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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第六章 獣人の国
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他人から見るとそう見える時がある

 黒い神殿の出入り口から、こっそりと内部を確認。

 ……魔物の姿、なし。

 でも安心は出来ない。

 大抵一階には何もなく、地下への階段があるだけだ。


 ……ほらね、あった。


⦅前回も似たような事を言いましたが、結界内は私の力が著しく低下して制限されますので、周囲に気を配って行動し、私の言葉を聞き逃さないようにお願いします⦆


 うん。わかっている。

 ふぅ~……はぁー……。

 深呼吸して心を落ち着かせ、黒い神殿内部に入る。

 罠の類はないと思うけど、警戒は怠らない。


 ないと決めつけて行動するほど、馬鹿ではないつもりだ。

 あまり時間をかけたくはないけど、周囲に注意を払う以上、ゆっくりと行動していく。

 地下への階段を下り、あるのは通路と扉。

 ……扉の前で一つ呼吸して、ゆっくりと少しだけ開けて、中を覗く。


 そこそこ広い室内の中に………………とりあえず、魔物の姿はない。

 室内に侵入。

 奥に続く扉があって、目立つモノはただ一つ。

 中央付近に台座があるだけ。


 ……嫌な、いや、面倒な予感。

 デジャブというか、なんか見た事ある、この光景。

 台座に近付くと、本が置かれていた。


⦅開きましょう⦆


 簡単に言ってくれる。

 でも開かないと進めないだろうし、開くしかない。

 でもその前に奥の扉を確認。

 ……開かない。


 もしかしてと思いつつ、入って来た扉も確認。

 ……やっぱり開かない。

 ………………よし。前回と一緒。わかっていた。


 仕方ないので本を開く事にする。

 本は黒い表紙だった。

 ペラッと開くと黒い本から黒い煙が立ち昇り、それが筋骨隆々な人型の男性を形作っていく。

 現れたのは、頭に角があり、上半身は裸で下半身は腰みので、足は煙となって黒い本と繋がっていた。


「ぐはははははっ! 本を開い」


 バタンッ! と即座に黒い本を閉じると、煙が霧散して筋骨隆々の何かが消えた。

 そのまま黒い本が開かないように上から押さえていると、ジタバタと暴れ出す。

 くっ……この……。

 俺の手を弾いて黒い本が勝手に開かれ、先ほどの筋骨隆々の男性が現れる。


「馬鹿野郎っ! 殺す気か!」

「え? 今ので死ぬんですか?」

「よく見ろよここを! 呼吸器があるだろ!」


 筋骨隆々の男性が、黒い本の表紙が見えるようにめくり、表紙の一部を指し示す。

 ……え? どこ?

 見ても全然わからなかったので、苦笑いを浮かべて曖昧にする。


「って、その髪色、表情、体型………………兄弟ブラザーか!」

「誰がブラザーだ!」


 やっぱりこいつだったか。

 えっと。


「………………」


 顎に手を当て、悩む。


「………………」

「………………」

「………………ウーノだ!」

「あぁ! そうそう! うん。今言おうとしていた! 間違いない!」

「それは嘘だな! ずっと悩んでいたではないか!」

「悩んでいたのは事実だ。だが、そっちが『ウ』と言った瞬間に俺も『ウ』を、残りの『―ノ』も言った瞬間に俺も『―ノ』と思い出した。つまり、そっちが言い出したのと同時に思い出した、という事になる。つまり、嘘ではない」

「異議あり! それはつまり、我が言った事によって瞬間的に反応しただけだという事だ! なので、我が名乗らなければ未だ思い出していない可能性がある!」


 本の魔物――ウーノがそう言って、器用に台座の上で四つん這いになって落ち込んだ。

 名乗ってなければまだ思い出していないかもしれないと思った訳ね。

 多分、正解……じゃなかった。

 さすがにその姿は……見ていると慰めたくなる。


「ごめん、ごめんって」

「謝るなよぉ……それだと事実だって認めたようなモノじゃないか……」

「いや、まぁ……その、ね。ほら、それは一旦置いておいて、元気出して。ねっ! や、やり直そう! ほら、もう一回! さっきのはなしにして、気持ちよくやり直そう!」

「………………」


 少し考えたあと、ウーノが頷く。

 という訳で、まずは一旦距離を取る。

 その間にウーノの方は自分の両手を見ながら、何やらブツブツ言って、最後にグッと拳を握った。

 気持ちを立て直したのかな?


