なんか助けて貰えたようなので、お礼するのは当然です
ここから、新しい章です。
その日、部屋でのんびりしていると……ブルッとした。
何故かはわからないけど、一瞬だけもの凄い悪寒がした。
どういう事かはわからない。
何かしらの危機を感じ取ったのだろうか?
でも、それがなんなのかわからない。
わからなければ、わかる人に聞けば良いのである。
という訳で、セミナスさん。
⦅私がなんでも知っているとでも?⦆
そうじゃないの?
⦅……まぁ、知っていると言えば知っていますが⦆
なら、俺の悪寒の理由もわかるんじゃないの?
⦅……良いでしょう。これはマスターからの私の能力に対する挑戦状だと受け取ります。今確認しますので、少々お待ち下さい⦆
いや、そんな挑戦とか、そういう事じゃないんだけど?
ちょっと悪寒の理由を知りたかっただけで。
………………。
………………。
あの……セミナスさん?
⦅なるほど。そういう事が……⦆
どういう事が?
あの、セミナスさんだけで納得しないで、教えて欲しいんですけど。
⦅そうですね。マスターの使用済みベッドが……いえ、なんでもありません。どうかお気になさらずに⦆
いやいや、ポロッと言っちゃったよね?
俺の使用済みベッドって何?
字面が酷いけど、ちょっと見過ごせない案件だと思うんだけど?
というか、獣人の国での使用しているのは、そこにあるし……という事は、それより以前のベッド?
……一体どこの?
⦅人権を守るため……いえ、情け、と表す方が正しいのかもしれません。ですので、私がお教えするような事はありません。もし発覚したとしても、それは本人たちの口から言うべきでしょう⦆
……たち? 複数形?
どういう事かさっぱりだ。
教える気は?
⦅ありません⦆
そんな感じだよね。
じゃあ、一つだけ。
……俺、大丈夫だよね?
⦅……まだ確定していませんので、少々お待ち下さい⦆
待つのかぁ……。
何かはわからないけど、何かが起こっているようである。
その結末を待つしかないようだ。
でもなぁ……まだ王城から出られないし、どう時間を潰そうかな。
それに、アドルさんの話し合いもまだ続いている。
なんでも、頑固な獣人さんが居るらしい。
賛同する獣人さんも多いらしい。
なので、前から協力していたウルトランさんだけじゃなく、一家総出……それこそ、ウルルさんとインジャオさんも協力している状態。
もちろん、俺も協力を申し出た。
でも、断られた。
理由は同じく、出来るだけこの世界の者たちでやらなければならない、とかなんとか。
まぁ、俺はいざという時の最終手段として、どんと構えていよう。
セミナスさんにお願いすれば、大丈夫だろうし。
⦅相応の代価は頂きますが⦆
うん。何事もセミナスさんに頼りっぱなしはよくないね。
かなりの代価になりそうなのが怖い訳じゃないよ。
⦅安心して下さい。吸血鬼たちに代価は求めません。払う事になるのはマスターです⦆
うん。出来るだけ自分たちの力でどうにかしよう。
ちなみに、その頑固な獣人さんは、犬の獣人さん。
……うーん。インジャオさんに一噛み。で、どうにか出来そうな予感。
それこそ、最終手段かもしれない。
⦅結果が出ました⦆
色々考えている内に結果が出た。
それで、大丈夫なの?
いや、何が、というのはわからないけど。
⦅問題ありません。大丈夫です。とある方たちの尽力によって守られた、とだけ伝えておきます⦆
ここも複数形?
なら、お礼をしたいんだけど……やっぱり、その人たちの事は?
⦅私の口からはなんとも……。ただ、そうですね。お礼……⦆
やっぱり教えてはくれないけど、お礼は出来るの?
⦅そうですね。間接的な手助けなら出来ますので、そうしますか?⦆
お願いします。
⦅かしこまりました。では、今後の予定を組み上げますので、少々お時間を頂きます⦆
お願いします。
……さて。そうなると、直ぐにでもここから出発する可能性がある。
と、俺は踏んでいる。
なので、早急に観光をしたい。
………………。
………………。
女装しかないか。
⦅あっ、私の思考に乱れが⦆
え? 何かあった? セミナスさん。
⦅問題ありません。ですが、マスターが考えている通り、王都の外に出るのは間違いありません⦆
そうなんだ。俺の勘も冴えているな。
という訳で、今の内に観光するなら、女装しかないようだ。
もちろん、ワンにも変装して貰おう。
男装は……似合い過ぎる可能性があるな。
より女性たちが集まりそうだ。
となると、逆に可愛く……駄目だ。決められない。
本人に決めて貰おう。
そんな感じで、色々と手を尽くして観光をした。
とりあえず、女装したという記憶は消して、楽しかったという記憶だけ残しておこう。
―――
数日後、セミナスさんによる予定が組み上がった。
その説明のために、忙しいだろうけど、アドルさん、インジャオさん、ウルルさんに来て貰う。
「何やら予定が出来たらしいが?」
「一体どのような?」
「集まるような事なの?」
そうピリピリしない。
話し合いが上手くいっていないのかな?
インジャオさんの骨を噛ませれば一発だと思うのに。
……どうやら、そのインジャオさんの骨に夢中過ぎて、話し合いが進まないそうだ。
もうなんとも言えない。
いや、頑張れ……だけかな。
とりあえず、その話は置いておいて。
セミナスさんの予定を説明する。
まず、アドルさんたちはこのまま話し合いを続行して貰い、俺、エイト、ワンで先に旅立つ。
ただ、俺たちの行き先はとある場所。教えてくれなかった。
合流場所は、軍事国ネスの王都・キャユプル。
そこにある宿屋「癒しの盾」。
つまり、俺はそこに遠回りして向かい、アドルさんたちは話し合いが終わり次第向かう、という形になるようだ。
セミナスさんの今の予測だと、誤差一日か二日で合流出来るらしい。
その誤差は俺の遠回りの結果次第らしいけど、その事は言わない。
説明を聞き終わったアドルさんは、考えるように顎に手を当てる。
「……どうしてそこで別行動になるのだ?」
それは俺も不思議。
ただ、セミナスさんはきちんと解答を用意していた。
本来であれば、話し合いが終わり次第、軍事国ネスに出向いても問題なかったのだが、俺が希望したお礼を行うと、ちょっと間に合わない可能性があるそうだ。
……何が? と聞くのは野暮だろう。
いつものように、未来は流動ですので、言うと未来が変わる可能性があるので言えません、との事。
そこまで聞いたアドルさんたちは……喜んだ。
「よし! よし! もう少しで話し合いが終わる!」
「セミナスさんが言えば、もう確定したようなモノですね」
「もう少し……もう少しで、あのクソ爺が折れる!」
あっ、そっちが気になるのね。
えっと……年配の方が抵抗しているのかな?
でもその前に、別行動する俺たちの事を心配して欲しいんだけど?
「「「そこはまぁ、セミナスさんが居るから」」」
抜群の信頼感。
「「「寧ろ、セミナスさんが居なくなるこっちの方が不安に……」」」
もっと自分たちを信じて!
野性を失った獣のようにならないで!
大丈夫だと信じたい。
という訳で、アドルさんたちと少しの間だけ別行動する事になった。




