言い方を変えただけで印象は大きく違う
髭もじゃの小さなおっさんは、険しい目付きで俺を見てくる。
……妙に迫力があるというか、威厳を感じるな。
身長は、俺の半分くらいだろうか?
だから職人モグラも体を隠し切れていないけど、なんとか髭もじゃの小さなおっさんに後ろに隠れようと必死だ。
あと、髭もじゃの小さなおっさんは作業着みたいな服装で、その体型はずんぐりむっくりというか……俺の中にあるイメージでいうと、ドワーフっぽい。
⦅神です⦆
なるほど。ドワーフではなく神だった。
………………。
………………。
ん? ワンモア、プリーズ。
⦅GODです⦆
何故だろう。
「神」と言われるより、「GOD」と言われた方が強そうなイメージを受ける。
いや、そうじゃなくて。
えっと……つまり、この状況は……解放しようとしていた神様が目の前に居るけど、何故か魔物を庇い、俺を睨んでいると。
⦅そうなりますね。不思議です。不思議と言えば、ここにはもう一柱居るはずなのですが……⦆
どうやら、他にも居るみたい。
でも、その姿は見えないけど……奥に扉があるから、その先かな?
などと考えていると、髭もじゃの小さなおっさ……なんらかの神様が声をかけてくる。
「……何もんだ、お前」
どうやら、いきなり殴りかかってくるような事はしないようだ。
ホッと安堵。
話し合いで解決出来るようでよかった。
と思っていたのだが、なんらかの神様が腰に手をやる。
職人モグラと同じようなウエストポーチをしているのだが、そこからハンマーを取り出して装備。武装した。
不味い! このままだと撲殺される!
「誤解です!」
「何がだ?」
受け答えはしてくれるようなので、簡潔に自分の事と神様解放をしている事を話す。
………………。
………………。
「……ほほぅ。お前が、ワシら神を解放しているだと?」
伝え終わったあと、そう問われたのでうんうんと頷く。
ただ、なんらかの神様は納得出来ないのか、俺をジロジロと見始めた。
なんだろう……なんか変なところでもあっただろうか?
というか、相手がなんらかの神様とはいえ、おっさんにジロジロ見られるというのは……。
⦅……ごくり⦆
なんで喉を鳴らしたの?
「……そんなひょろっちい体で神を解放しているだと?」
なんらかの神様が、疑わし気にそう言う。
否定は出来ないが、納得も出来ない。
これでもそれなりに鍛えているから、そこそこ筋肉が付いていると思うんですけど!
「それに、そんなやつがどうしてそこから出て来る?」
なんらかの神様が、俺の後ろを指し示す。
俺も後ろを確認。
小部屋から見た時は気付かなかったが、なんか扉の周囲の壁がところどころひび割れていて、あと付け感が強い。
……あれ? もしかして、正規ルートじゃない?
とりあえず、ここに入ってからの事も伝えていく。
………………。
………………。
すると、なんらかの神様は自身の後ろに隠れている職人モグラに視線を向ける。
「罠の類や迷路は、お前がやったのか?」
職人モグラは、こくこくと頷く。
………………お前かぁ~!
え? ちょっと待って。
つまり、普通はこんな罠なかったって事?
「未完成なのは致し方ないが、よくやった!」
なんらかの神様が褒め、職人モグラは嬉しそうに頭を掻く。
……なんで褒めてんの?
状況についていけないでいると、ここで漸く、なんらかの神様が教えてくれる。
まず、なんらかの神様の正体は、「鍛冶の神様」だった。
まぁ、見た目的にそうじゃないかと思っていたけど。
それと、職人モグラは、本来はここを守っていた魔物の内に一体だったらしい。
でも今は違うそうだ。
なんでも、鍛冶の神様は解放までの暇潰しにと、そこら辺の壁を削って小さな装飾品を作っていたのだが、それに感化を受けて弟子入りを願い出たらしい。
確かに、なんかやたらと細かい装飾が施されている壺とかが、そこらの床にいくつか転がっていた。
鍛冶の神様も、面白そうだと弟子入りを認め、今に至る。
でもその結果が、あの罠と迷路か………………他所でやれ!
ただまぁ、そこら辺はどうでも良い。
いや、よくはないかもしれないけど、些細な事だ。
俺は相手が鍛冶の神様だとわかった時から、聞きたい事があったのだ。
「一つ確認したいんですけど、良いですか?」
「ん? なんだ?」
「鍛冶の神様は、エイトやワンに関わっていますか?」
「エイト? ワン?」
「神造生命体の事です」
そう言うと、鍛冶の神様は首を傾げる。
「……さっぱりわからんな。いや、待てよ。……そういえば、造形の神から、神器クラスのサラシが作れないかと相談された事があったが、それと関係あるか? なんでも、本人の意思以外では絶対外れないようにしたいとか言っていたな。ワシは専門外だったから追い返したが」
はい。言質頂きました。
多分、ワンが装備しているヤツだろう。
それに、ワンは言ってしまえば初号機。
最初の神造生命体だ。
造形の神様は、初期から関わっているのは間違いない。
「まぁ、結局そのサラシは服飾の神が作ったぞ。それと、完璧なメイド服をお願いしますと、そのまま土下座で懇願している姿を見かけた事があるな」
相当な……もう駄目なレベルでの神様だな、そいつ。
「それで、それがどうかしたのか?」
「いえ、関わっていないのなら別に」
どうやら、鍛冶の神様は鉄拳制裁の対象外のようだ。
「なんだ? お前もワシになんか作って欲しい物でもあるのか? 武具類くらいなら、解放の礼として作ってやっても良いぞ」
いや、特には……と思ったが、そこで思い当たる。
「お願い出来るのであれば、盾を。それと、俺の親友たちにも何か」
「盾? 親友たち?」
鍛冶の神様に、これまでわかっている俺と親友たちの事を説明する。
………………。
………………。
「なるほど。予言の神による世界救済のための人員か。そういう事ならワシも手伝うのは構わんが……適した資材でないとな。ちっと色々と確認してからになるが構わんか?」
「あっ、はい」
作ってくれるのなら別に。
今直ぐ必要という訳でもないだろうし。
「では、さっさと出るか……といきたいが、そっちから戻るのは無理だな」
鍛冶の神様が指し示すのは、俺の後ろにあるあと付け扉。
そうですね。戻れないからこそ、ここまで来た訳ですし。
「となると、こっちからしかない訳だが……」
鍛冶の神様が面倒そうな表情を浮かべて、もう一方の扉を見る。
正規ルートの方ね。
何が面倒なんだろう?
「……期待は出来んが、お前はアレをどうにか出来るか?」
見ていない事にはアレがなんなのかわからないので、もう一方の扉を少しだけ開けて内部を確認。
………………。
………………。
そっと閉めて、鍛冶の神様を見る。
「えっと……」
もう一方の扉の先の部屋に居たのは、鎧武者だった。