⦅茶番は終わりましたか?⦆


 いや、茶番って! 辛辣!

 でも申し訳ないですが、もう少しだけ続くかと。


⦅まぁ、それは観客気分で見ていますので別に構いませんが、今回は時間にも気を配って頂けると助かります⦆


 はい。全くもってその通りで。

 ウーノは俺が慰めたけど、俺は誰に慰められれば……。


⦅それと、前回も言いましたが、やはりその通りであると今は確信を得ています⦆


 何が?


⦅目の前の魔物とマスターは似ている。つまり、同類であると。馬が合う、とも言えますね⦆


 それはちょっと……。

 そんな感じでセミナスさんと話していると、ウーノが両腕を使って大きく丸を作る。

 心の準備が出来たようだ。

 こっちも大丈夫と親指を立てて見せる。


「ぐはははははっ! 本を開いた愚か者よ! 我を倒さぬ限り、ここから出ら」

「出られないんでしょ? うん。知っている。さっきどっちの扉も確認した……じゃなくて、そうだったのか! だから扉が閉まっていたのか!」


 危なかった。

 ちょっとスピードアップを狙って先回りして言うと、急にウーノが落ち込むんだもんな。

 そういえば、防御力が紙装甲って言っていたのを思い出したけど、もしかして、心の防御力も紙装甲なのかな?


 ……これまでを振り返るとあり得る。


「で、えぇと、今回も前回と同じく?」

「そう! 本とは知識の宝庫! 知識とは頭脳! だがそれだけでは足りないという事を、我は前回の経験を経て知った! 故に猛勉強し、更なる深淵の知識を得た! さぁ、兄弟よ! 我が出題する問題に答えられるかな? もちろん、正解なら通行可! 不正解なら帰り給え!」


 ウーノが両腕を広げてそう言う。

 なるほど。勉強してきた訳ね。

 それは楽しみだけど、その前に。


「とりあえず前回の時は詳しく聞かなかったけど、帰り給えって帰れるの? 扉、閉まっているよね?」

「我は施錠開錠が得意だ。開ける事など造作もない」


 そう言うウーノの手には、テレビや漫画なんかでよく見る開錠道具が握られていた。


「……んー、思っていたのと違う」

「思っていたのとは?」

「魔法……とか?」

「あぁ~、うん。そっちね。はいはい。魔法魔法。そっちも出来るから」


 そう言いながら、ウーノが開錠道具を消す。

 ……なんか嘘っぽいな。

 でもあんまり追及し過ぎると、また落ち込むかもしれないし、やめておこう。

 問題なのは、これから行う事だ。


「それじゃ、早く問題を出してくれ。さっさと答えるから」


⦅負けません⦆


 セミナスさんが、メラッとやる気に満ちている。

 でも一つ確認したいんだけど、その「負けません」発言は、ウーノに対してだよね?

 俺に対してじゃないよね?


⦅そうですね。一つだけ言える事は、マスターの得意分野が一つ消えても、気にする必要はありません。他にもありますので⦆


 どうやら、俺もターゲットに入っているようである。

 でもまぁ……元々そう簡単にやられるつもりはないけど。

 だがウーノは、俺に向けてチッチッチッと指を振る。


「だがしかぁし! 場には場のルールというモノが存在している!」

「はぁ、ルール?」

「残念な事に、この場は知識を競う場ではない!」

「……じゃあ、何を?」

「身体だ!」


 ……自分とウーノの体を確認する。

 ヤバい。負けるかもしれない。

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