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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第六章 獣人の国
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アイコンタクトは目と目が合ってこそ

 王城に着くと、ロイルさんを休ませると宰相さんが部屋に連れて行き、残った俺たちは前回と同じく王族の私室に入ってから、ウルルさんの妹さんと弟くん、本人の口から紹介される。


「フェウルです」

「ウルジュニア……ウルアです」


 ウルルさんの妹で狐の獣人である、フェウルさん。

 ウルルさんの弟で犬の獣人である、ウルアくん。

 そう呼んでも良い事も一緒に伝えられる。


 あっ、どうもどうも。

 エイトも交えて自己紹介し、握手も交わしておいた。

 丁寧に接しようとも思ったのだが、遠慮される。

 姉とも気軽に接しているようなので、自分たちもそうして欲しい、と言われた。


 いや、そこまで気軽という訳じゃないけど?


「だって怖いしね」


 そう言うと、ウルルさんがニッコリ笑顔で俺を見る。


「ほら、あの顔は怖い」


 同意はしてくれなかったけど、きっと心の中ではそう感じているに違いない。

 隠すのが上手いだけだと思っておこう。

 そしてフェウルさんとウルアくんの二人は、義兄になるであろうインジャオさんに懐いた。

 ……特にウルアくんが。


「……義兄さんから抗い難い匂いがします」

「ははは」


 ウルアくん、それは将来の義兄に向けて良い目じゃないよ?

 インジャオさんも苦笑い。


「駄目よ! ウルア!」


 手は出させない! とウルルさんが、インジャオさんとウルアくんの間に体を滑り込ませる。

 この国では、匂いを封じ込める鎧とか結界とかした方が、インジャオさんには過ごしやすいのかもしれない。

 そんな方法があれば、だけど。

 一方、フェウルさんの方は、インジャオさんに懐きはしたが、他の人が気になる模様。


 具体的には俺。


「えぇと……フェウルさんはウルルさんたちのところに交ざらなくて良いのかな?」

「姉に惚れているのは見てわかりますし、幸せならそれで構いません。ウチは寧ろ、アキミチ殿の方が気になります」

「……え?」


 まだまだ幼さが残る顔立ちかと思っていたら、急に色気というか艶を出してきた。


「強そうには見えないのに、見た目以上の身体能力を持ち、一撃も受けないまま予選を通過しました。まるで相手がどう動くのかがわかっているかのような先読み。一体その身にどのような能力を宿しているのか、非常に興味があります」


 蠱惑的な笑みを浮かべるフェウルさん。

 多分、俺と同年代か下だと思うけど、もうそんな雰囲気を醸し出してくるの?

 それが怖い。

 でも、言葉遣いは普通なんだ。

 狐だしてっきり……いや、それは偏見か。


 それに、怖いのは別にも居る。


「ご主人様を誘惑するのはやめて下さい。それはエイトの役目です」


 そう言って、エイトが俺とフェウルさんの間に割って入って来る。


「えぇと、その役目は言えばやめてくるのかな?」

「エイトの魂に刻まれていますので不可能です」


 駄目なようだ。

 出来ればやめて欲しいのだが、魂とか手が出せない。

 ……本当かな?

 エイトを造り出した神様たちが居ないから、確認のしようがない。


「ふふ。やきもちかしら? エイトちゃんは可愛いわね。でも、これは女と男の話だから、交ざりたいならもう少し成長してからかな?」


 それはフェウルさんも同じ、と言いたいところだが、本能が言わない方が良いと囁くので言うのをやめた。

 しかし、エイトはこの程度で黙る事はない。


「エイトはこれでもそれなりの年月を重ねています。残念ですが、あなたでは若過ぎて、ご主人様の好みから外れています」

「でも、エイトちゃんの見た目は充分若いと思うけど?」

「撤回を要求し、成熟した女性であると進言します」


 ふんっ! と胸を張るエイト。

 そうなの? とフェウルさんが俺を見る。

 えっと、その確認はどっちの事を聞きたいのかな?

