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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第六章 獣人の国
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どっちが良いじゃなく、どっちも同じって事?

 今日行われる本選が終わり、観客席から席を立って帰ろうとしている人たちがちらほら見える。

 今出ると混みそうなので、一度貴賓席に戻る事にした。

 エイトも迎えに行かないといけないだろうし。


 貴賓席に戻ると、拍手で出迎えられる。

 どうやら、俺の勝利を称えているようだ。

 どうも! どうも!


⦅もう少し笑顔で⦆


 ニカッと。


⦅ぎこちないのでやめましょう。控えている各獣人メイドが引いています⦆


 やれって言ったのはセミナスさんだと思うけど?

 引いているとか、的確に心を抉られる言葉のチョイスはやめようか。


⦅生で見てみたかっただけです⦆


 リアルタイムで観る事が大事っていう感じかな?

 でも、正直に言い過ぎじゃない?

 いやまぁ、セミナスさんはいつも正直だけど。


⦅はい。マスターに対して嘘を吐いた覚えはありません⦆


 まぁ、話せるのも俺だけだけどね。

 そんなやり取りをしつつ、一休みしようと自分の席に向かう。

 エイトが両腕を広げて待ち構えていた。


 なるほど。まだ休めないようだ。


「……起きたのね?」

「ご覧の通り」


 いや、ご覧の通りと言われても、ついさっき起きた人の姿勢じゃない事だけはわかる。


「いつ起きたの?」

「ご主人様の試合が始まる前。白熊の咆哮でマスターが何かを悟ったかのような表情を浮かべた時です」


 こらこら、そこはせめて「白熊さん」と言いなさい。

 いや、それだけでも獣人じゃなくて動物になってしまうから、名前で呼ぼうか。

 ……名前、憶えてないけど。

 て、違う。


 え? 俺、そんな表情だったの?

 自分ではわからん。


「それで、どうして両腕を広げているんだ? まるで何かを待ち構えているように見えるけど?」

「勝利したご主人様を待ち構えていました。何やら神経を消耗しているように見えましたので、エイトの体を存分に揉ませる事で癒して頂こうかと」


 いや、言い方!

 周囲のメイドさんたちが控える事をやめて、ヒソヒソ言い出したから言い直して!

 せめてそこは、抱き締めてじゃないの?

 いや、それでも抱き締めないけどね。


 宰相さんも、ヒューヒューって言わない!

 しかも口笛じゃなくて言葉って不器用か!

 誰か真似したらどうするの?


「ヒューヒュー」


 ほら、ロイルさんが真似しちゃったでしょ!

 一国の王様にさせた責任を取れ、と目で抗議だけはしておく。


 ただ、このままでは休めないので強引な行動に移る。

 ほらほら、俺は疲れているから解散! とエイトの脇を持って持ち上げ、横にずらして下ろす。

 俺はそのまま席に座って一息。


「ご主人様。エイトの移動はお姫様抱っこでお願いします。強制起床ではなかった以上、ここに来るまでそうして運んだと思いますが?」

「休ませてくれないかな!」


 もう眠っているエイトを懐かしく思う。

 まぁ、黙っているエイトというのも、それはそれでなんか違うと思ってしまう辺り、もう駄目かもしれない。


「ご主人様を休ませたい気持ちはあります。ですが、エイトは気が逸っているのです」

「……なんで?」

「起床してから、エイトはとある情報提供者から聞いたのです。エイトが眠っている間、優しい表情で見ていたと」


 そこは別に伏せなくても良い。

 その情報提供者って、そこの宰相さんでしょ?

 だって、なんかやりきった表情を浮かべて、俺に向けて親指を立てているし。

 ……しまった。口止めを先にしておくべきだったか。


「きっと、ご主人様は色々悩んだはずです」

「悩む? 色々? 何を?」

「まず、エイトの寝顔が余りにも天使過ぎたために、強制起床させるのは可哀想、もしくは、起こさずにずっと見ていたい……でも、このままだと試合が……いや、しかし……と、エイトが寝ていたベッドの周囲をぐるぐる回り続けていたはずです」


 ……いや、そこら辺は一切考えなかったな。

 あと、全然回っていないよ。


「それと、強制起床を行うかどうかを考えた際、ひゃっほー! 合法的にキス出来るぜ! と喜んだはず」


 ひゃっほー、なんて言っていないよ。


⦅それだと、喜んでいた事を否定していませんが?⦆


 あっ! 喜んでもいません、というか、そういう事をまず考えていませんけど?


「あと、条件はキスだけですので、どこにキスをするかも悩んだはず」


 ……え? 口付けって意味じゃないの?


「額、目、鼻、頬、耳、首、体中の至るところ……どこで目覚めるのかを検証するという名目で確認したはず」


 してません。


「ですが、エイトの強制起床を行える箇所は、唇。口付け。ご主人様もそれをわかっているからこそ、最後に回したに違いありません」


 回していないし、そもそもしていないんだけど?


「そこでご主人様は悩んだはずです。舌を入れるかどうかを」


 悩んでないから。

 宰相さん。なるほど、と頷かないように。


「ロードレイル様も王妃となる方を三人も娶るのですから、アキミチ殿を見習って、あれくらいの積極性を持って頂きたいですね」

「むぅ」


 確かにロイルさんはもう少し積極性を持った方が良いかもしれないけど、それとこれとは別問題だと思う。

 でもそこを追及する前に、エイトの誤解を解かないといけない。


 結果。エイトの誤解が解けた頃に、闘技場から出る事になった。

 ……ちっとも休めた気がしない。

 体力的にじゃなく、精神的に。

 ちょいちょい横槍を入れてくる宰相さんが厄介だった。


 闘技場を出てから、王城に戻る。

 その過程で思った。

 そういえば、獣人国の王都を観光してない。

 見て回りたいけど、今は武闘会でそれどころではないから、終わったらかな。


⦅国によって装飾が違うモノ。是非、貴金属店へ⦆

「ご主人様。武闘会が終われば王都観光しましょう。意匠が気になりますので、貴金属店に行く事を推奨します」

「行きません!」


 どうしてこういう時に限って、二人揃って同じ事を提案してくるのか……。


「なんだったら、何か月分かのお小遣いをやろうか?」

「大丈夫です」


 アドルさんの提案を断る。

 あったらあったで、更に購入させようとしてくるだろうし。

 せめてそういう提案は、誰も聞いていないところで秘密裏にお願いします。


「余も三人の妃のために用意しなければならないし、共に行こうか?」

「だから行きません」


 ロイルさんの提案を断る。

 いや、ロイルさんと選びに行くだけなら別に良いけど、絶対それで終わらないだろうから、ちょっと難しいんだよね。

 だから、そう落ち込まないで。


「なんでしたら、ロードレイル様の分と合わせて、アキミチ殿のもご一緒しますか?」

「いえ、結構です!」


 強めに否定。

 更に金額を上げてどうするつもり? 宰相さん。


 周囲の追撃を回避している間に、王城に着く。

 身体的な疲れは癒えたけど、精神的には更に疲れた。

 なので、ご飯を頂いたら、さっさと風呂に入って寝るとしよう。


 と思ったご飯を頂いたあと、フェウルさんから一言伝えられる。


「明日、楽しみにしていますね」


 明日? 何が? とそこで気付く。

 本選がトーナメントである以上、俺が次に当たるのは、第七試合の勝者。

 つまり、第七試合を勝利したフェウルさんという事になる。

 ……おぅ。


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