勝手に枠にはめてはいけない
鍛冶の神様、職人モグラ、刀の女神様を連れて、黒い神殿の外に出る。
結果としては、想定していた以上の時間はかからなかったけど、エイトやワンはどうしているだろうか。
エイトは用意していたテーブルセットでのんびりしていそうだけど、ワンはそこらに狩りに出かけていそうだ。
と思ったのだが、違っていた。
黒い神殿から出たところでその光景に気付く。
エイトとワンは、お客様と共にのんびり紅茶とお茶菓子を楽しんでいた。
そのお客様とは武技の神様。
前の時は気配を察して、みたいな事を言っていたけど、今回は早いな。
まだ結界の外には出ていないため、気配を察する事が出来ないはず。
となると……勘? とか?
そういう勘が働く人って偶に居るよね。
なんとなく、で行動を起こすタイプ。
そう思いながら近付いていくと、話し声が聞こえてきた。
「ご主人様はまだ出て来ていませんが、このままお待ちしますか?」
「うん。待つよー。それに、そろそろ出て来そうな気がするんだよね。これ、僕の勘。いや、神の勘」
やっぱり。
………………。
………………。
なんか、ちょっとこのまま見てみようかな?
武技の神様が交じった時にどんな会話をするのか興味がある。
鍛冶の神様たちにそう提案すると、別に構わないと返されたので、結界内で待機。
聞き耳を立てて様子を窺う。
「ささ、どうぞ」
テーブルについた武技の神様の前に、エイトが淹れた紅茶とお茶菓子を置く。
……よりにもよって、それなりに高かったお茶菓子を。
俺も楽しみにしていたのに。
「ありがとう。確か、エイトとワン、だったよね?」
「はい。その通りです」
「ん? なんだ? あたいたちの事を知ってんのか?」
「うん。僕はこれでもそれなりに交友関係が広いから。封印されたのも、かなりあとの方だったし」
なるほど。
つまり、武技の神様はエイトやワンを造った神様たちと知り合いという事か。
……関わっているかどうかを知りたい。
「それは、私たちの作製にも関わっているのですか?」
エイト、ナイス質問。
あとで頭なでなでしても良いくらいだ。
「今、私にとって非常に良い事が起こりそうな予感がしました」
「いや、関わってはいないけど……え? そういう勘、みたいなのも備わっているの? それだけでも普通に高性能だね」
「高性能ではありません。超高性能です」
うん。そうかもしれないけど、そういうのを自分で言うのはやめようか。
事実だけど、返答に困る。
「しかし、主は出て来ないな。何か手間取ってんのか?」
「そうだね。入れないだけじゃなく、中の様子も窺えないのは困るねー。しかし、手間取るかー……もしかして、封印されている神が面倒なのだったとか?」
「そのような神が居るのですか?」
エイトが不思議そうに尋ねる。
うん。居るよ。
たとえば、エイトやワンを造った神様たちとか。
「もちろん居るよー。色んな神が居るからね。たとえば鍛冶の神なんかは時間がかかるかもね」
「鍛冶の神、ですか?」
「そう。面倒……とは違うかもしれないけど、アキミチの性格を考えると、色々突っ込んでいるかもしれない」
「どういう事ですか?」
「鍛冶の神はその名の通り色んなモノが作れるんだけど、全部神器になって余計な能力が付いている場合が多いんだよね。いや、性能は当然破格だよ。そこに間違いはなくて、腕前も神々の中で一番。でも、その余計なのが役に立たない場合が多くって。そこに文句を言うのは違うんだろうけど、付くならやっぱり使えるのが付いて欲しいというか」
きっと、武技の神様は話のネタになればと軽い気持ちだったんだろう。
実際、腕前は神々の中で一番だと言っている。
だから、落ち着いて! 鍛冶の神様!
腕まくりをして突入しそうな鍛冶の神様を、俺、職人モグラ、刀の女神様で押さえる。
「あとは、刀の女神とか? なんか血が好きというか……偶に血の雨を降らせたいとか言い出して、普通に怖いよね。あれじゃあ、嫁の貰い手が居ないんじゃないかな?」
よし。俺は前に立ち塞がるから、鍛冶の神様と職人モグラは腕と足を押さえて!
呪刀を抜こうとする刀の女神様を、頑張って押さえた。
……なんだろう。職人モグラに対して、死地を一緒に潜り抜けた仲間に対する気持ちのようなモノが芽生える。
職人モグラと、互いに親指を立て合う。
……それ、親指で良いんだよね?
「あとは……直近だと、身体の神かな」
武技の神様の雰囲気がずぅん……と重くなる。
えっと、何かあったのかな?
「身体の神? ですか」
「うん。そう。確かに……能力面だけを見れば有能だよ。なんでも出来るタイプだし。でもなんか最近……やたらと僕にプロテイン入りの飲み物を薦めてくるんだよね。筋肉も見せびらかしてくるし」
それはキツイ。
鍛冶の神様と刀の女神様も、どこか可哀想なモノを見るような目で武技の神様を見ている。
「それで、どう対応したのですか!」
「面白そうだから聞かせてくれ!」
こらこら。エイトとワンも食いつかない。
「いや、別に何もしてないけど……身体の神がやっている時点で察せられるというか、間違いなく筋肉関連だよ。多分だけど、僕を筋肉ムキムキにさせたいんだと思う」
「それはいけません」
エイトがテーブルを叩いて強く反対する。
おぉ! そんな反応をするなんて、どうした? エイト。
「武技の神は貴重な『ショタ』枠です」
「は、はぁ……え? ん? ショタ? 僕が?」
「その自覚を持って下さい。需要はあるかもしれませんが、私の中で少なくとも、ショタはムキムキではなく、プニプニであると思っています」
「うん。意味がわからない」
うん。意味がわからない。
あっ、武技の神様と意見が被った。
「あたいもさっぱりだが、妹の言葉に大体合っているからから、聞いておいて方が良いと思うぜ」
ワンもフォローしない。
というか、俺の中では少なくとも、大体じゃなくて偶にだと思うんだけど。
「ですので、そのままの体型維持をお願いします。プニプニのままで」
「は、はぁ……」
うーん。武技の神様が戸惑っている。
俺の中での貴重な真面目枠の神様なんだから、困らせないように。
しかし、そこでエイトは何かに気付いたかのようにポンと手を打つ。
「と思いましたけど、そういえばその枠にはウルア様が居ました。しかもこちらは『王子』枠も兼ねています。そこらの神より人気が高そうなのは、王子だからでしょうか。より親密さを感じるのかもしれません」
「あれ? なんだろう。別にどうでも良い事のような気がするのに、どうしてなんか負けた気分なんだろう。不思議。神の一柱として、そのウルアって子と全面抗争でもした方が良いのかな?」
「真なるショタを決める戦い……人を呼べますね」
「また戦いか? そりゃ面白そうだ」
こらこら。武技の神様を変な方向に誘導するんじゃない。
これ以上放置するとますます変な方向に話が進み、あとに引けなくなりそうなので姿を現す事にした。




