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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第六章 獣人の国
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要は、会心の一撃を繰り出したって事だと思う

 控室で軽く準備運動。

 ……えっと、予め聞いておくんですけど、勝つつもりなんですよね?


⦅当然です。そもそも、負けるために戦うつもりは一切ありません⦆


 ですよね。

 セミナスさんはやる気満々だ。

 確かこれから戦うのは、白熊の男性獣人さんである。


 ……人が白熊に勝てるとは思えないんですけど?


⦅安心して下さい。実際に白熊と戦う訳ではありません。相手もマスターと同じ人です。獣としての特性もある、というだけです⦆


 そうかもしれないけど、俺にまともな武器はないんだよ?


⦅あっ、無手で挑まないようにお願いします。アイテム袋にある盾を持っていって下さい⦆


 わかりました。

 えっと、どの盾かな?


⦅小振りの軽い盾を二つでお願いします⦆


 二つ? 両手で持てば良いのかな?

 盾自体は、アイテム袋の中に買ったのとか、元々アドルさんたちが用意してくれていたのを入れているけど、二つも丁度良いのがあるかな?

 いや、セミナスさんがそうお願いするって事は、入っているはず。


 ……あった。

 小振りの小さな丸盾が二つ。

 手に持つタイプで、似たデザインだから違和感はないかな。

 それを両手に持つ。


 ………………なんか馬鹿っぽくない?


⦅いいえ⦆


 即座に否定されるのは、それはそれで疑いを持ってしまう。

 というか、武器は持たなくて良いの?

 護身用程度のなら入っていると思うけど?


⦅相手を一撃で仕留める毒塗りナイフや、痺れ薬を塗られた針、相手の首を瞬時に切断出来る鋼糸などが入っているのでしたら、持って頂いた方が安全ですが?⦆


 どうやら正統派の戦いは出来なさそうだ。

 俺に向いているのは暗殺って事を伝えようとしているのかもしれない。

 確かに、セミナスさんの能力って暗殺に向いている、と言えなくもないか。

 特に罠に向いていると思う。


 どこにどう仕込んでおけば、いつ誰が引っかかるかを狙って……いや、違う。

 そもそもそんな武器を持っていないし、持ちたくも……まぁ、あって困るようなモノではないか。

 取り扱いはかなり注意しないといけないけど。


 と、そこで呼ばれる。

 準備が出来たようだ。

 案内されるまま進み、舞台上に立つ。

 対戦相手である白熊の男性獣人さんが、威嚇するように俺を見ていた。


 鉄製だと思われる棍棒を持っている。

 棘付きじゃないのは、相手を殺さないためかな?

 ……怖っ!


⦅どうやら目の前の相手はやる気に満ちていますね。本人の気質による部分もあるでしょうが⦆


 そのやる気は、頑張ろうって意味のやる気であって、相手を殺そうっていう殺る気じゃないよね?

 まぁ、武闘会だからこそのやる気なんだろ……気質?


「さぁ! 本日最後の試合! 苛烈な攻撃によって重体者続出! その力と才能は本物だ! 白熊の獣人! ホゾベア!」

「ウオオオオオッ!」


 咆哮を上げる白熊の男性獣人さん。

 いやちょっと待って。

 重体者続出って何? そんな事聞いた覚えがないんだけど?


⦅マスターが知らないのも無理はありません。目の前に居るのは、予選第七ブロックを突破した者です⦆


 俺の前って事は……そっか。準備していたから見る事が出来なかったヤツか。

 ……あれ? もしかして、俺危険じゃない?


⦅死ぬ事はありません⦆


 うん。ルール上で禁止されているからね。

 向こうもそれはわかっているだろうから、重体者が続出だったんでしょ?

 下手をすると、これから死ぬほど痛い目に遭う可能性があるって事だよね?


⦅その可能性は――⦆

「次いで、数人居る予選無傷突破者の一人! しかも、獣人ではなく人種族! アキミチー!」

⦅――です⦆


 ちょっと待って!

 今、重要な部分が聞き取れなかった!

 解説実況のタイミングが悪い!


「では、始めっ!」


 舞台袖に居る審判っぽい人が、そう宣言する。

 待って! まだ俺の心の準備が出来ていないから!

 そっちもタイミングが悪い!


