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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第六章 獣人の国
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これが獣人の身体能力か!

 食堂に向かうと、ウルアくんが居た。


「あれ? どうしてここに? 王族は別に専用の食事場があると思うんだけど?」

「はい。もちろんありますが、今日こちらに来たのは、アキミチさんが来るのを待っていたからです」


 ウルアくんがハツラツとそう言う。


「俺を待っていたの?」

「はい」

「本選の前の本選ですか? エイトは見学を希望します」


 エイトが興奮気味に割って入ってきた。

 ……いや、何を考えて……違う。

 答えなくて良い。

 今気にするべきなのは、ウルアさんの方だ。


「それで、俺に何か用が?」

「昨日は話せませんでしたけれど、あの女性の方は大丈夫ですか? 敗北した事をかなり気に病んでいたようですが」

「あぁ……多分もう持ち直したと思う」

「それはよかったです。本来の強さが発揮されていれば、勝利していたのはあの女性の方でしたでしょうし」


 俺もそう思う。


「それを確認しに?」

「それは建前で、本来はお願いです」

「お願い?」

「はい。姉の時と同じように、僕にも本気で当たって欲しいとお願いしに来ました」


 ………………。

 あぁ、そっかそっか。

 今日対戦するのは、ウルアくんか。

 ……不安。


⦅問題ありません。本気で受けて立つと答えて下さい⦆


「わかった。もちろん、本気で受けて立つよ。約束だ」

「はい。約束です。宜しくお願いします」


 ウルアくんが満面の笑みで答える。

 幼さがある故の無垢さというか、きっと一部の人たちには破壊力抜群の笑みだっただろう。

 その笑みの理由が戦闘系に関する辺り、ウルアくんも戦う事が好きなのかもしれない。


⦅幼い少年に対して受けて立つと言ったマスターが、本当に受け、て……⦆


 ブルッと悪寒。

 何やら変な視線で見られているような感覚。

 周囲を確認すると、少し離れた位置でこちらの様子を窺っているメイドさんたちが居た。

 しかも、何やら興奮しているご様子。


 ………………。

 よし、見つけなかった事にしよう。

 そのあとは、ウルアくんと一緒にご飯を食べた。


「普段とは違うメニューですけど、こっちも美味しいです!」


 喜んで食べているウルアくんに、別の料理が盛り付けられた皿を渡す。

 ……何故だろう。餌付けしている気分。

 あと、メイドさんたち。

 ヒソヒソ話すのなら、見えないところでやって。


     ◇


 部屋に戻ると、ワンは寝たまま。当然。

 そろそろ出発なのだが……どうしようかな。

 残り時間から考えると、連れて行っても武闘会の間は起きないと思う。

 今日、二試合しかないし。


 ………………。

 ………………。


「連れて行くか」


 何かの拍子で不意に目覚める可能性がない、とは言い切れないし、もし起きた時のために誰か傍に居た方が良いだろうし。

 問題は、誰が……というかどっちがおんぶするのかだ。

 視線を向ければ、エイトと目が合う。


「……エイトがおんぶする?」

「良いのですか? 今なら自然に姉と肉体的接触が行えますが?」

「その言い方はやめて」

「ですが……」

「なんでそんな、前々からそれを狙っていましたよね? みたいな表情で俺を見るんだ?」


 これまで一切考えた事がありません。

 でもちょっと待って。

 そもそも、ワンの胸はサラシできつく巻かれているから、その状態で弾力は感じないんじゃないだろうか?


 それとも、それでも弾力を感じるとでも?


「……なるほど。ご主人様の意図を理解しました」


 全く考えていないけど、どんな意図を?


「これは、姉の豊満な胸を体感させる事で、エイトもここまで育てよとの暗喩で合っていますか? カテゴリー『ロリ巨乳BBA』を目指せと? その辺りはエイトを造った神々に聞いてみないと育つかどうか……」

「いや、俺がおんぶするわ」


 そこまで飛躍するような事だったっけ?


「即否定。つまり、エイトはこのままで良いという事ですね」


 やったー! とエイトがバンザイ。

 いや、それはそれで……と思うが、どこか嬉しそうなエイトの姿を見て、まぁそれでも別に良いか、と思った。


「つまり、ご主人様の性癖は『ロリBBA』という事ですね」

「違うわっ!」


 やっぱり全然よくなかった。


 ワンをおんぶして……うわっ。胸だけじゃなく全身の柔らかさを感じて……って違う違う。無心無心……そのまま闘技場に向かう。

 移動は当然馬車。

 でも、さすがに闘技場敷地内は徒歩だ。

 ワンをおんぶして、まずは貴賓席に……問題発生。


 貴賓席入口に、ワンが手を出したと思われる、羊の女性獣人さん、兎の女性獣人さん、鳥の女性獣人さんの三人が待ち構えていた。

 目的は明白だけど、一人は受付だったはずなのに、ここに居て良いのだろうか?

 誰かと交代して貰ったのかな?


 いや、そんな事を考える前に、今はこの場から逃げないといけない気がする。

 これは退却ではない。

 撤退でもない。

 貴賓席以外で試合が見たくなっただけだ。


 なので、逃走を……あっ、見つかってしまった。

 全力ダッ、回り込まれただと!

 羊の女性獣人さんが立ち塞がった。

 これが獣人の身体能力か!


 なら左……は、兎の女性獣人さんが居る。

 右……も、鳥の女性獣人さんが居る。

 しかも、少し後方に陣取っているので、俺を取り囲んで逃がさないような位置だ。


 か、狩られる?

 くっ。ワンをおんぶしていなければ。

 ……いや、そもそもワンが原因か。

 エイトに助力を……ワクワクしながら見ているんじゃない!


「……それで、どうしてそうなっているのかの理由は教えて頂けるのでしょうか?」


 羊の女性獣人さんの問いかける笑顔が怖い。

 そしてその表情から察せられる、逃走と嘘は許さないという意思の強さ。

 俺は正直に教えた。


 ………………。

 ………………。


「くっ。これが主としての、いえ、正妻の力とでもいうのか」

「心で繋がっている強固な絆を感じさせてくれる」

「認めるしかないようね……二人の間にある愛を」


 う~ん……なんか色々と誤解しているような……。

 でも、なんか納得してくれたようで解放された。


 とりあえず、アレだな。

 あとでワンが起きたら、色々とお話をした方が良いかもしれない。


 これでよかったのかはわからないけど、とりあえず貴賓席に行って、用意されている俺の席にワンを寝かせる。

 どうせ直ぐ俺の出番になるだろうし。


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