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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第六章 獣人の国
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定番はたくさんあっても定番

 まだまだ続けられている歓声と拍手の中、ウルアくんは女医さんたちによって治療テントに運ばれていった。

 あのテントの中で何が……て治療か。

 いかがわしい事なんて起こっていない……はず。


 もし起こっているのなら、俺の時にも起こっているはずだ。

 ……でも、ウルアくんはこの国の王子。

 これはチャンスだとここぞとばかりに……というのは不敬と取られてもおかしくないからないか。


 一方、ウルルさんは優勝者として、舞台上で運営員っぽい人からインタビューを受けていた。

 ただの内容は、自分に出来る事を精一杯やりましたとか、ウルアくんの今後の成長に期待とか、次は危ないかもしれませんねとか、無難な返しばかり。

 ウルルさんっぽくない。


 もっと破天荒な事を言いそうなのに。

 それじゃあ、今からここに居る全員でやり合おうか、みたいな事とか、インジャオさんへの愛の言葉ばかりとか……。


 そんな事を考えている間に、インタビューも最後の質問が行われた。


「それでは最後に、ウルル様。優勝者に与えられる獣王様への挑戦権は行使はされますか?」

「もちろんです。もっとも、獣王という立場に興味はありません。私は既に嫁ぎ先が決まっていますので。ですが、戦ってはみたい。自分がどこまでやれるのかを知るために。……あとは、公然と殴れる良い機会ですし」


 ウルルさん的にはボソッと呟いただけなのかもしれない。

 でも、しっかりと聞かせて頂きました。

 呟いた最後の一言が、一番ウルルさんっぽい。


 でも、確かな事として、ウルルさんは獣王に挑戦すると言った。

 獣王……つまり、自分の父親であるウルトランさんに。

 対するウルトランさんは、神妙そうに頷いたあと、立ち上がって宣言する。


「よかろう! その挑戦、受けて立つ! 獣王という頂がどれほどの高所であるかという事を、その身を以って知るが良い!」


 堂々と受けて立った。

 その威風堂々とした立ち振る舞いは、正に王そのもの。

 いや、王様だけど。


 その宣言を受けて、ウルルさんが酷薄な笑みを浮かべる。

 その笑みを見たウルトランさんが、ビクッ! と跳ねたように見えたのは気のせいだと思いたい。


 ……頑張れ、獣王陛下。いや、お父さん。

 娘が甘えてきたという感じで受けとめれば大丈夫、だと思う。


 そして、ウルルさんが運営員っぽい人から金色に輝くメダルを受け取り、頭上に掲げると盛大な歓声と拍手が送られる。

 優勝メダルかな?

 もちろん、俺も周囲に合わせて大きな拍手を送った。


 ウルトランさんが締める。


「今大会の優勝者は決まった! 優勝者はウルル! この者の健闘を称え、盛大な歓声と拍手を!」


 更に大きな歓声と拍手が巻き起こり、ウルルさんは応えながら舞台から下り、近くの出入口に向かっていく。

 その姿が見えなくなると、ウルトランさんが最後にもう一声。


「……これまでの一年の成果が実らなかった者も居るだろう。だが、これからの一年で成果が実るかもしれない! それは誰にもわからないのだ! だからこそ、我はあえて言おう! 己の限界を決め付けるな! と。一年後、更なる強さを身に付けた者たちに出会える事を願う! これで、今年度の武闘会は閉会とする!」


