表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第六章 獣人の国
169/590

限界は知りたいけど、見たいとは思わない

 入念に準備運動をしていると……ふと気付く。

 準備運動しているの……少なくね?

 なんかこう、武器をパシパシしながら周囲に威嚇するような視線を向けていたり、それで同じような行動を取っていたのと目が合うと睨み合ったり、我関せずと腕を組んで目を瞑っていたりと、準備運動を怠っている人たちが多い。


 いや、もしかして既に終わらしているのだろうか?

 ……そういえば控室で動いている人を見かけたような気がしないでもない。

 でも、人数的な部分を踏まえると……やっぱり怠っている人が居ると思う。

 そんなんで満足に動けるのだろうか?


 怪我しそうに……そういや、回復要員がきちんと待機しているんだった。

 まぁ、だからといって、準備運動を怠るのは間違いだと思うけど。

 ……でも、元の世界の動物から考えれば……「0」から一気に「100」までもっていけるのかもしれない。


 瞬発力に優れているとでも言えば良いのか……。

 それが自信の一つになっているのかもしれないけど、やっぱり準備運動はやらないよりはやった方が良いと俺は思う。

 なので準備運動をそのまま継続していると、実況解説の声が響く。


「お待たせしました! 第八ブロックの見どころは、やはり彼! 鹿の獣人! エディ・ホーンホーン! 前武闘会においてベスト8にまで残った実力者!」


 おっと、いきなりライバル的な人が居るみたい。

 その獣人さんは要注意って事ですね。

 一応どこに居るかを確認して……隣に居た。


 立派な角と流れる茶髪に、凛々しい顔と屈強な体をお持ちの男性獣人さん。

 俺の1.5倍くらい大きく、武器の類を持っていない辺り、武闘家とかなのかもしれない。

 まぁ、立派な角が武器とも言えなくはないけど。


 とりあえず、距離を取った方が良いかもしれない。

 この位置だと、いきなり襲われて俺の武闘会が終わる可能性が大だ。


⦅問題ありません。終わるのはそこの鹿です⦆


 そこで切っちゃ駄目だよ、セミナスさん。

 せめて、「鹿の獣人」と言っておかないと。


⦅失礼しました。直ぐ居なくなるのはそこの鹿の獣人です⦆


 うん。それで……直ぐ居なくなるの?

 でも、移動はしておいた方が良いよね?


⦅いえ、必要ありません。そもそも、マスターも狙われるようになりますので⦆


 は? 狙われる? 俺が?

 どういう事?


「更に更に! このブロックにはエディ・ホーンホーンの他に注目するべき者が居る! 最初に聞いた時は、正気か? と疑ったが、実際に参戦しているので間違いない! なんと、人種族というだけでなく、冒険者としてのランクは『F』! それで参戦するなんて馬鹿にしていると思ったのだが、なんと獣王陛下の推薦だ!」


 おっと、そんな人が居るんだね。

 ランクが「F」で参戦するなんて、それは注目されてもおかしくない。

 ところで、どうして周囲の人たちは俺を見るんだろう。

 確かに、俺のランクは「F」だ。

 それに間違いはない。


 でも、そういう人が他に居てもおかしくはないと思うんだ。

 そもそも、俺は推薦なんてされていない……はずなんだけど、俺を見る目は確信しているように見える。

 そこで気付く。


 周囲、というか、舞台上に居る人種族……俺しか居なくない?

 どこを見ても獣人しか居ない。

 いやいや待って待って。

 俺が見た予選の中には、獣人だけとか、人種族が一人だけとか、そういうのはなかった……のだから、どこかに俺以外の人種族が――。


「その冒険者の名は、『アキミチ!』」

⦅現在、舞台上に居る人種族はマスターだけで、他は全て獣人です⦆


 なんだってそんな事に!

 そりゃ舞台上の皆が俺を見るよね!


⦅こればかりは、くじの結果と言うだけしかありません。もしくは神のみぞ知る⦆


 ……この世界に、くじの神様って居るの?


