう。
親友たちには早く会いたいけど、生きて会わないと。
「つまり、東のビットル王国か、西の」
「国の名に興味はない。そもそも国だろうがなんだろうが、竜にとっては関係ないのだからな」
アドルさんの言葉を遮って、DDがそう言う。
そうですね。
竜のパワー凄いですもんね。
世俗とか関係ない、とかかな。
「……とりあえず、人の多いところへ向かえば良いか」
DDが考えるように顎に手を当て、そう呟く。
間違いなく、騒ぎになると思う。
それも大騒ぎ。
……とりあえず、俺は無関係ですと言い張ろう。
アドルさんも同じ事を思ったのか、あれ? もしかして余計な事を? と考えているように見える。
確かに、俺は「わからない」だったけど、アドルさんは「どちらか」と場所を示していた。
……やってしまった! と、アドルさんが天を仰いでいる。
そんな感じで、今日はこのまま寝て、明日出発する事になった。
◇
翌日、早速出発する。
ただし、面倒なのは間違いない。
何しろ、目の前にあるのは空に浮かぶ雲よりも標高がある山。
頂上が見えない。
さすがに頂上経由で行く訳ではないだろうが、麓でもそれなりに危険そうな場所っぽく見えるので、通り抜けるだけでも大変そうだ。
ただ、険しい山を登る事はなかった。
「ついでだ。目的地まで乗せていってやろう」
そう言って、DDが自分の背中を指し示す。
見れば、他の仲良くなった竜たちも、同じように自分の背中を示して、漢の顔を見せている。
「……ついで? 何の?」
「決まっているだろう。これから私達はシユウとツネミズを捜しに行くのだ!」
DDの言葉に、竜たちがその通りだ! と、ニカッと良い笑みを浮かべる。
やる気に満ち溢れていた。
……やっちまったかもしれない。
色んな方面の色んな人に、色んな迷惑をかけそうだなぁ。
もしもの時はお願いします! とアドルさんにアイコンタクトを送った。
……無理無理。と返される。
ただ、DDからの申し出はありがたかったし、セミナスさんも特に止めはしなかったので、その言葉に甘える事になった。
竜の背に乗り、空を舞う。
「うおおおおおぉぉぉっ!」
思わず叫んでしまった。
でも、それぐらい絶景である。
空の上から直に地上を見るって……なんか凄い。
いやもう、凄いとしか言えない。
飛行機……じゃなくて、パラシュートを使って降りる時って、こんな感じの風景が見えているのだろうか。
それにガッシリとした竜の背。
……大きな背中だ。
……安定感というか、安心感がある。
竜って存在に、色んな人が惚れ込むのもわかるような……わかっちゃいけないような……。
……それにしても、乗って暫くしてから気付いた事がある。
「ねぇ、『ジース』くん。なんで俺は普通に乗っているだけなのに平気なの? 普通、風圧とかそういうので飛ばされると思うんだけど? もしかして、俺の中の隠された力が遂に目覚め、世界最強へと覚醒」
「あっ、それはないよ。俺が魔法でアキミチを守っているだけだから」
「なるほど。ありがとう」
「いえいえ」
俺の問いに答えてくれたのは、俺が背に乗っている竜だ。
一番うまが合ったので仲良くなり、ダンスバトルが始まる時に、細長い棒を叩いて合図を出していた竜である。
DDよりは小さいけど、他の竜たちよりも少し大きい。
なんでも、DDに次ぐダンスの腕前らしく、「次期エース」と他の竜たちが呼んでいたので、それを縮めて「ジース」と呼ぶと、それがあっという間に定着した。
……DDを抜いて「エース」になったら、「エース」と普通に呼ばれるのだろうか?
そう呟くと、DDがもの凄い目でジースくんを睨んでいた。
……その時も謝ったけど、もう一度謝っておこう。
ごめんよ、ジースくん。
ちなみに、先頭を行くDDの背にはアドルさんが乗っていて、エルフの森の場所を指し示しながら教えているようだ。
ついでに言っておくと、当初、インジャオさんとウルルさんは、同じ竜の背に乗ろうとしていた。
でも、それを竜たちが激しく拒否。
ペッ! と唾を吐いて、集団ボイコットし始めた。
気持ちはわかる。
自分の背の上でイチャつかれるとか……どんな拷問だよ!
という訳で、インジャオさんとウルルさんは別々の竜に乗っている。
これに関しての弁護は必要ない。
必要性が一切ない。
「ところでジースくん。ここまで来といてなんだけど、竜の領域に入りそうなのを見張っていなくて良いの?」
「あぁ、大丈夫。アキミチ達が寝ている間に、他のを呼んでおいたから。領域から離れる許可も、きちんと竜王様から貰ったし、どこにも問題ないよ」
行動が速いね。
そして、やっぱり居るんだね、竜王。
出来れば、そういうのとは関わらない人生を送りたいけど。
⦅………………⦆
セミナスさんの沈黙が怖い。
否定しないという事は、竜王と関わる事が確定しているのだろうか?
そんな事を考えている内に、DDと竜たちが下降し始める。
早いな。もう着いたの?
飛ぶって……凄過ぎる。
それとも、思っている以上にDDと竜たちの速度があるのか、エルフの森が近くにあったのか……その両方かもしれない。
⦅マスター! その竜に今直ぐしがみ付いて下さい!⦆
「アキミチ! しっかりと俺にしがみ付いて!」
セミナスさんとジースくんの焦る言葉に反応して、しっかりとしがみ付く。
瞬間、ぐるぐると世界が回る。
止まったと思えば、直ぐ傍を巨大な塊が横切っていった。
「……ふぅ、危なくぶつかるところだった。ぶつかっても俺は平気だけど、今は背にアキミチが居るしね」
どうやら、俺を慮っての緊急回避行動を取ってくれたようだ。
吐きそうだけど。
……吐いて良いかな?
今なら空をキラキラと輝かせる事が出来そうなんだけど。
でも、それはさすがにと我慢して、感謝の言葉を告げる。
「それはありがとう。でも今の何?」
「岩塊かな? こっちを狙ったモノじゃなさそうだけどね」
そう言うジースくんは、下を見ていた。
なので、俺も窺うようにそっと見てみる。
地上にある森の中のポッカリと開けた場所で、何やら戦っている二人が居た。
地面が抉れているし、そこから岩塊が飛んできたのは間違いないと思う。
……どうやら、こちらにはまだ気付いていないようだ。
DDを先頭にして、竜たちはそこに向かって下降していった。




