万全の攻略法なんてない
目の前にある高い壁は、天井にはついていない。
なので、少し距離を取れば奥の方が見えるので、上に向かう階段らしきモノが見える。
ただ問題なのは、ちょっとした距離があるのと、この高い壁の横幅もそれなりにあるため、今居るここが広大な空間となっている事だ。
つまり、階段までそれなりの距離があるという事である。
あと問題なのは、高い壁の向こうに何があるかだが……入口らしき切れ目があるので、そこから自分の目で確認するしかない。
なので、周囲の様子を窺いつつ、注意深く進んで確認。
………………細い通路が枝分かれしていて。
………………至るところで曲がりくねっていると。
うん。これ、迷路だ。
それも巨大な。
……まぁ、普段なら迷っていたかもしれない。
詩夕、常水と行った遊園地の中にあった迷路でも迷って……いや、迷っていないけど、脱出するのに時間は多少かかった。
⦅相変わらず認めませんね⦆
何を認めれば良いのか、さっぱりわからない。
……そうじゃなくて。
でも、今は違う。
今の俺にはセミナスさんが居るのだ。
巨大迷路だろうが迷う訳がない。
⦅申し訳ございません。ここも特殊な結界の影響下にあるようで、私の力が著しく制限されています。曲がり角の先に何があるかくらいならわかりますが、この迷路の全貌の把握は出来ません⦆
おっと。どうやら、これは巨大迷路攻略に時間がかかりそうだ。
……なんて事はない。
何故なら、俺は詩夕から迷路攻略法を聞いている。
それは、左手を壁に付けたまま進んでいく事。
⦅なるほど。確かに時間はかかるでしょうが、壁に沿ったまま進んでいけば出口に着くのは確実。私も確実な手段の方を推奨します⦆
……普通に進むと俺が絶対迷うと思っているから、確実な方を選んだ訳じゃないよね?
⦅大切なのは、出口に辿り着き、神を解放する事です。マスター⦆
……確かに。それが大事だ。
変に疑う事をやめ、左手を壁に当てながら、迷路の中を進んでいく。
なんか、変に土が盛られている場所があったり、建築資材っぽいのが置かれているな。
………………。
………………。
入口に戻って来た。
「……あれ?」
思わず声が出てしまう。
いやいや、待って待って。どういう事?
この方法でいけば、出口に辿り着くんじゃないの?
⦅私が考えたところ、それは完全な攻略法ではありません。その攻略法にはいくつか欠点があります。一つ、迷路内部で階層が存在している場合。一つ、隠し扉や仕掛けが作動しないと進めない場合、一つ、目的地が触れている壁とくっついていない……たとえば中央部分などにある場合などです⦆
……そういえば、詩夕もこれは完全な攻略法じゃない、みたいな事を言っていたっけ。
あと、そういうのに頼らず、楽しむのが一番だとも。
……楽しんでいる場合じゃない!
これ、割と命の危機ではないだろうか?
幸いにして、アイテム袋は持ってきている。
でも、中身は有限だ。
ここから早く出るに越した事はない。
左手の攻略法が使えない以上、次は勘に頼るしかない。
⦅……致し方ありません、か⦆
なんでそんな苦渋の選択を強いられたような感じの言い方?
もっと俺を信じて欲しい。
再度、迷路にチャレンジ。
………………。
………………。
三方を壁に囲まれ、もう一方は今来た道。
うーん……迷った。
⦅マスターの進んだ経路は覚えていますので、まずは入口に戻りましょう。指示する方に進んで下さい⦆
はい。
セミナスさんの指示で、入口に戻る。
……ん? あれ?
普通に戻れたけど、セミナスさんは曲がり角の先しかわからないんじゃ?
⦅マスターが二度も赴きましたので、その間に私がマスターの歩幅や歩数、進行方向などから迷路内をマッピングしておきました⦆
えっと、紙とペンで?
⦅そんなモノがある訳ないじゃないですか。もちろん、私の思考の中で、です⦆
普通に凄いと思う。
少なくとも、俺には出来ない。
⦅ですが、マッピングした事で問題が一つ浮上しました⦆
どんな問題でしょう?
⦅先ほど攻略法の欠点を挙げましたが、その中の一つ、隠し扉でもない限り、この迷路は攻略出来ません。どこをどう進もうが完全なる袋小路であり、階段の場所まで辿り着く事は出来ません⦆
え? 何それ?
それじゃ、どうしようもなくない?
⦅ただ、可能性の中で最も高いのは、この迷路が未完成なのではないかという事です⦆
未完成?
つまり、まだ造られている最中って事?
⦅ところどころで、それらしい跡が残っていました⦆
あぁ、あの建築資材とかか。
でも、一体誰が? と思ったところで壁の一部がバガンッ! と開き、そこから俺と同じくらい大きなモグラが出て来た。
首っぽい部分にタオルをかけ、腰と思われる部分にウエストバッグみたいなモノを提げ、そのウエストバッグには大工道具みたいなモノが満載。
THE・職人、みたいな雰囲気も醸し出している。
そんな職人モグラと目が合った……気がする。
いや、どこが目よ。
でも、互いに固まったように動かない。
⦅逃げるようなので追って下さい⦆
セミナスさんの言う通り、職人モグラが開いた壁の一部に戻るので、俺も急いであとを追う。
開いた壁の一部の先は、一本道の通路だった。
⦅位置的に、迷路の脇を通るようです⦆
関係者通路みたいなモノかな。
職人モグラを追って進んでいくと、待望の上に続く階段があった。
駆け上がっていく音が聞こえるので、俺もあとを追う。
この上ってどうなってんのかな?
⦅今の私は瞬間的な未来しか見えないため、わかりません⦆
行ってみない事にはわからないって事ね。
それにしても、迷路といい、この階段といい、あの職人モグラが造ったんだろうか?
もしそうなら、大した腕前だと思う。
いや、感心している場合じゃない。
もしあの職人モグラが魔物だった場合、敵だ。
……神様じゃないよね?
⦅私の記憶の中に、あのような姿の神は存在しません⦆
違うようだ。
なら、これまでの事を考えると、職人モグラが魔物なのは間違いない。
でもそうなら、どうして襲って来なかったんだろうか?
戦闘型じゃない?
……でも、俺より普通に強そうだったけど?
⦅単純な戦闘力なら……はい。あのモグラの方が強いでしょう⦆
この正直者っ!
そうこうしている内に階段を登りきり、辿り着いたのは小部屋だった。
下でも見た建築資材なんかが置かれている。
それと、閉じられている扉。
なんとなくだけど、扉の向こうから気配がする。
スキルで身体能力が向上して、こういう感覚も鋭くなっているのかもしれない。
一息吐き、扉をゆっくりと開いて、内部を確認。
小部屋と同じく、建築資材っぽいのが散乱している室内。
その中央付近。
腕を組んだ髭もじゃの小さなおっさんが、職人モグラを庇うように立っていて、こちらをジッと見ていた。




