注意してても引っかかる時は引っかかる
お礼のための目的地は、黒い神殿だった。
それは良い。
神様解放は、この世界のためにもなるからだ。
でも……これが本当にお礼になるの?
⦅なります⦆
断言された。
ここに封印されている神様がなんなのかは、今はわからないけど、もし戦闘系だった場合……これまでの事を踏まえると……俺がお礼をしたい人は、戦いが好きな人って事になるんじゃないだろうか?
⦅そうとは限りませんが……⦆
しかも、もしその場合は、俺の使用済みベッド絡みで、戦いが起こった事になる……というのは飛躍し過ぎかな?
⦅………………⦆
何故黙る。
⦅こほんっ。今の状況では、これが最善のお礼です⦆
わざわざ咳払いまでして怪しい。
もしかして、俺は今、核心を突こうとしているのか?
となると。
………………。
………………。
駄目だ。これ以上は何も思い付かない。
ここが俺の限界か。
ヒント下さい。
⦅個人情報に該当する可能性があり、その人物は特定される事を望んでいませんので、プライバシーの侵害です⦆
くっ。異世界でも、そういうのはあるのか。
ここだけかもしれないけど。
でもまぁ、こうして目の前に黒い神殿がある以上、行かない訳にはいかない。
俺のやるべき事でもあるし。
エイトとワンには見えていないから、そこに黒い神殿がある事を説明する。
「かしこまりました。では、姉と共に、ここでいつまでもお待ちしております」
「危なくなったら、ちゃんと戻って来いよ!」
そう言うエイトとワンだが――。
「心配して待っている感じじゃないんだよな」
エイトはテキパキとテーブルとティーセットを用意し、ワンはテントを張っている辺り、こういう事に慣れてきているのは間違いない。
まぁ、エイトたちは入れないから仕方ないけど。
でも、それらを入れていたのは俺のアイテム袋の中だったから、そろそろアイテム袋を返してくれない?
中で使うかもしれないしさ。
「思い付きました!」
エイトの頭の上で電球が光ったかのように見える。
何を? と言う前に、エイトはアイテム袋をワンの豊満な胸の谷間に押し込む。
「ふむ。『四次元胸』。とでも名付けましょうか。胸の谷間からアイテムが取り出せる仕様です。これで合法的に、アイテムを取り出すためだからと理由を付けて、胸の谷間に手を突っ込めますね。ご主人様」
「さも、俺がそれを望んでいたように言わないで」
「ん? 主なら、好きなだけ突っ込んでもいいんだぞ。なんだったら、顔でも埋めてみるか?」
ワンも調子に乗らない。
「くっ。これが持つ者と持たざる者の差ですか」
エイトも、自分で振っておいて悔しがらないように。
いくら見て触っても、大きくならないと思うから。
ただ、こっちはアイテム袋がないまま、中に入ろうとは思わないので、返して欲しいです。
なので、手を突っ込んで……なんて事はなく、普通にワンに言って引っ張り出して貰い、そのまま返して貰う。
……温かさを感じ取ってはいけない気がする。
これで準備万端。
軽く準備運動をしてから、黒い神殿に入った。
―――
入り口の扉から黒い神殿内部を確認。
……これまでと特に変化はない。
地下への階段があるだけだ。
……これまでの経験から考えると……黒い神殿って手抜き工事じゃないだろうか?
神様がたくさん居るために、封印するとその分の数が必要だから、結果として似たような造りの大量生産になってしまったのかもしれない。
もっとこう、大きく違うと困惑するから面倒だけど、同じようなのばっかりだと飽きる。
小さな変化でも良いから付けて欲しいモノだ。
こう……柱の装飾が少し違うとか、置いてある小物が違うとか……ん? 間違い探し?
さすがにそれは気付かない自信がある。
あれ? もしかして、これまでの黒い神殿の内部って、似たようなモノでも実は違っている部分があった?
……思い出してもわからないので、そこを考えるのはやめておく。
とりあえず、黒い神殿において、一階部分は飾り。
本番は地下だ。
なので、さっさと地下に進むか。
そう思って一歩目を踏み出す。
カチッ、と音が鳴った。
……ん?
⦅直ぐに後方に跳んで下さい!⦆
バッ! と後ろに跳ぶと、扉の上からそのまま大きな刃が落ちてきた。
この光景を簡潔に言うのならば、ギロチンが作動した感じ。
………………。
………………。
こわっ! ありがとう、セミナスさん。
⦅いつもの事です。ですが、これで安心しないようにお願いします。前々から言っていますが⦆
セミナスさんの能力が著しく制限されるってヤツね。
うん。今一度、胸に刻んでおこう。
それと、同じような造りだからといって、内部の仕掛けも同じとは限らないという事も。
なので、今度は慎重に、地下への階段に向けて進んでいく。
………………。
………………。
ふぅ~。何もなかった。
でも、精神が摩耗しているので、一休み。
丁度階段があるので、腰かける。
腰を下ろした瞬間、カチッ、と音が。
立ち上がる前に、階段の段差がバタンと閉じ、滑らかな坂道が出来上がる。
「……Really?」
そのままつるっと滑って地下へ。
盛大な尻餅をついて、地下に着いた。
尻を押さえながらうずくまる。
⦅心のMEMORYに残しておきます⦆
それで慰められないから。
あと、残さなくて良いから。
……痛かった。本当に痛かった。
ガコンッ! と階段が元に戻る。
恨めしく階段を睨んだあと、先を進む事にした。
ここも一直線の先に扉があるのが見える。
罠がないとも限らないので、ゆっくりと進んで……何も起こらず扉に辿り着く。
結局また何も起こらないのか……と壁に手を付き――カチンッ、と小さな音。
同時に、足元の床がバカンッ! と両開きで開き、大きな穴が現れた。
「ふっざけんなよぉ~……」
叫びながら落ちていく。
どうやら直角ではなく、緩い斜めになっているようなので、落下ではなく滑り落ちていく。
⦅……はぁ~⦆
セミナスさんの溜息がつらい。
うんうん。わかる。わかる。
あれほど注意しろと言ったのに、この結果はあんまりだよね。
でもさ、ほら。
なんというの……こう、動きが読まれていた? みたいな仕掛けだったでしょ?
これはもう、引っかかっても仕方ないと思うんだ。
⦅……せめて声をかける暇さえあれば、どうにでも対応が取れましたのに⦆
なんだろう。
すっごく申し訳ない感じ。
反省しつつ、滑り落ちていく。
どこまで続くのかなぁ……なんて考えたところで、漸く辿り着く。
滑り落ちた先にあったのは、上と同じような造りの通路。
全体的に壁が薄っすら光っているので、光源は問題ない。
⦅くれぐれも慎重にお願いします⦆
……はい。
慎重に進んでいき、何も起こらず、通路の先にあったのは……登れそうにないほど高い壁がそびえ立つ空間だった。




