表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第七章 お礼
218/590

選ぶなら、第三の選択肢

 辿り着いた小屋は、そのまま小屋って感じ。

 木造一階建てで、巨大湖の直ぐ傍にあるという事もあってか、同じく木造の短い桟橋が巨大湖に向かって伸びている。

 桟橋の先で釣りとかしたら楽しそうだ。


 ……まぁ、釣れる魚は危険なのばっかりな気がするけど。

 釣り針とか、平気で餌と釣り糸ごと噛み千切りそうだ。

 そのまま釣り人にも襲いかかりそうだし。

 この世界だと、釣りって命懸けの行動なのかもしれない。


「というか、この小屋……綺麗過ぎない?」


 こんな人の出入りがなさそうな場所で、真新しい小屋がある事に違和感を覚える。


「そんな事はありませんよ、ご主人様」

「そうそう。魔法で状態保存されているだけだろ」


 これだから魔法がある世界は。

 こういう時、元の世界とは違う一般常識があるんだと理解する。

 勉強になったという事だな。


 なるほどと頷き、小屋の中に入る。

 当然、中に人は居ない。

 小屋の中にあったのは、暖炉とテーブルと椅子、本棚、壺、ベッド……あっ、トイレもある。

 お風呂はさすがにないようだ。


 うーん。あれば入ってさっぱりしたかったけど、こればっかりは仕方ない。

 そう思っていると、エイトが服を引っ張ってくる。


「ご主人様。あちらをご覧下さい」


 エイトが窓を示す。

 その窓から外を見ると、火が焚ける場所の上にドラム缶……じゃないけど、似たような鉄の筒が置かれていた。

 その直ぐ傍に看板が設置されていて、ご丁寧に「自力で!」と書かれている

 ……どうしよう。今直ぐあの看板を蹴り飛ばしたい。


 ただ……うーん。景観は凄そうだ。

 さぞかし気持ち良い事だろう。

 でも……。

 チラッとエイトを確認。


「ご主人様。エイトは淑女です。覗き行為など、淑女はいたしません」


 そう言うエイトに一つ確認。


「メイドとしては?」

「ご主人様。エイトはメイドでもあります。メイドとして、ご主人様の健康を管理する意味も含めて、日頃の成長をまじまじと確認しないといけません」

「……つまり」

「覗くのではなく、それは確認行為という事です」


 それって言い方が違うだけで、行為は同じだよね?

 ジト目を向けるが、エイトはなんでもないように見返してくるだけ。

 ……まず間違いなくやるな、エイトは。


「なんだ? 主。一人で入るのが恥ずかしいのなら、あたいが一緒に入ってやろうか?」


 ワンがそう提案してくる。

 いや、あんな狭い場所にワンと二人で入ると……大変な事になるからやめよう。

 わかっているとは思うけど、俺、男だよ?

 お断りしようとする前に、エイトが挙手。


「ご主人様と姉が一緒に入ると胸部の辺りが圧迫されそうですので、ここはほど良いサイズのエイトが共に入浴した方が良いと提案します」

「どちらも却下です」


 入るなら一人で入るから。


⦅まぁ、私はいつも一緒に入っていますが⦆


 うん。セミナスさんは確かにそうだけど、そんな勝ち誇るように言うような事ではないと思う。

 というか、ここからどうすれば良いの?


⦅ではまず、そこの汎用型に頼んで外の風呂缶に水を入れます。次に特化一型に頼んで火を焚き、入浴TIMEといきましょう⦆


 なるほど。まずは入浴か。

 確かに、獣人国を出てから入っていない。

 いや、熱いタオルできちんと拭いたりとか、身綺麗にはしていたよ?

 でもやっぱり、お風呂は別格というか、熱い湯の中に体を沈めるだけで随分と違う。


 疲れの取れ具合も違うし……そうだね。

 まずはお風呂にって、待て待て待てーい。

 なんでいきなり入浴?


⦅いえ、これまでのテントとは違い、きちんとした小屋が利用出来ますので、まずはリラックスして疲れを取って頂こうかと⦆


 あっ、そういう事だったね。

 ……確かに、ここでならしっかりと休息を取る事が出来そうだ。


 ………………。

 ………………。

 俺だけで決めるのは違うな。


「エイト、ワン。なんかここで休息を取るみたいだけど大丈夫?」

「問題ありません」

「別に構わないぜ」


 大丈夫っぽい。

 いや、問題があった。

 小屋内にあるベッドはシングルサイズ。

 つまり、一人分のスペースしかないのだ。


「まぁ、俺は別に寝袋でも」

「いえ、さすがにご主人様を床で寝させ、従者であるエイトと姉がベッドで寝るような事は出来ません」


 うん。ちょっと待って。

 今、エイトとワンって言った?

 ……まぁ、確かに無理すれば二人で寝る事は出来ると思うけど……狭いよ?

 いや、別にどっちかと一緒に寝たいという訳でもないから。


「なので、ここはエイトとご主人様が」

「なら、あたいと主が」


 エイトとワンが同時に言い、お互いに目を合わせる。


「良いですか? エイトのサイズは小さいです。シングルベッドサイズでも、ご主人様と一緒に利用出来ます。寧ろ、すっぽりとおさまるサイズですので快適な寝心地を提供出来ます」

「良いか? 確かにあたいのサイズは大きい。シングルベッドサイズで主と一緒に寝ると、きっつきつなのは間違いない。だが、それだけ密着しているって事はその分、感触を楽しめるって事だろ」

「………………」

「………………」


 こらこら。姉妹でバチバチと火花を散らない。

 それと、互いに言った事に納得しないように。

 そもそも、どっちかと一緒に寝るという選択を忘れようか。


 と言ってみたが通じない。

 寧ろ、俺がどちらか選べと言われる始末。

 いやもう、エイトとワンで使えば良いと思うんだけど?

 エイトはワンの感触を楽しめるし、ワンはエイトで快適な寝心地を得られる……て、なんか言葉にすると字面が酷いな。


「「却下です」」


 答えは揃って仲良さそうだけど、本当は仲が悪いの?


「違います。譲れないモノがあるだけです」

「折角のチャンスだからな」


 どこに譲れないモノがあって、どんなチャンスなのか、さっぱりわからない。

 まぁ、仲が悪くないならそれで良いけど。

 とりあえず、俺の取るべき選択は一つ。


「エイトですか?」

「あたいか?」

「ベッドを使わない!」


 そもそも、魅惑の寝具であるベッドがあるからいけないのだ。

 その安らぎに魅了され、求めてしまうのがいけない。

 いや、普通はそれで正しいんだけどね。

 今は争いの種にしかなっていない。


 なら、そんなベッドは使わない方が良い。

 仲の良い姉妹が争う姿なんて、俺は見たくないよ。

 ベッドを片そうと、持ち上げ……持ち上げ………………持ち上がらない!

 どれだけ力を込めようとも、少しも動かないんだけど。


⦅状態保存の魔法がかかっていますので⦆


 そういう魔法なの?

 という事は、模様替えとかリフォームは……。


⦅魔法を解かない限りは不可能です。あっ、そちらの本棚の本は読む事は出来ますが、破いたり、小屋外に持ち出す事が出来ないようになっていますので、注意して下さい⦆


 便利なのか、便利じゃないのか……よくわからない魔法だ。

 とりあえず、ベッドはあるが、寝袋で寝る事にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