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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第六章 獣人の国
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時には認める事も重要です

 目的地は、獣人の国の王都から馬車で進んで約三日かかる場所。

 地図上に目的地を丸で囲む。

 馬車に関しては、ウルルさんが用意してくれた。

 となると御者も必要である。


 王城の門前。

 用意された馬車を前にして、俺、エイト、ワンが集まり、まだ出発していない。

 俺はスッと手を上げた。


「御者は俺がや」

「エイトと姉に任せて下さい」


 頑なな態度のエイト。

 ワンもそれで問題ないと頷いている。

 いやいや、待て待て。


「大丈夫。御者の作法は、ラメゼリア王国を出た時から、少しずつインジャオさんに習っているし」

「そういう問題ではありません」


 じゃあどういう問題?


「ご主人様は、エイトと姉のご主人様です。ご主人様に御者をやらせるなど、メイドとして許容出来る行為ではありません。ましてや緊急時ではなく、このような通常時において」


 でも、折角習ったし、出来ればやってみたいんだけど。


「というか、主が方向音痴だから任せられないんだろ?」


 ワンがそう指摘してくる。

 エイトがそれは秘密です、と唇に人差し指を当てて、ワンに見せた。

 しまった! とワンが口を押さえる。


 なんかどことなくだけど、演技臭い。

 えーっと、茶番?


「なんで最初からそう言わないの?」

「ご主人様が方向音痴だという事を気にしていましたので、そこに触れず、別の方向から諦めさせようと試みてみました」


 その気遣いが心に痛い。

 でも、そもそも間違えている。


「違いますぅ! 方向音痴じゃありません~! 全く何度言えば」

「獣人の国の領土は魔族の国の領土と同様に、自然に溢れています。特に森林が多く、緑に溢れていると言っても良いでしょう。そこでお聞きしますが、ご主人様は森の中で正しい方向を進む事が出来ますか? もしくは、進んでいた道が通行不可のため遠回りをしたあと、正しい道に戻る事が出来ますか?」


 ………………。

 ………………。


⦅諦めましょう、マスター。これに限って言えば、私も擁護出来ません⦆


 諦めないで!

 いや、待って……セミナスさんが導いてくれれば問題ないんじゃ?


⦅もちろん、私なら可能ですし、正しい進路を選択する事が出来ます。ですが、これはそういう解決策を求めての事ではありません。重要なのは、マスターがきちんと正しく自分を認める事です。マスター、認めましょう。心を解放して重石を取るのです。楽になりましょう⦆


 ……くっ。味方が居ない。

 ………………。

 ………………。

 大人しく、御者はエイトとワンに任せる事にした。


「ご主人様がエイトに屈した記念すべき瞬間です」

「屈してないから!」


 そんな感じで出発した。

 御者台にエイトとワンが行き、馬車の中は俺一人。

 ……寂しくなんてない。



 でも時間が出来たので考える。

 セミナスさんが示した場所に辿り着くのは、約三日後。

 そして武闘会の開催は六日後。


 ……あれ? 時間なくない?


⦅はい。今回はギリギリですので、行動は迅速にお願いします⦆


 はい。

 という事は、御者はさっさと諦めるべきだった?


⦅いえ、そこら辺の絡みは全て組み込んだ上での行動日程ですので問題ありません⦆


 それはそれでちょっと……。

 でもそれって、黒い神殿内……つまり、結界内での正確な経過時間は組み込まれていないよね?


⦅はい。さすがに結界内の事までは見えませんので。ですが、取れるだけの時間配分を取ってはいます。その上で、武闘会に間に合うと判断しました⦆


 それってヘタをすると……たとえば神様解放に手間取れば、武闘会に間に合わないんじゃ?


⦅その可能性はあります。ですが、それでも同盟再強化については問題ありません⦆


 アドルさんたちが上手くやってくれる訳ね。

 それなら俺も気が楽だ。

 ……あれ? でもそれなら、俺って別に武闘会に出なくてもよくない?


⦅それだとマスターがいつまでも弱いと侮られたままです。それに、そろそろマスターも自分がどこまでやれるようになったかを知るべきです。ですがこれは調子に乗れという事ではなく⦆


 正しい認識をしろって事でしょ?

 わかっている。

 そもそも、未だに鍛錬相手をして貰っているインジャオさんに、文字通り手も足も出ないのだ。

 そんな状態で調子に乗れとか、無理。


 それでも武闘会に参戦して、それなりの結果が出て俺が強いという事になったとしても、それはセミナスさんが一緒に戦ってくれるからこそだと、俺はそう考えると思う。

 まぁ、そもそもその武闘会に出れるかが、今微妙なんだけど。


 セミナスさんはやる気だし、きちんと間に合わせないとね。

 頑張るぞ、おー! と両腕を上げる。

 瞬間。車輪が大きな石にでもぶつかったのか、馬車が大きく跳ねた。

 その揺れで体勢を崩し、上げていた拳が馬車内の椅子にぶつかる。


 ……くっ。痛い。

 暫くの間、ぶつかった拳を押さえて馬車内でゴロゴロした。

 誰も居なくてよかったと思おう。


 ………………あれ?

 馬車内と御者台の間にある小窓が開いている?

 あと目の錯覚かもしれないけど、そこからエイトとワンがこっちを見ているような……。


 あれかな?

 馬車が結構揺れたから、様子を見ようと小窓を開けたのかな?


「その通りです、ご主人様。そして良い光景でした」

「あははっ! ゴロゴロ転がる姿は愛嬌があって面白かったぜ! 主!」

「いいから前見て運転しろ」


 わき見運転駄目! 絶対!

 馬は勝手に避けるだろうけど。

 ピシャリと小窓を閉めて、両手で顔を覆って丸まった。


     ◇


 そして、出発してから大体三日経ち……目的の場所に辿り着く。


「地図上だとこの辺りですが、間違いはありませんか?」

「うん。間違いない」


 エイトの問いに、正解だと答えた。

 エイトとワンには見えていないだろうが、俺にはハッキリと見えている。

 少し小高い山の麓……そこにある森の中に、黒い神殿があった。


 そこに黒い神殿があると説明。


「へぇ~、そんな結界が張られているのか」


 ワンが結界の向こうに消えて、つまらなそうな表情を浮かべて戻って来た。


「ちぇ、本当に入れないのでやんの」


 そういえば、ワンにとっては初めての事か。

 そう思っていると、ワンが俺のところに来て、わかっているのか? とでもいうように指差してくる。


「あたいと妹が入れないってのは本当のようだし、気を付けろよ、主」

「う、うん。心配してくれてありがとう」

「当たり前だろ! 主はあたいの主なんだからな! もし魔物が居たら、外まで連れて来い! あたいがぶっ飛ばしてやる!」


 ……それを楽しみにというか、望んでいる訳じゃないよね?

 でもどうなんだろう?

 武闘会に間に合うのなら、そう時間がかからないって事になると思うんだけど……。

 まぁ、行ってみないとわからないのは確か。

 軽く準備運動をしてから、黒い神殿に向かう。


「それじゃ、いってくる」


 振り返ってそう言うと、既にティーセットが用意され、エイトとワンは寛いでいた。


「ただ待っているのも暇だし、これを飲んだら魔物でも狩ってくるか」

「金になりそうなのでお願いします。ご主人様との将来のための積立金にしますので」

「……冷める前に戻って来るからな!」


 ビシッ! と言ってやった。

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