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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第六章 獣人の国
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急に出来るようになる時ってあるよね

 舞台上の色んなところで戦いが起こっている。

 遠目に確認したけど、どうやら鹿の獣人さんは立派な角を舞台に刺したまま気絶していた。

 セミナスさんが言ったように、直ぐ脱落してしまったようだ。


⦅だから直ぐ居なくなると⦆


 確かに。

 ただ、俺の危険度はそう変わっていない。


「おらぁっ!」


 犬の男性獣人さんが剣を振り下ろしてくる。


⦅回るように回避⦆


 回転っ!


⦅勢いそのままに顎を殴って下さい。あっ、気持ち角度を下げて⦆


 気持ち下げて……クリーンヒット!

 会心の手応えが拳に伝わる。

 顎を殴り抜かれた犬の男性獣人さんは、気絶して倒れた。

 あれだね。攻撃力を必要としないような攻撃なら、俺でも出来るという事だね。


 でも、セミナスさんの補助は必要だけど。


⦅お任せ下さい。あっ、留まると次が来ますので……左前方に移動して下さい⦆


 アイアイサー!

 移動開始。


⦅今は移動と回避に集中して下さい。周囲の者たちに関しては、勝手に倒されていきますので⦆


 人数が減るのを待つ訳ね。


⦅はい。狭い場所でも問題はありません。ですが広く動ける方が、マスターが回避防御をしやすくなるのは間違いありません。乱戦の場合、不安な要素は少しでも排除しておいた方が賢明かと⦆


 確かにその通り、と!

 今の状態は確かに落ち着かない。

 どこから相手が現れるかわからないし。


⦅それと、出来れば動き回る事を推奨します⦆


 その分の体力は消費するけど良いの?


⦅はい。問題ありません。尽きる前に予選を終わらせますので。それよりも今は、マスターがスキルによって向上した身体能力を把握しておく事の方が重要です⦆


「身体能力向上」と「反応速度上昇」ね。

 確かに、どれだけ動けるようになって、どれだけ反応出来るようになったのかを、知っておくのは重要だ。


⦅という訳で、これからの指示は全てギリギリで行いますので、気を引き締めて対応していって下さい⦆


 わかった!

 ………………。

 ………………。


「ちょっとギリギリ過ぎないかな?」


 思わず叫んでしまう。

 何しろ、セミナスさんの指示通りに動くと、迫る拳が鼻先にかすったり、振り下ろされる刃が髪の毛を少し切ったりと、本当にギリギリなのだから。

 思わず叫んでしまうのも仕方ない。


 両手で防いだは良いけど、相手の蹴りが俺の大事な部分に当たりそうになった時は、ひやっとした。

 寧ろ、よく防げたな、としか言えない。

 ……いや、身体能力が向上していなければ、あのまま押し切られてクリティカルヒットしていたのは間違いないと思う。


⦅防げるとわかっているからこその指示です⦆


 だとしても、ひやっとした事に変わりはない。

 出来れば次からは違う方法での回避を提示してくれると助かります。


⦅かしこまりました。ただ、よりシビアな指示になりますが構いませんか?⦆


「反応速度上昇」で上手く対応していくしかない。

 ………………。

 ………………。


「本当にシビアだな!」


 セミナスさんの指示が速過ぎる。


⦅考えている時間が惜しいです。体を起こし、即左に転がって下さい。そのあとは合図と共に体を起こして跳躍。目の前に居る相手を突き飛ばして後方に跳び、頭部を突き出して頭突きを……⦆


 くっ、頑張るしかない。

 それでも、なんとか対応している間に、舞台上で立っている人たちの数は目に見えて減っていった。

 周囲を見渡せば、立っているのは俺、鳥の男性獣人さん、虎の女性獣人さん、牛の男性獣人さんの四人だけ。


 決着の時は近い。


⦅その通りです。マスターも現在の身体能力と反応速度は把握出来たと思いますので、これからは勝つための行動に移ります⦆


 ふぅ~、はぁ~……と一呼吸。

 よし。どうぞ。


⦅まずは牛の獣人に向かって下さい⦆


 一気にかける。

 すると、牛の男性獣人さんは両手で持っている大きな棍棒を構え、スイング。


⦅跳び、両足を前に――今⦆


 丁度大きな棍棒に乗ったような形になる。


⦅スイングの勢いを利用して⦆


 一気に跳躍!

