見えない部分って……無限の可能性があるよね
……ゆっくりと意識が覚醒していく。
確か昨日は、鍛冶の神様と刀の女神様を解放して……ついでに職人モグラもか。
とにかく、神様の数が増えるのは、この世界にとってきっと良い事だろう。
で、疲れていたから、そのままテントで野宿。
……うん。間違っていない。
まずは寝袋からもぞもぞと這い出る。
……ベッドが良い事に変わりはないけど、この寝袋もよかった。
でもこれ、そこそこの値段のモノなんだけど……これより上の寝袋の寝心地って、どんなレベルなんだろう?
………………まぁ、考えてもわからないモノはわからない。
それに、こういうモノ全般って、求めだしたらキリがない。
一番性能が良いモノを選んだはずなのに、少ししたらもっと性能が上のモノが出る。
天井知らずというか、道具はどこまでも進化していくからなぁ……。
……朝。起きたばかりだからだろうか。
思考が変だ。
まずは顔を洗ってシャンとしよう。
そう思ってテントを出……ちょっと待って。
なんかテント内に寝袋がもう一つある。
誰が寝ているのかを確認。
といっても、エイトかワンのどっちか……エイトか。
エイトがスヤスヤと眠っている。
寝袋の上には、紙が一枚。
手に取って確認。
「エイトの自然起床まで あと『00:53:31』。
強制起床を選択する方はご主人様の濃厚なキスが必要です。
また、持ち運ぶ際はお姫様抱っこを推奨します。
今回は寝袋フォーム。果たして、寝袋の中はどうなっているのでしょうか?」
あと一時間くらいで起きるようなので、とりあえず自然起床選択は変わらない。
いや、そもそも強制起床をするつもりは一切ないけど。
それにしても、最後の一文。
寝袋の中がどうなっているかって、意味がわからない。
別にどうもなっていないと思……ちょっと待って。
なんか意味がわかったかもしれない。
もしかしてだけど……寝袋の中の恰好を言及しているのか?
つまり、服を着ていない……下着か、裸か。
確かに、世の中には下着じゃないと駄目とか、裸じゃないと駄目とか、寝る時の恰好にこだわりを持つ人は居る。
……いやでも、王城では普通にそのままで寝ていたから、エイトにそんなこだわりはない。
それでも聞いてくるという事は、わざと。意図したモノ。
なんだろう……この弄ばれている感。
寝袋の中が、メイド服か、下着か、裸か……俺が気付いて悩ませるために、この最後の一文が書かれた気がする。
だからこそ、ここでの俺の選択は……悩まないの一択。
紙の元の位置――エイトの寝袋の上にそっと戻す。
気付かなかった事にしよう。
起きて直ぐ、顔を洗うためにテントを出た事にしよう。
そうしよう。
うんうんと頷き、テントを出る。
一つのテント内で寝ていた事は……まぁ、仕方ない。
そもそも、テントは一つしかないのだから。
アイテム袋の容量的に、一つしか入れられなかったというのもある。
「おっ、起きたようだな。はよ。主」
「あぁ、おはよう。ワン」
昨日から出ているテーブルセットで、のんびりとしていたワンから朝の挨拶をされたので返す。
「顔洗いたいんだけど、この近くのどっかに川とかある?」
「あぁ、それなら、あっちに少し行ったところにあるぜ」
なるほど。あっちね。
エイトが起きていれば、魔法で水を出して貰うのだが、寝ているから仕方ない。
アイテム袋の中からタオルを取り出す。
「一応、ここら辺の魔物は全部燃やし尽くしたけど、新たに現れないとも限らない。主は攻撃能力ないんだし、気を付けろよ」
「わかっているよ。全力でここまで逃げるから」
「燃やし尽くしてやるよ」
その時は是非ともお願いしますと思いながら、ワンが指し示した方向に向かう。
直ぐに川は見つかり、顔を洗って戻る。
何も起こらなかった事にホッと安堵。
まぁ、そんなフラグが立っていたら、そもそもセミナスさんが注意するだろうから、何も起きないだろうとわかっていたけど。
ご飯はエイトが起きてからにして、それまでワンと雑談をしながら時間を潰す。
ほどなくして、エイトがテントから出て来た。
思わず服装を確認。
……うん。いつものメイド服で一安心。
「おはようございます、ご主人様。さて、ここで一つお聞きしたいのですが、今私がメイド服を着ているかどうか、視線で確認しませんでしたか?」
「していません」
否定は堂々と。
微塵も疑われてはいけない。
「本当に?」
「………………」
「おかしいですね? ご主人様であれば、私の寝袋の中が気になって、裸なのか、下着なのか、紐水着なのか、悩みに悩み抜いて悶々とした朝を迎えたと思ったのですが?」
「迎えていません」
全く……悶々となんて……いや、ちょっと待って。
紐水着って何?
「ちなみにですが、正解は」
「言わなくて良いです」
「なるほど。もう少し妄想を楽しみたい。もしくは自ら確認したいという事ですね。わかりました。これはご主人様からの挑戦ですね。ご主人様のご期待に応えるよう、過激な服装をご用意しておきますので、いつでもご確認下さい」
「そんな挑戦はしていないから、用意しなくて大丈夫です」
……いや、それでもエイトは用意していそうだ。
もう一言加えておこう。
「あと、風邪を引かないように」
なんとなくだけど、エイトは肌色面積が多そうな服を選びそうなので。
「安心して下さい。神造生命体は風邪を引きません」
その前に、そういう恰好をしないって選択をして欲しいんだけどな……。
とりあえず、エイトも起きたのでご飯だ。
エイトとワンが用意するそうなので、俺は今の内に今後の予定をセミナスさんに尋ねる。
という訳で、これから軍事国ネスに向かって、アドルさんたちとの合流を目指す、で良いんだよね?
⦅今のところの目的はそうですが、まだ寄り道は続きます⦆
え? 続くの?
でも、これはそもそもお礼のための行動で、そのお礼はもう終わったんでしょ?
⦅このお礼はついでと言いますか、元々予定として組み込んでいましたので、丁度良いと利用したに過ぎません。神解放は必要な事ですので⦆
確かに。
⦅お礼ではありませんが、寄り道はまだ続きます。まだ向かうべきところがありますので⦆
そうなんだ。
ちなみに、どういうところ? 何をしに?
⦅お楽しみに⦆
うん。そう言うと思った。
なら、楽しみに待っていよう。
………………。
………………。
確認だけど、本当に楽しみにしていて良いんだよね?
⦅………………⦆
そこで黙られると不安になるんだけど。
まぁ、行ってみればわかる事か。
エイトとワンが用意してくれたご飯を食べ、テントやテーブルセットなどを仕舞ってから出発した。