⦅存在します。現在は封印中ですが⦆


 なら早急に解放して文句の一つも……いや、待って。少し冷静になろう。

 いくらなんでも、封印されている状態で、その力の影響があるとは思えない。

 でもそれだと、この結果は俺自身が招いた結果という事になる……むぅ。

 というか、この周囲からのロックオン状態は勘弁して欲しいんだけど?


⦅獣王推薦というのが最大の効果を発揮しています。そこの鹿の獣人よりも狙われますので、その事を忘れないように行動して下さい⦆


 無茶な!

 そもそも俺は推薦して欲しいなんて言ってもいないのに!


⦅少しでも盛り上がるようにと、獣王が気を遣ったのでしょう⦆


 そんな気は要らん!


⦅あとは吸血鬼たちが自信満々でマスターを参戦させましたので、どれだけ出来るのかと興味を持ったのかもしれません⦆


 そんな興味は捨ててしまえ!

 くそぉ……なんかウルトランさんが楽しそうにニヤニヤと笑っているような気がする!

 ……そっちがそうくるのなら、セミナスさん!


⦅はい。なんでしょうか?⦆


 ウルトランさんへの意趣返しのプランを練っておいて!


⦅かしこまりました。物理的だと効果が薄い、いえ、寧ろ喜々として対応されますので、精神的な手段を取りたいと思います。威力レベル1~100までご用意出来ますが、いくらくらいをご希望でしょうか?⦆


 それってつまり、百通りあるって事?

 それはそれで怖い。


⦅ちなみにですが、私としては高レベルを推奨します⦆


 その心は?


⦅どこまで出来るのかを試すため……より高みへと至るために、自分の今の限界値を知っておきたいのです⦆


 成長を求めて……という心掛けは良い事だと思う。

 でも、セミナスさんの限界値を知るのはちょっと怖い。

 世界全体とか巻き込みそうだ。


 という訳で、そこら辺はじっくりと考えるべきじゃないかな?

 なんていうか、ほら……こう意趣返しは勢いで言っちゃった? みたいなというか……。

 いやいや、決してセミナスさんの怖さに怖気づいた訳じゃなくて……ね?


⦅ここまで気持ちを昂らせておいて放棄しろと? それは酷と言うモノでは? 折角のチャンスですし、マスターも私がどこまで出来るのかを把握しておけば、今後のためにも良いのではないでしょうか?⦆


 誘惑しないで。

 ちょっと見てみないなって思ってしまうから。


⦅ですがその前に一つ宜しいでしょうか?⦆


 はい。


⦅直ぐにでも始まりますが、移動しなくてよかったのですか?⦆

「それでは、予選第八ブロックの開始です!」


 あれぇ! いつの間に!

 謀ったの? セミナスさん。


⦅心外です。私は常にマスターには正直に接しています⦆


 ですよね。て、今はそれどころじゃない!

 早急な対応を――。


「おおおおおっ!」


 そんな叫びが隣から聞こえる。

 ……隣?

 視線を向ければ、鹿の獣人さんが俺に向けて拳を振り下ろそうとしているところだった。

 きゃああああっ!


⦅後方に倒れるように体を沈ませて下さい⦆


 セミナスさんの指示通りに後方に体を倒す。


⦅迫る拳の腕を掴み⦆


 ガッシと掴む。


⦅足を振り上げ、巴投げ⦆


 えいやぁ!

 綺麗に巴投げが決まりはしたが、それほど遠くには投げる事は出来なかった。

 体格に合わせて重かったのが原因。

 でも、セミナスさんの指示なので効果はてきめん。


 投げられると思っていなかったのか、鹿の獣人さんは頭から舞台に落ち、立派な角がガッツリと舞台に刺さる。


「んっ! ぬっ!」


 多少の動きでは抜けない模様。

 そしてそれは、強者が見せる絶好の隙。チャンス。


「今だぁ!」


 誰がそう叫んだのかはわからないが、集中的にボコられる鹿の獣人さん。

 ……えっと、なんかごめんなさい。

 俺も倒れたままではタコ殴りに遭うので、急いで立ち上がってこの場から離れる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