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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第六章 獣人の国
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流れるように進んでいく パート1

 武闘会の本選が始まった。

 一試合ずつ行われ、終わるごとに休憩時間も挟まれている。

 じっくりと観戦させるための措置だと思う。

 前の試合が終わってから準備に向かっても間に合うので、俺としては気が楽だ。


 始まる第一試合。

 戦うのは……兎の男性獣人さんと猫の男性獣人さん。

 兎の男性獣人さんは両足に足甲を装備し、猫の男性獣人さんは両手に鉄製っぽい爪を装備している。


「ふむ。手は使わず足だけか。足の方が、力が強いのはわかってはいるが、その型が妙にはまっている」

「相当鍛錬を積まれたのでしょう。あれだけ多彩な足技を持っているのでしたら、初見で全てに対応するのは難しいですね。力量に差があれば別ですが」


 ロイルさんと宰相さんが、そんな会話をしていた。

 真面目な会話もするんだな、この二人。


 戦いは、兎の男性獣人さんが優勢だった。

 やっぱりリーチの差をいうのもあるが、宰相さんが言うように足技が多彩というか、猫の男性獣人さんが中々距離を詰める事が出来ずにいる。

 解説実況が言っていたように、猫の男性獣人さんの運動能力は非常に高かったのだが、兎の男性獣人さんは常にその姿を捉えていて、巧みな足技を繰り出していた。


 勝ったのは、そのまま兎の男性獣人さん。

 なんというか、師匠と弟子みたいなというか、兎の男性獣人さんの方が一段階上って感じの戦いだった。


 続く第二試合。

 戦うのは、ウルルさんと女性冒険者さん。

 ウルルさんは無手だが、女性冒険者さんの方は大剣を担いでいた。

 女性冒険者さんの振るう大剣は、大剣とは思えないような速度で振るわれ、周囲を威嚇するようにぶんぶんと振るい続けている。


「一種の結界のようなモノだな。迂闊に飛び込めば細切れにされかねないし、威力も回転によって底上げされているだろうから、並大抵では無事に防ぐ事も出来ない」


 アドルさんがそう評する。

 あれ? もしかしてウルルさんは危ない感じ? と思ったが、どうやら違うようだ。

 アドルさんは笑みを浮かべている。


「だが、ウルルなら問題ないだろう」


 その言葉が証明するように、ウルルさんは女性冒険者さんに向けて真っ直ぐに進んでいく。

 危ない! と思ったが、ウルルさんは振り回される大剣を全て回避し続けながら進み、ある程度距離を詰めると一気に進んで女性冒険者さんの腹部にワンパンを入れる。

 女性冒険者さんは動きをとめ、悶絶した表情を浮かべて……そのまま舞台上に倒れた。


 最後の距離を詰めた時のスピード……見えなかったんだけど?


