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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第六章 獣人の国
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俺にもそんな若さがあれば!

 大剣ではなく、無手で襲いかかってきたウルアくん。

 本人が言っていたが、拳術を習っているそうだ。

 実際、その動きは様になっている。


 けれど、何より重要なのは、先ほどまでと違って動きが素早いという事だ。

 攻撃速度だけじゃなく、全体的に。

 どれだけ重い大剣を振り回していたのやら。


⦅現実逃避をしている場合ではありません! 左腕を回し、右腕を振り上げ、左膝を突き出し、その場で回って、両手を重ねて受け止める⦆


 セミナスさんの指示でウルアくんの攻撃を防ぎつつ、最後に繰り出された拳を重ねた掌で受け止める。

 バチン! と激しい音が鳴った。

 ……いっ、たい!


 いや、寧ろよく受け止めたと自分で自分を褒めるべきだろうか?


⦅そんな暇はありません⦆


 ですよね。

 後方に跳んで距離を取るが、ウルアくんが即座に距離を詰めてきて、再び攻防が始まる。

 少しは休ませて欲しいんだけど!


「早く攻撃に移らないと、このまま一気に決まってしまいますよ?」


 ウルアくんは声をかける余裕すらある。

 でも、俺にそんな余裕はない。

 というか、ウルアくんの言う通り、こっちも攻勢に出た方が良いんじゃない?

 やられる前にやらないと、本当にこのまま押し切られてしまいそうだ。


 それに、スキルで上がった身体能力であっても、そろそろ対応するのが難しい速度に入りそうなんですけど!


⦅いえ、丁度良い鍛錬になっています⦆


 どこが? 結構厳しめですけど?


⦅おかしいですね。私の計算では、まだ対応出来るはずなのですが?⦆


 セミナスさんの判断が恐ろしい。

 でも、セミナスさんがそう言うのなら、きっと対応出来るんだろう。

 となると、足りないのは……俺の覚悟的な?

 頭の中で、まだ前の感覚で判断しているのかもしれない。


⦅ですが、このままでは少々不味いのは事実。スタミナが先に切れるのはマスターの方ですので、何かしらの手段を講じなければいけません⦆


 目、閉じる?


⦅それでも良いですが、それではマスターの成長に繋がりません。マスターの攻撃下手もどうにかしなければ……出来る未来は未だ見えていませんが⦆


 それってもう駄目って事じゃない?

 希望が潰えた感じなんだけど。


⦅……ファイト!⦆


 応援された!

 でも動きをとめる訳にはいかない。

 ウルアくんの攻勢はまだまだ続いていて、攻撃速度は上がっていく。


 もうついていけない……と思ったのだが、俺の体はまだまだ反応していた。

 ちゃんとセミナスさんの指示通りに対応しているし、俺の思った通りに動いてくれる。

 セミナスさんの言う通り、限界はまだまだ先のようだ。

 スタミナは危険領域だけど。


 これが攻撃方面にも転化できれば良いんだけど、いざ攻撃に移ろうとすると、足がもつれそうになったり、バランスを崩しそうになったりと、相変わらず駄目駄目だ。

 本格的に向いていないと、わからされてしまう。

 回避防御はこんなに上手く出来るのに。


「一つ尋ねても良いですか?」

「なんでもどうぞ」


 ウルアくんが攻撃を繰り出しながら聞いてくる。


「もしかしてですけど、意識しての攻撃が苦手ですか? だから前の試合は、目を閉じてから攻撃を行った?」


 ギックーン!

 ちょ、セミナスさん。なんかいきなりもう把握されているんですけど!


⦅なるほど。戦う事で相手から多くの情報を得る事が出来る者が居ると、知識の中にあります。これが河川敷での決闘から始まる友情、というモノでしょうか?⦆


 違うと思う。

 そもそも、ここ河川敷じゃないし。

 そういう、あとで仲良くなるような理由でやり合っている訳じゃないし。


 でも、こうしてやり合っているからこそわかる事がある。

 ウルアくんは、どこか確信を持って尋ねているようだ。

 誤魔化しはきかないと判断して、正直に答える。


「あぁ、その通りだよ、ウルアくん」

「やっぱり」


 そう言って、ウルアくんが俺から距離を取った。

 あとを追うような事はしない。

 すぅ~……はぁ~……漸く一息吐けた。


 ウルアくんも一息吐いている。

 ただその目は、変わらず俺をロックオンしているけど……なんだろう。

 キラキラしているように見える。


「凄いですね! アキミチさん!」

「えーと、何が?」


 なんかウルアくんから凄いと言われるような事をしただろうか?


「僕は攻撃こそ全て、と教わりました。相手に攻撃の隙を与えるな。一撃必殺を目指せ、と。でも、アキミチさんは僕の逆。防御が主体です」


 まぁ、それしか出来ないからね。


「なのに、ここにこうして僕の前に立っている。フェウル姉上も倒して。それは凄い事です! 僕には到底出来ません!」


 うん。正確には俺一人の力じゃないから、そう言われるのはなんかちょっと……申し訳ない。

 でも、ウルアくんのキラキラした目を前にして……本当の事は言いづらい。


⦅言う必要はありません。そもそも私はマスターのスキルの一つですので、マスターの力と言っても差し支えは一切ありません⦆


 いやぁ……でも俺にとっては、セミナスさんは独立した一人の女性だから。


⦅なるほど。つまり、一人の魅力的な女性として意識している事と同義ですね⦆


 言葉の解釈に齟齬があるような気がする。

 でもそれはあと。

 今はウルアくんに集中だ。


「それに、僕……ワクワクしてきました! 僕の攻撃をこんなに防ぐ人は初めてです!」

「ははは」


 乾いた笑いしか出て来ない。

 ウルアくんの喜ぶ姿を見て、何やら本能が危機感を訴え出している。

 それになんだろう……ウルアくんの笑み。

 見ているだけで、どこかのエルフさんの戦いたい欲求が刺激されている時の笑みを思い出してくる。


⦅……あっ!⦆


 今の「あっ!」は何?

 絶対よくない事だよね?


⦅……どうやら、今こうして話している間も成長しているようです。恐ろしいまでの才能の塊ですね⦆


 え~と、それって俺の事じゃないよね?


⦅残念ですが……未来が変わりました。これまで私が予測していたモノは一切役に立たなくなり、再度予測した結果は……⦆


 ……いやいや、ここまでこれただけでも大したモノだよ。


⦅やはり素晴らしいですね。少年少女の思いというのは。未来すら変えてしまう力があります⦆


 うん。良い事言った風で綺麗に纏めようとしているよね?


「だから、もっと僕を楽しませて下さい!」


 ウルアくんが楽しそうに襲いかかってきた。

 俺も対抗しようと頑張るが、先ほどまでとは全体的な力が明らかに違う。

 力も強くなっていて、動きも素早くなり、なんか圧力も増しているような……。


 そんなウルアくんにまともに対応出来たのは、僅かな時間だけだった。

 直ぐに対応出来なくなり、次第に受けて積み重なっていくダメージに体の動きが鈍くなっていく。

 これは不味いと目を閉じて攻勢にも出てみるが、全て読まれているかのように通じず、逆にカウンターを食らう始末だ。


 セミナスさんの指示が悪いんじゃなく、今の俺では反応出来ない感じ。

 最後は数度やり合ったあとに投げ飛ばされ、ダメージを負っている状態では上手く受け身をとる事が出来ず、もろにダメージを受けてダウンする。

 そこで俺は自分の負けを宣言した。


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