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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第六章 獣人の国
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侮っている訳じゃなく、これが俺の戦い方

 目を閉じれば、当然真っ暗。

 セミナスさんの事は信じているけど、それと怖さは別だ。

 開けたくなるけど我慢するのがつらい。


「……それは、どういう意味ですか?」


 フェウルさんの声が聞こえる。

 ただ、どことなく怒気が含まれているような気がするのは、きっと気のせいじゃない。


「どういうとは?」

「ウチを前にして、目を閉じた行為の事です。甘い雰囲気の中での事なら口付けを求める行為として認識する事は出来ます。ですが、今この場に流れているのはそんな甘い雰囲気ではないです。……え? まさか、それでもウチの口付けを求めて?」

「違う違う」


 一瞬、甘い空気が流れたような気がした。

 いやいや、そんなまさか。

 今は戦闘中なんだから、そんな雰囲気が流れる訳がない。


「こほんっ」


 咳払いが聞こえる。

 誰かが気持ちを切り替えたようだ。

 ……誰とは言わない。


「改めて聞きますが、目を閉じる行為の意味がわかりません。先ほどまでの回避行動を見る限り、アキミチ殿は攻撃を見てから回避する方が多い。直感で回避するような行動の方が稀でした」


 まぁ、セミナスさんのおかげで攻撃が来るとわかっているし、視線を向けるだけの余裕があるのは確か。

 そてと、直感で避けているように見えるのは、セミナスさんの指示に反射的に動いた時の事かな?

 ……そう見えなくもない?


「なのに目を閉じるとは……もしかして降参のつもりですか? それとも、目を閉じた状態でもウチに勝てるという余裕?」


 どちらも一切そんな気はないんだけど。

 でも、フェウルさんの立場で考えてみる。

 相手が突然目を閉じたら。


 ………………。

 ………………。

 おぉ、確かに煽っているように見えるし、そう感じても仕方ないかもしれない。


「ウチを侮っていますか?」


 ピリリとした空気が流れて痛い気がする。

 でも、フェウルさんの考えは誤解だ。

 その誤解を解く。


「いや、寧ろ逆。こうしないと勝てないから、こうしているだけ」

「意味がわかりません」

「だろうね」


 俺もこんな特性持ちだとは思わなかった。


「だったら、試してみればわかるさ」


 そう言うと、フェウルさんから少し動いたような音が聞こえた。

 多分、身構えたんだと思う。

 ……アレだね。目を閉じると、他の感覚が鋭敏になったような……。


⦅後方に軽く跳び、上体を左、右と振って、もう一度後方に今度は大きく跳んで下さい⦆


 セミナスさんの指示通りに動く。

 行動を起こすたびに、ブオンブオンと風切り音が聞こえてくるのが怖い。

 最後まで動き終わったあと、ふと思った。


 指示がこれまでよりも具体的になっているのは、俺が目を閉じている分、より正確に動く必要が出たからだろう。

 それはまぁ、そうする必要があるって事なのはわかる。

 でもそれより気になるのは、今、俺って……正しくフェウルさんと対峙しているのだろうか?


 たとえばだけど、フェウルさんに対して横向きになっていないだろうか?

 もしそういう構図なら、間抜け以外の何ものでもない。

 そこが不安。


⦅大丈夫です。きちんと対峙しています⦆


 よかった。

 心休まる報告をありがとう。

 ……まぁ、戦闘中なのは変わらないので、心を休ませる訳にはいかないけど。


「まさか本当に目を閉じたままで避ける事が出来るなんて、どうやってウチの動きを見て……いえ、把握しているのですか」


 いや、俺自身が把握している訳じゃないので、どうやってかを尋ねられると困るんだけど。

 セミナスさんの事を言う訳にもいかないし、こう答えるしかない。


「秘密です」

「まぁ、そう簡単に教える訳ないですね」


 フェウルさんが動いた気がする。


⦅正解です。そして、これから攻勢に出ます⦆


 了解。

 俺も身構える。


⦅腕立てをするように倒れ、直後にダンスをするように両足を左回転で前に⦆


 倒れると頭上から風切り音が聞こえ、上手く踊れたかどうかはわからないけど両足を左回転で前に出そうとすると、途中で何かに当たる感触があり、直ぐ傍に何かが倒れる音がした。

