流れた月日に合わせて成長している
予選は続き、次の注目は第十六ブロック。
つまり最後の予選。
舞台上によく知っている人が立つ。
ウルルさん。
実況解説の興奮した声が響く。
「さぁ! 予選最終ブロック! ここでの注目はもう一人しかいません! 長年武闘会不参加だったこの国のもう一人の姫、ウルル姫様が帰って来た! まだ皆様の記憶にも残っているでしょう! 全ての戦いを無手でボコってそのまま優勝を果たし、獣王陛下に敗れはしたものの、その鮮烈な姿に『撲殺姫』と呼ばれるようになった姫様です!」
……本当に? とアドルさんに視線を向ける。
初めて知った、と驚きの視線が返された。
俺とアドルさんは揃ってウルトランさんに確認の視線を向ける。
視線に気付いたウルトランさんは、その通りだと頷く。
本当の事だったのか。
でも、ウルルさんならあり得ると思ってしまう。
……インジャオさんはこの事を知っていたのだろうか?
舞台上のウルルさんが、余計な情報を……と実況解説が居ると思われるところをもの凄く睨んでいる辺り、インジャオさんは知らなかったのかもしれない。
それでも二人の愛が冷めるとは思わないけど。
とりあえずこの情報で思う事は一つ。
「「これからはなるべくからかわないようにしよう……」」
全く同じ言葉が隣から聞こえた。
アドルさんと目が合ったので、うん、と頷き合う。
そうして始まった予選最終ブロックは……ウルルさんの圧勝だった。
呼び名の通り、襲いかかって来る相手を全員フルボッコにして。
観客席と貴賓席は、非常に盛り上がった。
ウルルさんのお母さんであるルルシャさんも、嬉しそうに拍手をしている。
けれど、ウルトランさんは拍手しつつも、その表情はどこかひくついていた。
「ウルトランさんのあの表情……どういう意味ですか?」
「恐らくだが、今のウルルの強さが想定していた以上だったのだろう」
「あぁ、なるほど。……あれ? もしかして我ちょっとヤバい? みたいな感じ?」
「そのような感じで間違いないと思う。あとは拍手しながら腕を見る辺り……もう少し鍛えた方が良いかもしれないと考え始めているな」
アドルさんとヒソヒソ話していると、舞台上にウルルさんが残っている事に気付く。
あれ? 引っ込まないの? と思っていたら、解説実況の声が再び響く。
「さぁ、これにて予選は全て終了しました! 予選を通過し、本選に進む方たちは舞台にまでお越し下さい!」
どうやら何かあるようなので、早速向かう。
え~と……来た道を戻れば良いだけだから……。
⦅このままだと闘技場の外に出てしまうようなので、ご案内しましょうか?⦆
……宜しくお願いします。
外に出るのは予想外だったな。
そうして再び舞台に立った時、舞台上には俺の他に予選を通過した十五人と、運営員っぽい揃いの服を身に纏った数人の獣人さんが居た。
さて、なんか話が始まりそうだけど、その前に声掛けをしておかないと。
「戻って来ないから言えなかったけど、勝利おめでとう、ワン」
「主もな! ちゃんと見てたぜ! でも、戻れなかったのは悪かった。あいつらが中々離してくれなくてよ」
うん。やっぱり複数だったか。
それと、そういう事は別に聞きたくないから言わないように。
「ウルルさんもおめでとうございます」
「ありがとう。もちろん、アキミチもね。でも、大変なのはこれからだから。何しろ、フェウルとウルアもかなり強くなっているし、他にも油断出来ないのが居るしね」
そう言うウルルさんだけど、一番注意を向けているのは妹さんと弟さんのようだ。
少し離れた位置に居る妹さんと弟さんを見る目が、好戦的な感じになっている。
でもそれは向こうも同じ。
そういう家系なのかな?
妹さんと弟さんを紹介して欲しかったけど、今は無理だな。
「では、予選通過者の皆様! こちらにお集まり下さい」
舞台上の運営員の一人から集合がかけられたので向かう。
集まったのを確認すると、運営員の一人が口を開く。
「まずは予選通過、おめでとうございます。この中から優勝者が出るかと思うと、今から興奮してしまいますが、その前に決めるべき事があります。何人かの方は知っているでしょうが、初めての方も居ますので説明させて頂きます。これから行うのは本選の組み合わせ。ここでもう一度くじ引きを行います」
運営員の一人がそう言うと、別の運営員さんが前に出て来た。
両手で大きな箱を抱えている。
「お持ちの玉の番号がそのまま自分の番号となり、その玉をこの箱の中にお入れ下さい。私が一つずつ取り出していきますので、そのまま第一試合から順に埋めていきます。宜しいですか?」
わかったかどうかの確認だったので頷く。
要はこの玉を使って本戦の組み合わせを決める訳ね。
さてどうなる事やら……と思いつつ、玉を箱の中に入れる。
そして運営員の一人が箱の中から玉を一つずつ取り出していった。
組み合わせが決まる度に、観客席から歓声が上がる。
特に王族が決まる時に、より大きな歓声が上がり、結果はこうなった。
第一試合 兎の男性獣人さん VS 猫の男性獣人さん
第二試合 ウルルさん VS 腹筋が割れている女性冒険者さん
第三試合 鳥の女性獣人さん VS ワン
第四試合 猪の男性獣人さん VS ライオンの男性獣人さん
第五試合 ウルルさんの弟くん VS 筋肉モリモリの男性冒険者さん
第六試合 熊の女性獣人さん VS 虎の男性獣人さん
第七試合 黒豹の女性獣人さん VS ウルルさんの妹さん
第八試合 白熊の男性獣人さん VS 俺
獣人の比率が多いのは、予選を見れば納得だった。
本当に身体能力に優れているというのがわかる。
俺がまともに対抗出来たのは、セミナスさんの補佐と新たに得たスキルがあればこそなのだから。
だからこそ、そんな中でも予選を通過した冒険者二人は凄いと思う。
ワン然り、ウルルさん然り。
……いや、ウルルさんは獣人枠だったな。
それにワンも見た目は人種族だけど、中身は神仕様だし、そこを基準にしちゃいけない。
もっとも、この世界にはもっと強い人が居る事は知っている。
シャインさんとか、カノートさんとか。
どちらも強い一癖があるけど。
……あれ? なんの話だっけ?
そうそう本選の試合相手が決まったんだった。
俺の相手は白熊の男性獣人さん。
……熊という事で最初に出会った兎を被った熊を思い出すが、そこを引き合いに出すのは違うか。
とりあえず、本選の組み合わせが決まったので、今日はこれで解散である。
「じゃあ、行こうか。アキミチが使っていた部屋はそのままにしてあるから」
ウルルさんと一緒に舞台を降りる。
そのまま出入り口に向かう前に、ワンに一言。
「ワンは大人だと思っている。だからこそ、明日に影響を残さないように」
「安心しなよ、主」
親指を立てて俺に見せてくるワン。
……不安だけど、信じておく事にする。
結果は明日わかるだろう。
エイト、アドルさん、インジャオさん、ウルトランさん一家に合流すると、そこにロイルさんと宰相さんも居た。
どうやらロイルさんたちの寝泊まりも王城らしい。
まぁ、そこらの宿屋に泊める訳にはいかないか。
という訳で、揃って王城に向かう。
さて、それじゃ、ウルルさんの妹さんと弟くんを紹介して貰おうかな。
ちなみにDDとジースくんたちは、王都内に繰り出していった。
興行の続きを行うらしい。
……頑張れ、と応援だけしておいた。