 エイトの見た目の話か、それとも俺の好みの話か。


 どっちか判別出来ないので、迂闊に答える訳にはいかない。

 アドルさんたちに助力を求めようと思ったが、向こうは向こうで忙しそうだ。

 インジャオさんの骨に魅了されたウルトランさん一家から、アドルさんとウルルさんが盾となって必死に守っている。


 アドルさん、ウルルさんと視線が合うと、アイコンタクトで訴えてきた。

 ――緊急事態発生! 至急、救援ヲ求ム!

 俺もアイコンタクトで返答。

 ――コチラモ不利ナ状況! 援軍ヲ送ル事出来ズ!


 助けは来ないようなので、俺一人でどうにかしないといけないようだ。

 なので、まずは話題の転換を試みてみる。


「ところでフェウルさん」

「フェウルと呼び捨てでも構わないです」


 それは危険な予感がするので、このまま「さん」付けでいこう。


「一つ聞いても良いかな?」

「どうぞ」


 ここで話題のチョイスをミスってはいけない。

 下手な話題を振って直ぐに答えられてしまうと、元に戻ってしまう。


「ウルルさんは狼の獣人だけど、フェウルさんとウルアくんはそれぞれ狐と犬の獣人だよね? ウルトランさんとは違うって事は?」

「はい。ウチの母は狐の獣人で、ウルアの母は犬の獣人です。姉もどちらかと言えばルルシャ母様の血の方が濃いようですので、ウチたち姉弟は皆母似です」


 それはなんというか……頑張れ、ウルトランさん。としか言えない。


「もう少ししたら母も来ると思いますので、その時にでも紹介しますね?」


 どう紹介するつもりなのか、今の内に聞いておきたい。

 内容によっては話し合いだ。

 でもその前に、フェウルさんが何かに気付いたかのように、ハッとした表情を浮かべ、俺に注意を促してくる。


「でも、母はウチが目標にするくらい妖艶ですから、気を付けて下さい。特に父と結ばれて人妻になってから、その色香は更に増しています。国を落とすとまで言われていますので、間違っても手を出さないようにお願いします」


 いや、ちょっと待って。

 なんで俺が手を出すだろうという前提で話すの?

 どれだけ色気があろうとも、手は出さないから!

 でも、出来ればそういう事は今言わないで欲しかった。


 敏感に反応するのが直ぐ傍に居るから。


「安心して下さい。その心配は無用であるとエイトが保証します」


 エイトが自信満々に言う。

 あれ? 珍しくまともな事を――。


「何しろ、エイトを貪りたいという獣のような欲を、ご主人様は毎日抑えていますので。忘れもしません。初めて会った時の、エイトを見る目に欲が宿った事を」


 言う訳なかった。

 そもそも、そんな目でエイトを見た覚えが俺の中にはありません。

 けれど、フェウルさんにはそれがわからない。


「あら? そういう事なら、母よりもウチの方が危険って事?」

「否定は出来ません」


 いや、そこは否定して。


「ほら、よく見て下さい。エイトたちを見るご主人様の獣のような目を」

「きっと頭の中で、色々と凄い事を繰り広げてられているのは間違いないです」


 それは間違いです。

 何も起こっていません。

 なんというかエイトは感性が通じた相手とは直ぐ仲良くなるな。

 それにしても、話題を変える事は出来たが、このままでは孤立無援だ。


 コチラ状況悪化! 至急来ラレタシ! とアドルさんたちにアイコンタクトを送る。

 こっちを見る暇がないくらいに忙しそうだった。

 独力でどうにかするしかないようだ。

 まずはフェウルさんの誤解を解く事から始めよう。


 エイトは無理だ。

 魂に刻まれているらしいし。


 フェウルさんとウルアくんの母親が来るまでどちらも攻防は続いたが、誤解は解けたと思いたい。

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