 目を開けて確認したい。


⦅まだです。足を振り上げて⦆


 振り上げると膝に何かが当たる。

 硬いモノにぶつかった衝撃が……あれ? 冷たい鉄の感触がって鉄扇じゃない? これ?

 それでもあまり痛みを感じなかったのは、フェウルさんの体勢が不十分だから?


⦅次は左手を前に、右腕を構え……⦆


 セミナスさんの指示通りに動くが、そのたびに痛みが走る。

 多分だけど、お互いに体勢が不十分なままでやり合っているんだと思う。

 だから、フェウルさんの鉄扇も充分な威力が発揮出来ていないと推測は出来るが、それでもかなり痛い。


 多分、目を開けると涙目になっていると思う。

 それに、当たったところは内出血するか、腫れそうな気がする。


⦅回復薬で緩和出来ますので、安心してそのまま打たれ続けて下さい⦆


 くっ。これだから異世界は。

 良い事だけど、今は地味につらい。


⦅その場で左回転、両足を前に突き出す⦆


 両足が何か硬いモノを蹴り飛ばした。


⦅鉄扇ごと狐姫を蹴り飛ばしました⦆


 おぅ。言葉だけ聞くと、ちょっと酷い感じがする。


⦅鉄扇で防いでいるので、大したダメージにはなっていません。気にせず立ち上がって身構えて下さい⦆


 バッ! と立ち上がって身構える。


⦅左に17度修正⦆


 おっと。修正しないと。

 見当違いの位置を向いていたようで恥ずかしい。

「……本当に目を閉じて見えていないんですよね?」

「当然。一回も目を開けてなかったでしょ?」

「確かにそうですけど……ウチの攻撃を防ぐのが全て的確というのが納得出来ません。なので、ウチが勝ったあとで、どうすればそんな事が出来るのかを教えて貰います」


 フェウルさんが俺に向かって襲いかかって来ているような気がする。

 えっと、どうすれば?


⦅合図と共に窓を拭くようにして左右の腕を前に……右腕、左腕⦆


 順序通りに動かすと、それぞれ腕で鉄扇を払って軌道を逸らしたような感触。


⦅そのまま腕を回して、掴む⦆


 フェウルさんの両腕を掴んだ気がする。

 ほっそっ!


⦅ぐるっと回って掴んだまま投げ倒し⦆


 フェウルさんを舞台に叩き付けるような感触が伝わる。


⦅そのまま舞台に向かって拳を振り下ろし……ストップ! 目を開けて下さい⦆


 合図と共にピタッととめる。

 そっと目を開けば、倒れているフェウルさんとバッチリ目が合った。

 体勢としては、倒れているフェウルさんの眼前に俺の拳がとまっている感じ。

 フェウルさんは驚いたように目を見開いたまま固まっている。


「あーっと……俺の勝ち?」

「……そうです。ウチの攻撃は全て通じず、アキミチ殿の攻撃がとまらなければ、ウチは致命的な傷を負っていました。どう考えてもウチの負けです」

「でもその、なんというか……こういう場合って、死に物狂いの抵抗とか普通はするんじゃ?」

「ふふ……アキミチ殿。これは『武闘会』。殺し合いではなく、己の強さを確認するための場です。相手がかなわないと認めたのですから、素直に受け取って下さい」


 フェウルさんが笑みを浮かべる。

 ……う~ん。鉄扇を防いだところが痛いので、どちらかと言えば傷付いているのは俺の方だけど、どうやら勝ったようだ。


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