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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第六章 獣人の国
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声が届かない時だってある

 ウルアくんが「ありがとうございました」とおじぎするので、俺も同じように返しておく。

 握手して、またやり合いましょう、と言われたが、出来れば次はもっと楽な感じでお願いしたい。

 ……次があればだけど。

 ……あっても、楽な感じにはならないと思うのは気のせいであって欲しい。


 という訳で、ウルアくんに負けた。

 でも、そもそもの話として、攻撃下手というか、自分の意思で行う攻撃がほぼ当たらない俺からすれば、この結果は出来過ぎな気がする。


 三位決定戦はないそうだけど、ベスト4には入っているのだ。

 充分な結果じゃないだろうか?


 スキル補正があったからこそだし、身体の神様にお礼を言っても良い。

 ……いや、変なトレーニングされそうだし、直接言うのはやめておこう。

 心の中だけで……ありがとう。


 ウルアくんとの戦いで受けた傷も、治療テントでバッチリ治して貰った。

 女医さんの足の組み替えは……ついつい見てしまうな。

 多分、俺の視線にも気付いていたと思う。

 あれ、絶対後半のはわかっていてやったのは間違いない。


 誘惑されている……んじゃないな。

 からかわれているような気がする。


 そう思わない? セミナスさん。

 治療テントを出たあと、そう聞いてみたのだが……。


⦅どこで私の予測がずれてしまったのでしょう。獣人ショタ王子の急激な成長が原因? ……たとえそうであったとしても、その兆候と可能性を見逃していたのは明確な事実であり、私のミス。……けれど……⦆


 ウルアくんとの戦いが終わってから、ずっとこうなのである。

 そろそろ戻って来て欲しいんだけど……。

 おーい! セミナスさーん!


⦅マスターは私の指示通りに動いてくれました。なのに私はマスターを勝たせる事が出来ませんでした。……つまり、敗北の原因は私⦆


 いや、それは性急というか、セミナスさんのせいじゃないと思う。

 やっぱり、戦闘向きじゃない俺が原因だと思うんだけど。


⦅私自身が現状に甘んじている事が原因。今回の失敗を生かし、今後のために更なる予測と計算が出来るようになる必要が出てきたという事。そのためには、マスターの成長に合わせて、私自身も成長する必要があるという事になり……⦆


 駄目だ。なんか聞いていない。

 ……いや、聞こえていない?

 セミナスさんの中で折り合いがつけられるまでは、このままっぽいな。

 ならその時を待てば良いか、と判断して、貴賓席に向かう。


 ……違う。こっちじゃなくて。

 ………………ここを進んで……曲がって……着いた。

 よし。やっぱり自分だけで目的地に行ける。

 俺は方向音痴じゃない!


「勘違いです」


 貴賓席の出入口前で待機していたエイトに即座に否定された。

 いや、まだ何も言っていないよね?


「間違えているとは思いませんが、何やら先にこう言わねばと思いまして」


 ………………。

 なんだろうな。

 エイトだからな、で済ませてしまいそうになった。

 そう思っていると、エイトが一礼する。


「まずはお疲れ様でした。結果は残念でしたが、ご主人様は立派であったとエイトが言っておきます」

「う、うん」


 エイトがそんな事を言うなんて珍しいな。

 ……負けた俺を気遣ってんのかな?


「ですので、もしご主人様の敗北について揶揄されるような事があれば、エイトに教えて下さい」

「……教えるとどうなるの?」

「エイトの中にある隠しスキル『誰でも簡単に出来る経絡秘孔・親指でドスッと』が発動して、駆逐されます」

「いきなり物騒なスキルが! しかも駆逐されるの!」


 何それ怖い。

 エイトにそんな隠しスキルが……本当にあるんだろうか?

 いや、そもそもだけど、そんなスキルがあるかも怪しい。

 対応する神様……なんの神様になるの?


「『マッサージの神』です」

「居るの? そんな神様が?」

「居ます。かなり忙しい神様で、予約が中々取れないと言われています」


 カリスマ的人気って事か。

 苦労が絶えない神様が多いのかもしれない。

 でも危険な技にも対応している辺り、マッサージを受けても身を任せるのがちょっと怖い。

 不意にドスッて突かれないよね?


「安心して下さい。エイトがマッサージしてあげます」

「絶対ドスッて突かれる流れ!」


 更に身を任せたくない。

 エイトの技にビクつきつつ、貴賓席に入る。

 拍手で出迎えられた。

 俺の健闘を称えて……かな?


 どうもどうも、と軽く会釈しつつ、自分の席に向かう。

 その前にウルトランさんが立ち塞がった。


「良い戦いであった」

「どうも」


 そう言ったウルトランさんの表情は、ウルアくんの勝利が嬉しい気持ち半分、もう半分はその先の優勝者とやり合う事になる未来への不安、というのが表れている……ような気がする。


「えっと……頑張って下さい」

「うむ」


 とりあえず応援しておく。

 ウルトランさんは力強く頷くが、今からでも遅くない。頑張れ、我……と遠い目をして呟いていた。

 追い込まれているなぁ。


 そのあと、アドルさんと話す。


「すみません。負けてしまいました」

「いや、負けたのは残念だが、充分よくやった。こちらの力を示したのは間違いない」

「そう言ってくれると助かります。これであとは交渉ですね」

「そうだな。武闘会のあとから始まるが、そこは私の仕事だ。その間、アキミチはのんびりと休んでくれ」

「そうします」


 何しようかな。

 まずは観光。

 それは外せない。


 それと……ワンの気晴らしに、どこかに連れて行った方が良いかな。

 具体的にどことかはないけど、そこら辺はワンが起きてから聞いてみよう。

 そう思っていると、宰相さんから声をかけられる。


「お疲れ様でした、アキミチ殿。残念でしたね」

「どうも。でも、相手を気遣うような事も言えるんですね」

「もちろんです。相手を気遣えるからこそ、私はこうして宰相という地位に居るのですから」


 うん。胡散臭い。

 寧ろ、策略と謀略でここまで成り上がりました、と言われた方が納得出来そうだ。

 そう思っているのを察したのか、ロイルさんがその通りだと頷いてから、声をかけてくる。


「身体的能力が非常に高い獣人相手に、よくぞここまで残った。誇って良い結果だ」

「はぁ」


 なんだろう。

 なんかロイルさんっぽくないっていうか、王様って感じ。

 ……周囲の目を気にしてかな?

 まぁ、実際王様だしね。

 宰相さんに何か言われたのかもしれない。


 観客席の人たちが減ってからの移動になるので、それまで休む事にする。

 何しろ、治療テントで回復するのは傷だけ。

 スタミナはまだ回復しきっていないので。

 出発までのんびりと過ごした。


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