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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第六章 獣人の国
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タイミングを逃すと大変な事になるかもしれない

 朝。


「おはようございます」

「うん。おはよう。そして、当然のように寝室に、というかベッド脇に居るんだね」

「おはようからおやすみまで、ご主人様の暮らしを見つめていますので」


 何それ、怖い。

 もっと周囲を見て、広い視野を持って欲しいと言うべきだろうか。

 聞いてくれるかはわからない……というか、聞かなそうだけど。


 とりあえず、着替えるためにエイトを寝室の外に出し、再び寝室に戻る。

 ……うーん。何か特殊な錠前でも手に入れるべきだろうか。

 そんな事を考えながらシャツを脱ぐ。


「おぉ。しっかりとした肉付き。日頃から鍛えている証ですね。しかし、ご主人様は上から着替える派ですか。出来れば、下から着替えていただければ」

「でてけー」


 一体いつの間に……それに、気配遮断まで行えるようになるとは……。

 全く気付かなかったです。

 何か良い対処方法はない? セミナスさん。


⦅私に裸体を見せつけて……求めているのですね? 私を求めているのですね?⦆


 セミナスさんは、まだ寝惚けているのかもしれない。

 王都の観光ついでに、ちょっと探してみるか。

 予定を考えている間に着替えが終わり、食堂へ。


 ………………。

 さすがに今日は王族とエンカウントはなかった。

 のんびりと食べ、インジャオさん、ウルルさん、ウルトランさんは先に行っているそうなので、アドルさんと王族一家と共に闘技場に向かう。


 闘技場では、ワンが待っていた。


「はよっ! 主!」

「おはよう、ワン。それで、もうこっちに来て大丈夫なの?」

「あぁ、大丈夫だ! いずれ旅立つしな。面倒な事にはならないように、しっかりとしてきたさ。思い出に残る一夜にはなっているのは間違いないな!」


 晴れやかな笑みを浮かべるワン。

 ……詳しく聞かない方が良いんだろうな。

 エイトが興味津々って感じだけど、聞かないように。

 ワンと合流して貴賓席に。


 座り、視線を舞台上に向ければ、エキシビジョンマッチのようなこの試合に参加する、ウルルさんとウルトランさんが準備運動をしていた。

 しっかりと準備運動をしている辺り、どちらも本気だというのがわかる。


 ……昨日は不正を……だと言い過ぎかもしれないから、裏ワザという事にするか。

 二人共が裏ワザを求めてきたのに。


 それだけ相手に勝ちたいという本気の表れという事もあるか。

 とりあえず、アドルさんに聞いてみる。


「どっちが勝つと思いますか?」

「順当にいけばウルトランだが、ウルルも相当鍛えたからな。勝利を得る機会は充分にある」


 つまり、やってみないとわからない、と言ったところか。

 そこんとこ、どうなの?


⦅マスター以外の戦闘など、最初から興味がありません⦆


 知らないではなく、調べる気がないといった感じ。

 まぁ、そういう事なら、俺も結果を楽しみに観戦しよう。


「……という訳で、そろそろご主人様が、エイトの鍵開け技術を警戒しそうですので、特殊な錠前を用意してくるかもしれません」

「ふむ。話を聞く限り、その可能性は高い……いえ、確実でしょう。なんらかの対策を講じないと、閉め出されるかもしれませんね」

「それを危惧しています。いざという時に夜這……侵入出来なければ、ご主人様を守る事が出来ません」

「確かに。メイドにとって夜這……緊急事態に主人を守る行動が取れるのは大切な事ですからね」


 ……後方から何やら不穏な会話が聞こえる。


「なるほど。そこで私ですか。確かに、ロードレイル様は日頃から何故か私の侵入を危惧して、様々な……それこそ特殊な構造の錠前をいくつも用意しています」


 そうなの? とロイルさんを見れば、自慢そうな表情と態度。

 ありとあらゆる錠前を揃えていて、誇らしい気分なのかもしれない。

 まさか、錠前コレクターとは……いや、まさかでもないか。

 ロイルさんなら、いくつ用意していてもおかしくない。


「まぁ、その全ての錠前を開ける事が出来るのは、既に実証済みですが」


 あっ、ロイルさんが絶望的な表情に変わった。

 諦めないで! ロイルさん!


「エイトは今後のためにも、その鍵開け技術を習いたいのです。ご教授頂けないでしょうか?」


 熱心な事は良い事だ。

 でも、きっと俺もロイルさんと同じ表情を浮かべているだろう。


「つーか、特殊だろうがなんだろうが、力技で壊せばいいじゃねぇか」


 ワンの一言。

 それが出来れば誰も苦労はしな……いや、待って。

 え? 力技で出来るの?

 それだと、そもそも錠前自体が無意味になってしまうんだけど。


「力だけでは通用しない錠前もあります」

「そうですね。確かな鍵開け技術が必須の、特殊な錠前は存在します」


 なんだ。じゃあ、力だけじゃ無理――。


「いや、別に錠前にこだわる必要はねぇだろ。それこそ、扉自体や壁、窓もあるし」

「「………………」」


 エイトと宰相さんが黙ってしまった。

 俺はそもそも黙っている。

 ……うん。確かにそれだと錠前なんか意味ないよね。


 でも、それだと意味はないんだよ!

 錠前を開けて、こっそり侵入する事に意味というか、美学がある訳で……って、違う違う。

 これだと鍵開けを擁護しているようじゃないか。

 俺はそんな技術を許してないぞ!


 なので、ここは一つ注意を言っておこう。

 特に宰相さんが絡んでいる案件は駄目だ。


「エ」

「アキミチ。お前はこの試合の結果はどうなると思う?」

「え? あっ、えっと」


 なんで今聞いてきたの? アドルさん。

 アドルさんの問いに答えつつ、後方の聞き耳は忘れない。


「……そうですね。私のこの全ての錠前を開けてしまうかのような技術を失伝してしまうのは、惜しいと思ってしまいますね。折角ここまでの技術を身に付けたのですから。……良いでしょう。私の技術の全てを教えて差し上げます。師匠と呼ぶように」

「宜しくお願いします。師匠」


 ガッチリと固い握手が行われているような気がする。

 駄目な二人が本格的に手を組んだ感じ。

 ……あの、仲間が出来た、みたいな目で俺を見ないでくれますか。ロイルさん。


 そうこうしている内に、武闘会……最後の試合が始まる。


「さぁ! 遂にこの戦いで武闘会が本当に終わる! だが、間違いなく頂上決戦! 獣王、ウルトラン陛下と、圧倒的な強さで優勝した撲殺姫、ウルル様の戦いだぁー!」


 興奮している解説実況の言葉と共に、観客のボルテージも一気に上がる。

 そして、開始の合図と同時に、ウルルさん、ウルトランさんが一気に前に飛び出す。


「はあああああっ!」

「うおおおおおっ!」


 二人共が拳を放ち、互いの頬にクリーンヒット。

 そのままその場から一歩も動かずに始まる殴り合い。

 ……どちらも防御する気は一切ないようだ。


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