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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第六章 獣人の国
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絵画のように感じ方はそれぞれ違う

 身体の神様から「身体能力向上」と「反応速度上昇」という二つのスキルを貰った。

 これで獣人たちとまともにやり合えるだろう。

 セミナスさんありきだけど。


⦅マスターの『回避防御術』は一流の域だと思いますが、新たに得たスキルと、私という存在が加わる事で超一流以上だと断言しておきましょう⦆


 これで敵を倒す事も出来る!


⦅………………⦆


 出来ないっぽい。

 そうだよね。

 身体能力と反応速度が上がっただけで、攻撃能力が向上、もしくは備わった訳じゃない。

 もうそこら辺は諦めよう。


「………………」


 問題は、未だ身体の神様が俺の前に居る事である。


「あの、身体の神様。出て行かないんですか?」

「いや何……ここは集中してトレーニングを行う事が出来た。筋肉が喜んでいたのだ。こんな最良のトレーニング室を放棄するのもどうかと思ってな。聞けば、出れば入れないのだろう?」

「みたいですね」


 神様も例外じゃないっぽいから、改めて聞くと凄い結界だな。

 神ですら入れないなんて。


「だが、外に出れば器具を利用出来る、か。……ふむ。よし、外に出よう」


 そんな理由で外に出るのか。

 いやまぁ、どうでもいいというか、別に知ろうとも思わないけど。

 という訳で、身体の神様と一緒に黒い神殿を出て、結界の外に向かう。


 すると、新鮮な空気を吸う前に、俺たちを待っている神様が居た。


「やぁやぁ、アキミチ! 神の気配を察して迎えに……」


 武技の神様である。

 けれど、身体の神様を見て……固まった。


「ん? 武技の神ではな」

「じゃ! そういう事で!」

「いやいや、どういう事? というか逃がさないよ!」


 武技の神様を逃がさないように、肩を即座に掴む。

 おぉ! なんか今、素早い動きが出来た!

 なんというか、こう、頭の中で思い描いたままの動きが出来たって感じ。

 これがスキルの恩恵か!


「やめて! 放して! アキミチ! こんなむさ苦しいのを連れて行きたくない! というか、連れて行ったら僕が怒られちゃう!」

「同じ神様じゃないですか! 大切な仲間でしょ? 大丈夫! きっとわかってくれるって!」


 逃げようとする武技の神様を押さえつつ、説得。

 すると、身体の神様も追従する。


「話はアキミチから聞いたぞ。何やら大変らしいではないか。ここは一つ、この鍛え抜かれた筋肉を使ってやろうではないか」

「よし、決定!」

「まだ決定じゃない! それに要らないから! そもそも、筋肉なんて必要ないから!」


 武技の神様の心から出る訴えを、身体の神様はまるで気にしていない。


「というか、前よりもむさ苦しくなるってどういう事! 封印された状態の中で、なんで逆にハツラツとしているのさ! おかしい! おかしいよ!」

「逆だ、武技の神。逆にトレーニングしかする事がなかったからこそ、今のこの喜びに溢れる筋肉がある」


 武技の神様に見せつけるように、身体の神様がポージング。


「やめて! そんなの見せないで! 残る! 記憶に残っちゃうから!」


 絶対見ないぞ! と押さえつけている俺を無理矢理振り払って、武技の神様が両手で両眼を覆う。

 武技の神様。それは悪手です。

 確かに記憶には残らないかもしれないが、相手の動きが見えなくて対応出来ない。

 そう言おうとしたが、言わなかった。


 その方が、身体の神様が早く行ってくれるような気がしたので。

 実際、そうだった。

 身体の神様が、武技の神様をひょいっと抱える。


「え? 何? なんか急に体が宙に浮いているような感覚になったんだけど? 確認したい! でも怖い! 見て記憶に残すのが嫌だ!」

「ほら、大人しくしろ。暴れるな」

「あっ、なんかガッシリとしていて、不思議と安定感と安心感がある。でも、この状況を確認すると心に傷が付くかもしれないから、目を開けられない」


 大丈夫。こっちサイドは全員見ているから。

 そう全員。

 騒ぎを聞きつけたエイトとワンも、俺と同じ光景を見ていた。

 エイトはふんふんと頷き、ワンはどうでもよさそうに見ている。


 その事を教えると武技の神様が暴れそうなので言わないけど。


「ではな、アキミチ! 武闘会でお前の筋肉が滾る事を願う!」

「え? あれ? なんの話? というか、もしかしてだけど移動する感じ?」


 身体の神様が武技の神様を抱えたまま、空を飛んでいく。

 武技の神様は大人しくしているけど、今の状況をあとで知ったらどう思うのだろう?

 とりあえず、いってらっしゃいと手を振っておく。

 その姿が見えなくなってから、エイトが俺に声をかけてくる。


「ご主人様」

「何?」

「今のは、エイトの記憶媒体データベースによると身体の神で間違いありませんか?」

「うん、そう」

「なら、先ほどの光景は、『身体の神×武技の神』でしょうか? それとも、『武技の神×身体の神』でしょうか?」

「知らん」


 どっちでも良いというか、興味がないというか……。

 いや、違うな。

 それは一人一人が思い描く心次第だ。


「それで、主は強くなれたのか?」

「あぁ、多分ね」


 ワンの問いに答える。

 実際にやり合ってみないと、ちょっとわからない。


⦅確かめても良いですが、その前に一言⦆


 なんでしょう?


⦅そろそろ出発しないと武闘会に間に合わない可能性があります⦆


「よぉし! 出発だぁ!」


 エイトとワンを急かし、ティーセットを片付けるのも手伝って出発する。


     ◇


 黒い神殿から出発してから二日経ち、残るはあと一日。

 昨日は雨が降ったので、ぬかるんだ道を馬車が駆けていく。

 正確には明日の武闘会開催時刻までにコロッセオに着けば大丈夫みたいだけど、それに間に合うの? これ。

 ちょっと怪しい感じがする。


⦅今のところ……ギリギリ間に合います。何も起こらなければ)


 そういう事は言わない方が良いと思うな、俺。

 言ってしまうとそうなる確率が高くなるというか、現実に起こってしまうから。

 具体的に言うと、フラグが立つ、てヤツ。


⦅マスター。予め言っておきますが、私に限っては、そうそうフラグは立ちません。そう心がけておけば、起こった時に気が少しでも楽になるから、というだけです⦆


 確かに、セミナスさんには通用しなさそうだ。

 何故なら、立つ前に折ってしまうから。


⦅この道を進んでいくと、車輪がぬかるみで滑って馬車本体が木に激突。そこで車輪が駄目になり、走って向かう事になりますので、別ルートを選択して下さい⦆


 その事を御者台に居るエイトとワンに伝える。

 こんな感じでフラグが立つ前に全て折っていった。

 さすがセミナスさん。


⦅この程度なんでもありません。それに、本番はこのあとですので⦆


 そして翌日の朝。

 獣人の国の王都が見えてくると、その門にアドルさんが居た。

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