深夜のテンションで行う事は、大抵あとで後悔する
………………目が覚める。
えっと……いつの間に寝ていたんだ、俺は。
確か昨日は……そう。ワンが落ち込んでいて、寝落ちするまで話していたんだった。
話している間に寝てしまうとは……。
あれ? 気付けば、毛布と布団がかけられている。
自分でやった覚えはないから、エイトかワンのどちらかだろう。
……毛布がエイトで布団がワン、か毛布がワンで布団がエイトか。
………………。
………………。
念のため……そう念のために自分の上から下を確認。
……うん。衣服の乱れはなさそうだ。
ホッと安堵する。
もちろん、眠っている間にとか、そんな事はしないと信じてはいたけど、それとこれとは別。
……でも、深い眠りだったらもしかして気付かない……いや、考えないようにしよう。
なんて事を考えつつ周囲を窺うと……ベッド脇に立っているエイトと目が合った。
「………………えっと、おはよう」
「おはようございます。ご主人様」
起きたのがバレたので、普通に身を起こす。
エイトが居る事はわかっていた。
今回に限っては寝ている間に侵入されたのではなく、昨日から居るのがわかっていたからだ。
何しろ、寝る直前まで話していた訳だし。
「ご主人様が何も言いません。つまり、エイトと同室でも構わないと認めた事と同義であると、判断します。エイトが勝利した瞬間です」
やったー! と両腕を上げるエイト。
いや、一体なんの勝負よ。
あと、別に認めた訳じゃないから。今回は特例。
きちんと施錠はするので、出来れば普段は自分の部屋を利用するように。
折角用意してくれているんだから。
「というか、あれ? エイトだけ? ワンは?」
エイトが指し示したのは確認していなかった俺の後方。
視線を向ければ、ワンがすやすやと眠っていた。
う~ん……この構図は不味い気がするが、見ているのはエイトだけだし大丈夫なはず。
でも、覚えている範囲の中でワンは起きていたから、俺が寝たあとにワンが寝たのは間違いない。
つまり、俺が寝ている間に起こった事だから、不可抗力というヤツでどうか一つ。
「……ところで、今何時?」
ワンが寝ているので、小声で聞いてみる。
これでもし武闘会が遅刻の不戦敗になったら……なんとも言えない。
いや、その場合は、そうなる前に起こされるか。
「ご主人様のいつもの起床時間より少々早いくらいです」
エイトの答えに安堵。
それなら問題はない。
寧ろ問題なのは――。
「で、エイトはずっと起きていたと?」
「はい。今のエイトに睡眠はまだ必要ありませんので」
「念のために聞くけど、起きて何をしていたの?」
「ご主人様の愛らしい寝顔を眺めている間に、今に至ります」
本を読むとか、そういう事に時間を使えば良いと思うんだけど……。
一応言ってみるか。
「俺の寝顔じゃなくて、本と読むとかしないの?」
「知識は既に充分備わっています」
あぁ、ろくでもない神々によるろくでもない知識がな。
もう少し一般常識の知識をどうにか増やせなかったのだろうか?
いや、それは今だからであって、エイトを造った時は常識も今とは違った……って思うかい!
「……もう少し別の事に意識を向けてみるとか?」
「そういう事でしたら、ご主人様にお願いがあります」
「何?」
本を用意するとか、暇潰しグッズを開発して欲しいとかかな?
まぁ、それぐらいならちゃんと用意するけ――。
「寝言で『……エイト』と艶めかしく呟いて頂けますか? それだけで妄想が捗って高まります」
「高まらせる必要は一切ない!」
それに、狙って寝言が呟けるかぁ!
とりあえず、両腕をクロスさせて、大きなバツ印を作って意思表示。
エイトが意気消沈するかと思いきや、耳元で囁き続ければ……ブツブツと呟いている。
危険な悪寒。
そういう企みは聞こえないところでしろぉ~!
知らずに寝ていたらノーカウントだ。
違う。そうじゃない。
そもそも部屋に侵入するのをやめて下さい。
このまま話しているとそのまま出発時間になりそうなので、先に朝食を頂く事にした。
この一日を乗り切るためのエネルギー摂取を。
でもその前に、昨日の様子からワンをここに放っておく訳にはいかない。
スッキリした表情で寝ているけど。
ワンが望むなら一緒に行動した方が良いと思う。
エイトも居るし。
なので、起こそうと思ったところで気付く。
あれ? もしかしてワンも? とエイトに視線で確認。
「こちらをご覧下さい」
そう言ったエイトから、一枚の紙が手渡される。
紙にはこう書かれていた。
「ワンの自然起床まで あと『12:53:07』。
強制起床を選択する方は主によるそれだけで相手を駄目にするような濃厚なKISSが必要。
また、持ち運ぶ際はおんぶ推奨。
豊満な胸の感触を心行くまでお楽しみ下さい」
と。
………………。
………………。
より具体的な内容になっているな。
まず、普通に起きるまでの時間が長過ぎない?
エイトの倍近くあるのは、そういう仕様なのか、それともエイトよりも長く起きていた事によるしわ寄せなのか……判断出来ない。
それに、おんぶかぁ……。
いや、エイトのお姫様抱っこに比べれば、別にやっても良いという感じだけど……これはこれで色々言われそうだ。
あと、多分というか俺の予想だけど、おんぶとかキスのくだりは、俺が寝たあとにエイトとワンが考えた内容なんじゃないかと思う。
寝てないテンションで書いたような感じがする。
これ、あとでワンが見たら、赤面して破り捨てるんじゃないだろうか?
……そんな感じの性格じゃないけど、こういう事には照れる……みたいな?
駄目だ。俺も思考がおかしい。
何か食べないと頭が回らない。
ワンは出発する時に連れていくとして、今は食堂に行こう。
「朝食を」
「かしこまりました。こちらにご用意します」
「いや、食堂に行くから。……ちょっと待って。なんで何も聞かずにここに用意しようと?」
そう尋ねると、エイトが不思議だとでもいうように首を傾げる。
「てっきり、姉の寝顔を見ながら、これでご飯五杯はかたい! と姉の寝顔を見ながら朝食を取るものだと」
それだと、とんだ変態じゃないか、俺。
エイトの中の俺は、そんな事をするの?
「いや、取りません」
「そうなのですか? エイトが寝ていた時もしたモノだとばかりに……」
「いや、ここに寝かせたまま、ご飯食べに行ったけど」
「ハッ! エイトだけにしたという事は、エイトは特別だという証に!」
「いや、だからしてないって!」
聞けよ。
……しかし、ワンは綺麗な姿勢で寝ているな。
普通、こういうキャラはもっとこう、がさつというか、色々暴れて服がはだける……みたいなモノだと思っていた。
そこで喉が渇きを訴えてきたので、とりあえずこの場しのぎで唾を飲み込む。
「今、姉の胸辺りを見て唾をのみ込みましたね?」
「見てません! こう、全体的に……全体を捉えるように見ていました」
「つまり、上から下まで舐めるように見ていたと?」
「そんな風に見ていません」
このままでは本当に話している間に時間が来そうなので、勝手に向かう事にした。
「お供しますので、お姫様抱っこで連れて行って下さい」
「起きているんだから自分で歩きなさい」
エイトと連れ立って食堂に向かった。




