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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第六章 獣人の国
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そのフラグが立たなかった事を素直に喜ぶ

「さぁ! 遂に! 遂にぃ! 今大会も一つの終わりを迎えます! 残るは決勝! しかも、今回のように王族同士がぶつかるのは実に久し振り! ここ数年はなかった事です! しかも、両者共に人気と実力は桁違いだ!」


 おぉ、実況解説もなんか力が入っている。


「まずはこちら! ここまで圧倒的な実力で、文字通り全てを叩きのめしてきた『撲殺姫』ウルル~!」


 わっ! と観客席から一気に歓声が上がる。

 ウルルさんが歓声に答えながら現れ、舞台上に。


「続いてはこちら! 国内人気は最大で、実力は本物であり、その才能は歴代最高と言われている『完璧王子』ウルジュニア~!」


 ウルルさんの時と同じく、わっ! と歓声が上がる。

 ウルアくんが歓声に応えながら現れるが、その表情はどこか緊張しているように見える。

 相手が姉であるウルルさんだからかな。


 しかも、ウルアくんは大剣を携えていない。

 最初から無手のようだ。

 まぁ、ウルルさんは俺より素早いだろうし、間違っていないと思う。


 ウルアくんが舞台に上がり、ウルルさんと対峙する。

 すると、ウルアくんが一礼し、ウルルさんが自身の胸をどんと叩く。

 うーん……。


「ウルル姉上。今日は胸を借りるつもりではなく、勝ちを取りに行きますので、そのつもりで宜しくお願いします」

「どんとこい!」


 的なやり取りだろうか?

 間違ってはいないと思う。

 そんな事を考えている間に、決勝が始まった。


 ……始まらなかった。

 いや、正確には、始まってはいるんだけど、ウルルさんとウルアくんの二人がどっちも動かなかった。

 対峙したまま、相手の出方を窺っている感じだろうか。


 戦いが好きな人たちからすれば、きっとこの状況は、二人の間の空気が重いとか、既に頭の中で戦っているとか、なんかそんな事を言うのは間違いない。

 観客席の至るところで、自分はそれを理解しているとドヤッてそうだ。


 でも、そういう感性がない俺からしてみると、早くやり合ってくれないかな? と思ってしまう状況である。

 頭の中で考える事も重要だと思うけど、動く事も必要だと思う。


⦅そうですね。その点、マスターと私は役割がきちんとしています。マスターが動き、瞬時に思考して最善手を選択して告げる私、と⦆


 おっと、なんだろう。

 それだとまるで、俺が何も考えずに動いているみたいな気になる。

 色々考えているんだよ、俺も。


⦅それはもちろんわかっています。ですが、マスターの思考は様々な方向に逸れていきますので、私でも全てを把握するのが難しく……⦆


 複雑な人って事にしておこう。

 セミナスさんと会話している間に、戦闘が始まった。


 先に仕掛けたのはウルアくん。

 牽制するようにウルルさんの周囲を飛び交い始める。

 隙を窺っている、もしくは、出方を模索しているのかな?


 対するウルルさんは、不動。動かない。

 ウルアくんの動きを追う事もなく、最初の対峙していた状態から一歩も動いていない。

 視線すら向けず、ただ前を見ているだけ。

 まるで王者のようだ。


 そして、ウルアくんが動きまくった事で体が温まってきたのだろう。

 目に見えて動きが速く鋭くなっていき……途中で意表を突くかのようにかくんと進路を変え、ウルルさんの背後から強襲を仕掛ける。

 飛びかかるような体勢で拳を前に突き出す。


 が、当たる直前にウルルさんが体を倒しながら捻って回避。

 自分の回る視界の中に、ウルアくんの姿を捉えると、ニッと笑みを浮かべて蹴りを放つ。

 オーバーヘッドキックのような形のウルルさんの蹴りを、ウルアくんは腕を曲げて受けとめるが、勢いを消す事は出来ずに蹴り飛ばされる。


 体勢を崩しつつもなんとか受け身を取ってダメージを抑え、なんでもないようにウルアくんは立った。

 ウルルさんは悠然と立ち、ウルアくんに向けて再度笑みを浮かべる。


「背後からの攻撃を仕掛けてくるなんて、成長したわね、ウルア。前は正々堂々となんて言って、正面から突っ込んでくる事しか出来なかったのに」

「いつの時の事を言っているんですか? 僕だって学んでいます。いつか、この獣人国を背負って立つために」

「なら、もっと頑張らないとね」


 ウルルさんがウルアくんに襲いかかる。

 そこから始まったのは格闘戦。

 殴り、蹴り、掴み、投げ、回避など、様々な攻防が超高速で繰り広げられていく。

 ウルルさんがぐんぐん速度を上げていくが、ウルアくんもついていっている。


 武闘会前までの俺なら知覚すら出来なかっただろうけど、今は二人の動きがしっかりと見えていた。

 目がよくなったのも、スキルのおかげかな?

 こういうのも身体能力のスキルに関わっているとしたら……本当に随分と範囲が広いスキルだな、と思う。


 そのままウルルさんとウルアくんの攻防を見ていると、ふとある事が気になったので尋ねる。

 もし俺がウルアくんに勝っていた場合、ウルルさんとはどう戦っていたの?


⦅今と同じように超高速による乱打戦闘が行われていました⦆


 ……勝ってた?


⦅残念ながら、勝利を得る事は出来ませんでした。能力値が違い過ぎるというのもありますが、獣人メイドは私の存在を知っています。マスターが私の指示に対応出来なくなるまで消耗させるために全ての速度を上げていき、何度もフェイントを織り交ぜる事でマスターを混乱させてから、ダメージとなる攻撃を放ってきました⦆


 うわぁ……えげつない。

 ウルルさんの本気を感じる。


⦅当然、マスターは避ける事出来ず、何度かの攻防ののち、まともに食らって昏倒、もしくは場外に飛ばされて敗北、といった結果が多いです⦆


 おぅ。


⦅それと本当に僅かな可能性……それこそ、落ちていた宝くじを拾って、何気なく番号を確認したら一等当選していた、くらいの可能性ですが⦆


 よっぽど……いや、まずありえないって事か。

 でも、そういうのほど、起こる時は起こるんだよね。


⦅マスターと獣人メイドが同時に足をもつれさせ、絡みつくようにして転倒したのち、互いの鼻先が触れ合うような形で倒れている事に気付き、マスターが獣人メイドに殴り飛ばされてダウン。また、その事によって骸骨騎士の嫉妬心が少しだけ発動し、日々の鍛錬が少々厳しくなる、というような結果もありました⦆


 そうならなかった事を素直に喜ぼう。

 心の中で密かに喜んでいる間も、ウルルさんとウルアくんの戦いは苛烈さを増していっている。

 ただ、二人の間に明確な違いがあった。


 ウルルさんはウルアくんの攻撃を全て防ぐか回避しているが、ウルアくんはウルルさんの攻撃の全てを防げず、回避も出来ていない。

 少しずつ……少しずつ……じわじわと追い込まれていっている感じ。


 ウルアくんもその事は当然理解しているため、どうにかしようと動きの緩急を突然変えたり、フェイントの回数を増やしたりしているのだが、全てウルルさんに読まれていた。

 既に息切れもしている。

 でも、諦めた様子は一切見えない。


⦅ですが、そろそろ終わりです⦆


 という事なので、座り直し、しっかりと見るために上半身を前に出す。


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