結局、似た者同士って事なのかな?
王都をぶらりと散歩して、暗くなる前に王城に戻る。
……うーん。王都内をあんまり見回る事が出来なかった。
何しろ、セミナスさんにオススメを聞くと宝石店に行かせようとするし、エイトは何故か女性用の下着店に俺を入らせようとしてくる。
あんな居るだけでいたたまれないようなところに居たくない。
なので、丁寧に断ったのだが――。
⦅出来れば私の指に似合うのが欲しいのですが、お気に召す宝石はありませんでしたか? それでしたら、この通りを三分ほど進み、右折。そこから同じく三分ほど進んだ場所に、見事な細工を施す宝飾店があり……⦆
「エイトは思ったのです。ご主人様に選んで貰った下着を身に付ければ、それはつまりご主人様色に染められて包まれていると同義ではないかと。ですので、本当に同義かどうかを確認したいので、是非とも協力をお願い……」
こんな感じで、食い下がるというか、一歩も引く様子が一切なかった。
それでもこうして無事に戻って来れたのだから、俺が勝ったという事で間違いはないはず。
なんというか、今回は様子見で、次が本番のような気がしないでもない。
そんな感じで身体的にではなく、精神的に少々疲れた。
なので、さっさと食事を取って寝たいのだが……問題が発生する。
それは、食事を取ったあと、用意されている部屋で休んでいた時。
来客があった。
来たのは、ウルトランさんが一人だけで。
テーブルを挟んで向かい合う。
「………………」
「………………」
なんで喋らないの、この人。
何をしに来たのか、本当にわからない。
どうしたモノかと思ったところで、漸く口を開いた。
「……これまでの旅の話は、アドルから聞いた。神の解放……見事である」
「えっと、どうも」
「………………」
「………………」
いや、それだけ!
たったそれだけを言うために、ここに来たの?
わざわざ。一人で?
………………怪しい。
普通に考えれば、他にも用があるのは間違いない。
まぁ、それがなんなのかはわからないけど。
「ごほんっ!」
わざとらしく咳払いするウルトランさん。
漸く言う気になったようだ。
「それで、だな……その、話を聞いている内に、どうしても我の中で整合性が取れなくてな。その確認をしに来たのだ」
「……はぁ。何に納得出来ないんでしょうか?」
「アキミチの身体能力を踏まえて、これまでの事を当てはめると……どうにも全てが上手くいき過ぎているように思えるのだ。同程度の身体能力を持っている者でも、同じ期間で同じ事は出来ない。何かしらの仕掛けでもない限りは。……いや、アキミチのこれまでの努力や成果を軽んじている訳ではない事は言っておく」
今のは言い方が悪かったと、ウルトランさんが頭を下げる。
俺も気にしていませんと頭を下げた。
それと、ウルトランさんが何を言いたいのかもわかる。
「だからこそ、確認したい。もしや何かしらの特殊な……それこそ、先を読むようなスキルを持っているのではないか?」
さすがは王様! 賢い! とでも言うべきなのかもしれない。
見事に言い当てている。
しかし、そこは俺にもこれまで培ってきたモノがある。
追及されたからといって、そうそう表面に出すような事はない。
「……やはり、か」
あれ? 何故に確信を?
⦅マスターはポーカーフェイスの技術を培っていませんので⦆
いや、そうかもしれないけど、これまで色々と追及されてきた訳だし、成長しているかな? って。
⦅成長していません。また、成長の芽もありません⦆
このままかぁ……このままかぁ……。
良い事だと思っておこう。
ところでこれ、どうすれば良いの?
もう確信されているけど、セミナスさんの事、教えちゃって大丈夫なの?
⦅……問題ありません。広められても困りますが、王族とはある程度懇意にしておいた方が色々と動きやすいのは事実です。まぁ、何かしらの邪な考えを持つようなら……ふふふ⦆
どうなるのかは聞きたくない。
でもまぁ、言っても良いと許可が出たので、ウルトランさんに教える。
ついでに広めない事を約束して貰って……。
………………。
………………。
「……正に破格のスキルだな。しかも自我まで持っているとは。……あぁ、もちろん、この事を広めるつもりはないから安心して欲しい。愚かな者が擦り寄って、破滅がばら撒かれては困るからな」
どうやら、セミナスさんを怒らせるとどうなるのかを、ウルトランさんは想像したようだ。
想像力豊かですね。
「しかし、そのような、世にあるスキルの中で頂点に立ってもおかしくないようなスキルを持つとは……非常に幸運な事だぞ、アキミチよ。大切にするのだな」
⦅聞きましたか? マスター⦆
いや、話しているのは俺だから、ちゃんと聞いているよ。
⦅私の事をよく理解しているようです。宜しい。『無駄な筋肉』から『筋肉獣王』と称する事にします⦆
……それは、どうなんだろう。
というか、これまで聞いてなかったけど、ウルトランさんをそんな呼び方していたの?
しかも、どっちにしても「筋肉」というワードは絶対なんだ。
……でも、王呼びになっているから、セミナスさんの中でそれなりの位置付けになったのは間違いない。
⦅それと、マスターは私をもっと大切にするように。たとえば、宝石が見たいんだろうと察したのなら宝石店に行き、『彼女に映える宝石をお願いします』とセンスの良さそうなカリスマ店員に声をかけるのです⦆
……まぁ、聞いても良いけど、そもそも彼女に映えると言われても、セミナスさんには体がないから、確認のしようがないと思うけど?
いくらセンスが良くても、カリスマ店員さんが困るのは目に見えている。
それか……エイトの事と思うんじゃないだろうか?
そう考えて、思わずエイトを見てしまう。
「……何やらエイトにとって都合の良い展開が起こるような気になってきました」
やっぱ聞かない方向でいこう。
これで話は終わりかな? と思ったのだが、ウルトランさんはまだ話があるのか、居残っていた。
しかも、なんか言いにくいのか、モジモジしている。
……気色悪い、と思っちゃいけないだろうか。
「それで……だな。少しお願いがあるのだが……」
「お願い、ですか?」
そう尋ね返すと、ウルトランさんは少しだけ黙り……意を決したかのような表情で俺を見て、頭を下げる。
「どうか! 明日の試合。どうすれば我が勝てるかの伝授を!」
………………。
………………。
俗っぽい願いっ!
「えっと……ウルルさんの相手ってそんなに大変なんですか?」
「強さだけなら……我に匹敵するかもしれん」
……それは大変そうだ。
「獣王として……何より、パパとして絶対負けられないのだ!」
色々と背負っているのもわかった。
でもなぁ……セミナスさんの力をこういうのに使うのも気が引けるというか……。
⦅そうならないのでお気になさらず⦆
どういう事? と思っていると、新たな来客。
エイトが開けた扉から現れたのは、ウルルさん。
「アキミチ。ちょっとお願いが……」
入室したウルルさんは、少しだけ思案し……全てを察した。
「汚い! 父親が娘に勝つために汚い真似を!」
「勝つために全ての手を打つのは当然の事だ! それと、パパって呼びなさい!」
喧嘩をするなら表で……いや、明日するからそっちで。
というか、ウルルさんもここに来た目的は、ウルトランさんと一緒だと思うけど?
余波が怖いので、そこを追及したりはしない。
……もう寝るんで、ドタバタしないで頂けますか?