 ウルトランさんの一声が終わると同時に、戦った者たち全てを称えるような拍手が起こり、少しずつ落ち着いていく。

 名残惜しむように。


 でも、明日もあると思うんだけど……まぁ、一つの区切りって事かな。

 明日は余興のようなモノだし。


 拍手が少しずつ落ち着いていき、パラパラと観客席から席を立つ人たちが現れ始めたのが見えた。

 でも、余韻に浸りたい人たちが多いのか、その数は少ない。

 王城に戻るまで、もう少しかかりそうである。


 それなら今の内にと、アドルさんが貴賓席に居る人たちに、EB同盟再強化の話をしにいった。

 ………………。

 ………………。

 こういう時間は結構手持ち無沙汰だ。


 というか、よくよく考えてみると、王城に戻っても特にやる事はない。

 一試合だけだったし、就寝時間まではまだまだ時間が残っている。

 体力もそうだ。


 ……よし。王都観光でもするか。

 本来なら武闘会が完全に終わってからにしようと思っていたけど、ある意味もう終わっているようなモノだし、少しくらい早く行っても問題ない。

 それに、下見気分での散歩というのもアリだと思う。


 エイトは付いてくるとして、ワンは……ちょっと確認が必要かな。

 このあとの予定を頭の中で考えていると、隣の会話が聞こえてくる。


「……武闘会が終わったという事は、もう自国に帰っても良いのかな?」

「まだやめて下さい。明日もありますので、それが終わりましたら問題ありません」

「それでは、今の内にウルトラン陛下に挨拶を」

「本日、このあとに予定を取っていますので、その時にお願いします」

「帰りの準備を」

「三日後の朝出発で手配しております」

「それでは、折角獣人国に来た事だし、土産を」

「こちらの書類をご確認下さい。送るべき人の一覧をご用意しました。上からお土産の必要性が高い順に、それと共に傾向と対策を掲載しています」

「そ、そうか……しかし、これだけ居るとなると数を揃えるのも」

「二枚目を確認下さい。獣人国のお土産として喜ばれる物の一覧と販売店舗、その店舗までの地図を掲載しています」

「……資金が」

「問題ありません。こういう事もあろうかと、自前のアイテム袋の中に多額の資金を保管していますので。足りないという事はないと思いますが、いざという時はウルトラン陛下から借りれば良いのです。国に帰って利息付きで返せば大丈夫です」

「う、うむ……」


 ロイルさんが宰相さんにやり込められていた。

 打てる手は既に打っていた訳か。

 準備が良いにもほどがある、と思うが、ちょっと待って。

 今、聞き捨てならない事を言わなかった?


 確か、自前のアイテム袋に資金が、て……。

 それは……良いのだろうか?

 ロイルさんは宰相さんの手腕に圧倒されて何も言えない、みたいな状態になっているけど、教えた方が良いような……。


⦅その場合、各人に配られるお土産の質が下がるようですが?⦆


 ……まぁ、あんまり国の出来事に関わるのもね。

 うん。俺の中での範囲外って事にしておこう。

 それに、ロイルさんはたくさんお土産を買って喜ばれ、傾向と対策によって貰う人たちも喜ぶだろうから……誰にとってもきっと良い結果になるはず。


 そう判断して何も言わない事にした。


「という訳で、エイト。このあと、俺は王城には向かわず、王都内をぶらりとしようと思うんだけど」

「かしこまりました。待ち合わせは貴賓席出入口で良いでしょうか?」

「えっと……待ち合わせ?」


 なんでいきなり待ち合わせ?

 しかもそんな直ぐそこで?


「『待った?』、『今来たところ』、というのがデートの始め方の定番だと思いますが?」

「それは偏見じゃないかな?」


 時間通りに来ていても、二人の間に遮蔽物があって、お互い気付かない……というのもあるはずだ。

 ……とりあえず、エイトも一緒に来るという事で間違いはないはず。


 なので、アドルさんやウルトランさんに断りを入れて、早速出掛ける事にする。

 下見みたいなモンだし、そんなに時間をかけるつもりはない。

 闘技場から出る前にワンを見かける。

 案の定、女性獣人さん三人と一緒だった。


 ……今日は帰って来ないかな?

 まぁ、敗北からは立ち直っているようなので、大丈夫だと思う。

 そう判断して、エイトと一緒に王都をぶらついてから王城に戻った。


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