 次いで第三試合。

 戦うのは、鳥の女性獣人さんとワン。

 ただ、戦い始める前にワンが鳥の女性獣人さんに声をかける。


「安心しな! このあと、あたいが慰めてやるからよ!」

「………………」


 鳥の女性獣人さんが険しい表情を浮かべて、持っていた槍を構えた。

 ただ、俺はわかる。

 あれは煽っている訳ではなく、願望というか、そうするつもりなんだって事を。


 戦いに関しては、終始ワンが圧倒していた。

 鳥の女性獣人さんも飛べる事を上手く利用していたとは思うんだけど、ワンの方が上手で、魔法でいくつもの火の玉を作り出し、それを反撃の隙を与えないくらいに連射。

 このままではいずれやられると踏んで近付いて来る鳥の女性獣人さんを、カウンターで沈めた。


 なんか似たようなのを見た事あるなぁ……と、思い出す。

 そういえば、エイトとカノートさんがこういうやり取りをやっていたな、と。

 同じシリーズだし、戦い方も似たところがあるのかもしれない。


 その次、第四試合。

 戦うのは、猪の男性獣人さんとライオンの男性獣人さん。

 でも、その様子がちょっとおかしい。

 どちらも上半身裸で、まるで示し合わせたかのようだ。


 いや、実際に示し合わせたのだろう。

 開始と同時に、相撲のように真正面からぶつかり合った。

 ぶつかった衝撃で少し距離が開くと同時に、今度は互いに殴り合う。

 しかも互いに避けない上に引かない。


 バッチバチにやり合ったあと、勝ったというか立っていたのは猪の男性獣人さん。

 かなり盛り上がり、闘技場全体から拍手が送られた。


 その次、第五試合。

 戦うのは、ウルアくんと男性冒険者さん。

 ウルアくんは昨日同様大剣装備で、男性冒険者さんは長剣の二刀流だった。


「よしっ! ウルア! 殺せ!」


 応援に熱が入り過ぎたウルトランさんが、そう叫んでいた。

 いや、殺しちゃ駄目でしょ?

 ルールで駄目だと決められているし、そもそも負けになっちゃうよ?


 そんな心配は杞憂だった。

 確実にウルトランさんの応援は聞こえていたと思うけど、ウルアくんは動じる事なく冷静に対処。

 一撃も食らう事なく、男性冒険者さんを倒した。


 ……普通に強くね? というのが俺の感想。

 あと、ウルアくんは最初と最後の礼をきちんとしていたので、礼儀正しい。


 それで、第六試合。

 戦うのは、熊の女性獣人さんと虎の男性獣人さん。

 熊の女性獣人さんの方は防御主体なのか大盾に全身を覆うような重装備で槍を持ち、虎の男性獣人さんの方は無手だった。


 戦いの内容としては、熊の女性獣人さんがどっしりと構えてカウンターを狙い、虎の男性獣人さんが活発に動いて翻弄しつつ、どうにか一発を打ち込んでいく感じ。

 でも、虎の男性獣人さんの一発を熊の女性獣人さんが大盾で上手く受けている。


 と思っていたら、熊の女性獣人さんが急に倒れて、虎の男性獣人さんの勝利となった。

 ……どういう事?


⦅盾、鎧の上から衝撃のみを伝えて打ち貫く技術による結果です⦆


 なんかそういう事らしい。


「ふむ。……あの虎の方……良い動きだった。あとでダンスに興味がないか聞いておくか」


 DDがそう言っているのが聞こえた。

 いや、今の戦いはそういうのを見るための選考の場じゃないし、そもそもそれって勧誘じゃなくて強制だよね?

 本人が来る事で断れない流れになるのは間違いないと思う。


 そして、第七試合。

 戦うのは、黒豹の女性獣人さんとフェウルさん。

 黒豹の女性獣人さんは短剣の二刀流で、片方は逆手に持っている。

 フェウルさんは変わらず両手に鉄扇だ。


 内容に関しては、黒豹の女性獣人さんの攻勢を、フェウルさんは微笑みを浮かべているので、優勢なのはフェウルさんの方だと思う。

 多分、フェウルさんはSだな。

 実際、攻勢に出ている黒豹の女性獣人さんの方が、先に疲れを見せ始めた。


「よし! そこだ、フェウル! とどめを刺せ!」


 ウルトランさんの応援の熱が先ほどよりも高い気がする。

 息子と娘では、思い入れがやはり違うのかもしれない。

 確かな事は、とどめを刺したらルールで負けだという事だ。


 勝ったのはフェウルさん。

 黒豹の女性獣人さんが疲れで動きをとめた瞬間、フェウルさんが攻勢に移って一気に決めた。

 鉄扇が撃ち込まれた箇所が真っ赤になって痛そう。


 あと、ウルトランさんの応援の声は聞こえていたと思うけど、あえて無視しているように見えたのは気のせいかな?

 試しに俺も応援してみたけど、ちゃんと反応していたように見えたのは……きっと気のせい。


 最後の第八試合。

 俺の出番だ。

 残念ながらと言うべきか。


「………………」


 エイトはまだ眠っていた。

 残り十数分だが、それを待っていたら完全遅刻になってしまうので、仕方ないと控室に向かう。

 舞台に立つ頃には起きているかもしれない。


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