「ウオオオオオッ! 死ねぇ!」


 そう叫びながら襲いかかってくる白熊の男性獣人さん。

 いや、殺しちゃ駄目でしょ?

 今のはアレだよね? 実際に殺すつもりじゃなくて、そういう意気込みって事を言いたかっただけだよね?

 ……それはそれで怖いけど。


⦅呆けている場合ではありません。回避行動を⦆


 はっ! そうだった!

 セミナスさんに言われた通り、回避行動を取る。

 幸いにしてと言うべきか、振るわれる棍棒の速度は避けられないモノではなかったため、なんとか避ける事が出来た。


⦅スキルのおかげです⦆


 なるほど。

 言われてみれば、スキルがない状態だと当たっていた、もしくはかすっていたかもしれない。

 でも、今重要なのは回避出来るという事である。

 俺が避けると思っていなかったのか、白熊の男性獣人さんが更に速く、何度も棍棒を振ってくるが、なんとか回避し続けた。


 両手の丸盾も上手く使い、棍棒の軌道を逸らす事で攻撃を一切当てさせない。

 けれど、どう考えても不利なのは俺。

 回避するだけでも神経は使うし、多分だけど、根本的な体力が違うと思う。

 具体的に言えば、最初の激戦であるミノタウロス戦を休みなしでやり合うようなモノ。


⦅マスターの体力を私が把握していないとでも? もちろん、その辺りも考慮した上での指示ですので安心して下さい⦆


 わぁ、それは安心だぁ……とはならないよ!

 今も豪速とでも表現出来るような速度で棍棒が振られているんだから!

 怖くて仕方ないので、出来れば早期決着をお願いします!


⦅ファイト!⦆


 うん。応援は嬉しいけど、俺が今希望しているのはそうじゃない。


⦅ですが、今は避け続ける時間ですので。あっ、左ではなく右に回避して下さい⦆


 セミナスさんの指示通りにすると、俺が避けようとした方向には白熊の男性獣人さんの蹴り足が繰り出されていた。

 セーフ。

 どうやら棍棒が当たらない事で、白熊の男性獣人さんが焦れてきたようだ。


 それでも避け続けていると、とうとうキレたのか、白熊の男性獣人さんの攻撃が乱暴になったというか、大振りが多くなってきた。

 冷静じゃないって感じ。

 まぁ、自分の攻撃が一切当たっていない上に、こっちから一切攻撃していないのだ。

 煽っていると取られてもおかしくない。


⦅チャンスが来ました。目を閉じて下さい⦆


 ……いや、え?

 この状況で閉じるとか、恐怖しかないんですけど?


⦅大丈夫です。私がマスターの目になっていますので。それに、マスターの攻撃は目を閉じている時の方が、成功確率が桁違いに上がりますので目を閉じて下さい。プリーズ! ナウ!⦆


 セミナスさんの勢いに押されて、急いで目を閉じる。


⦅小ジャンプ⦆


 小さく飛ぶと、何かに乗って体ごと振られる感じ。


⦅前転して⦆


 前に転がり……なんか感触が……。


⦅思いっ切り手を叩く⦆


 叩く!

 ……いや、正確には叩けなかった。

 間に何か挟まっている。

 目を開けて確認してみると、両端から丸盾に挟まれた白熊の男性獣人さんの顔が見えた。

 どうやら、今の俺は白熊の男性獣人さんの肩に乗っているような状態。


「えっと……こんにちは?」


 挨拶をしてみたけど、むぎゅ! て感じでなんか可愛……くはないかな?


「ガアッ!」


 その怒りの咆哮に驚き、体勢を崩してバタバタしながら落ちるが、その時の何がよかったのかはわからないが、片方の手に持っていた丸盾が白熊の男性獣人さんの顎にクリーンヒット!

 白熊の男性獣人さんがぐらついたかと思ったら、そのまま膝を付いて倒れた。

 ……俺を下敷きにして。


「くっ! ぬっ!」


 なんとか這い出て状況確認。

 俺、立っている。

 白熊の男性獣人さん、倒れている。

 ……あれ? 勝利?


「決着~! 勝者はアキミチ~!」


 解説実況がそう告げた。

 うん。最後はバタバタしたけど、蝶のように舞い、蜂のように刺した、という事にしておこう。


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