 狙ったかのように飛んでいた鳥の男性獣人さんの下へ。


「ハアッ!」


 鳥の男性獣人さんが空中で姿勢を変え、蹴りを放ってくる。

 あれ? 鳥の男性獣人さんと違って、俺は空中で姿勢なんて変えられないし、普通にやられるんじゃない?


⦅問題ありません。まずは目を閉じて下さい⦆


 はい……え?

 何も見えませんけど?


⦅体を捻って……ニーキック!⦆


 ニーキック!

 膝に強い衝撃が走る。

 そして次に来るのは落下感。

 きゃー! 落ちる落ちる! なんか怖い!


⦅目を開けて下さい⦆


 パッチリ! 迫る舞台が見えて余計に怖い!


⦅右手を横に伸ばして力強く握って下さい!⦆


 グッ! と握る!

 何を? と視線を向ければ、フラフラと飛んでいる鳥の男性獣人さんの足だった。

 頬が真っ赤になっているので、多分だけどそこに俺のニーキックが当たったと思われる。

 落下スピードが一気に落ち、このまま無事に舞台上に戻れそうだ。


 でも……俺にこんな攻撃力があったのが驚きだ。


⦅『未来予測』などで私の中で行った検証の結果、どうやらマスターが認識していない攻撃なら当たるという事が判明しました⦆


 それっておかしくない?

 攻撃ってそもそもちゃんと相手を見て放つモノだと思うんだけど?


⦅そうですが、マスターの場合はそれでも問題ありません。私が付いていますので⦆


 ……それもそうか。

 そう思っていると、そろそろ舞台上に……待って待って!

 このままだと場外に出ちゃう!

 軌道修正を! 鳥の男性獣人さん! 軌道修正を!


 ……駄目だ。朦朧としていてわかっていない。

 俺の膝にそんな威力が!


⦅私の指示によるマスターの攻撃は、大体クリティカルになるようにしていますので⦆


 だと思った。

 でもその前にこの状況はどうしたら良いの?


⦅……もう無事に着地出来る高度まで下がっていますので、場外に出る前に足を離して舞台上に下りれば良いのです⦆


 だよね! うん。わかっていた。

 俺もそう思っていたところなんだよね!


⦅………………そうですね⦆


 優しい肯定が心に刺さる!

 うっ、と胸に手を当てつつも、掴んでいる手を離して舞台上に見事に着地。

 鳥の男性獣人さんはそのまま場外に下りていく。

 これで残るは……と舞台上に目を向けると、虎の女性獣人さんが牛の男性獣人さんを倒したところだった。


 虎の女性獣人さんがこっちを見る。

 ニィッと笑みを浮かべ、両手の短剣を逆手に持ち、俺に向かって襲いかかってきた。

 なんか怖いのが続いて落ち着かない!


⦅問題ありません。右、左……⦆


 一気に迫った虎の女性獣人さんが両手の短剣を振るってくるが、セミナスさんの指示で全て回避。

 虎の女性獣人さんの攻撃は、正直に言えば「身体能力向上」と「反応速度上昇」がなかった場合、指示があったとしても避けきれていたどうかわからないくらいの速度だった。


⦅中央、左、左、右、そこで一呼吸置きますので、腕を掴み、足を払って――⦆


 見事な一本背負いを披露。

 と思ったら、途中でスポーンと放り投げるような形になってしまったが、虎の女性獣人さんが着地した場所は場外。

 ……えぇっと、つまり。


「第八ブロック決着ぅー! まさかの展開か、勝者はなんとFランクの冒険者、アキミチ! いや、獣王陛下が推薦した人物だ! 獣王陛下の目が正しかったと言うべきか!」


 解説実況がそんな事を言っていた。

 そこで周囲の状況が見え、観客席が盛り上がっているのがわかる。


⦅マスターを称えていますので、手を振って応えて下さい⦆


 手を振っておいた。

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